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292/373

292 突入




 私とイーリアを乗せて、海を走るモーターボート。

 入江の中心、海の中から飛び出した浮き島が次第に近づいてきた。

 数百メートル上空に浮かんでる巨大な岩のかたまり。

 あの中に海底洞窟がまるまる閉じ込められてるわけだ。


「巨大ですね……。こんなものを一夜にして作り上げるとは……」


「トゥーリアの魔力、わかっちゃいたけど規格外だね」


 それでいて、こんなもの作ったくせに消耗の一つもしてないんだろう。

 バケモノなのは精神性なかみだけにしとけっての。


 さて、目の前まで迫ったあの島。

 ほぼ全てがトゥーリアの魔力で作られたシロモノだ。

 島一つ、丸ごとヤツの武器って言っても過言じゃない。


 浮かんでるおかげで空でも飛べなきゃ近づけないし、それどころか上陸したとたん、砂に取り込まれて殺されかねない。

 ヤツの魔力で作られた砂や岩は私の魔力を受け付けないから、【沸騰】で溶かすこともできないし。

 じゃあどうするか、だけど……。


「コレが無かったら途方にくれてたかも」


 カバンの中から一切れのメモを取り出す。

 クイナが書いてくれた敵の情報、その一つ。

 浮上した島についての詳しいデータと、今回の作戦がパターン別にいくつか書かれてる。


「コレによると島の上半分に、元の地形――つまり海底洞窟が収まってる」


 その下はトゥーリアの作った砂岩だけの危険地帯。

 けど、そこなら自然の地形が残ってる。

 いきなり取り込まれる心配しなくていいし、私の魔力も通してくれるはず。


「何より赤い岩もそこにある、と」


「そう、攻めるなら上からだ」


 島の底面から突っ込んだら詰み。

 一番上から奇襲をかけろって、クイナが答えを示してくれてる。

 情報がなくても見破れた可能性はもちろんあるけど、見抜けなかった可能性の方が高いよね。

 何より目標の位置がわかるのがホントにありがたい。

 ところでイーリア、さっきから話を合わせてくれてるけど。


「クイナのこと、しっかり信じてくれるんだね。さっきはあんなこと言ってたのに」


「……刃を交えた時、彼女の剣からは悲しみが伝わってきました。しかし、先ほどのセリア殿からは感じなかった。それに、あの勇者殿がここまで信頼しているのです。だったらもう、疑ったりはしませんよ」


「……そっか。ありがと」


 疑われても仕方ないのに、私の友達を信じてもらえた。

 なんか、うれしいな。


「勇者殿、今少し笑いませんでした?」


「……は? 気のせいでしょ。それより、島はもうすぐ目の前――」


 ズドドドドドドドッ!!


 言い終わる前に、浮き島の壁面から大岩が放たれた。

 メロちゃんのロックブラストよりもずっと大きい、文字通りの大岩が、視界を埋め尽くす勢いで次々に発射される。

 もちろん狙いも正確。

 ほとんどの岩が進路や退路を塞ぐように散らされて、残った一部の岩が私たちの乗ったモーターボートめがけて正確に飛んでくる。


「っと、いきなり手荒い歓迎だね」


「勇者殿、わたしにまかせてください。豪破削断刃ゴウハサクダンジンで、行く道を斬り開いてみせます!」


「……いや、まだ温存しといて」


 消耗の大きな大技だもん、こんなことに使わせてらんない。


「それよりも、しっかり掴まっといた方がいいよ。下手すりゃ舌噛みちぎるハメになるから」


「は……?」


 忠告したからね。

 ボンヤリ突っ立ってて振り落とされても知らないよ。


 モーターボートのスピードを一気に引き上げながらハンドルを思いっきり左右に切り、グネグネ蛇行させておっきな岩を回避。

 着水した岩が水柱を立てる中、後ろの方でバランスを崩したイーリアが尻もちをついた。


「ゆ、勇者殿……! 運転が荒いです!」


「だから掴まっとけって言ったじゃん」


 なんか文句言われたけどさ、そんな筋合いないじゃんね。

 だから私は右の耳から左の耳へ流しつつ、【水神】の魔力を練り上げる。

 この海面から浮き島のてっぺんまで届くほどの、今までで一番長い水龍を生み出すために。


「い、いつまで蛇行運転続けるつもりですか!」


「あと一秒くらい……よし、完成。出ろ、水龍!」


 魔力充填完了。

 一気に解き放って大量の水を呼び出し、固めて、雲まで届くほどの長さの水龍を生み出した。


「おぉ、なるほど! これで岩を弾いて――」


「だからしゃべんなって。そんなに舌噛みちぎりたいの?」


「……はい?」


 今度も忠告したからね。

 水龍を操作してやらせるのは、防御でも攻撃でもない。

 進行方向上の海面にしっぽをひたして、水路になってもらうことだ。


 体が蛇みたいにとぐろを巻いて、頭がにらむ先には浮き島の頂上。

 よし、この位置ならバッチリ。


「ま、まさか……」


「そのまさか。振り落とされないでよ」


 スピードを全開にして、尻尾から胴体へ。

 全速力で水龍の体の上を駆け上がる。

 大岩が次々にボートのスレスレを飛んでいくけど、そんなの気にしてらんない。

 当たった時は当たった時だ。


「む、ムチャですよ、こんなの! と、言いますか、その……、わたし高いところはあまり得意では……!」


「黙っててってば」


 螺旋状の水路を駆け上がって、海面はもうはるか下、浮き島と同じ高さまでやってきた。

 龍の頭ももうそろそろだ。


「イーリア、奥義の準備して」


「お、奥義ですか?」


「あんたのごんぶとな練氣レンキの剣で、島の表面に穴開けろって言ってんの」


 そうすりゃ海底洞窟ゾーンへ一気に侵入できる。

 うまくすれば敵を巻き添えにできるかも……とか、そこまでうまくいかないか。


「い、いきなり言われましても――」


「早く。もう飛ぶから」


 言った瞬間、ボートが水龍の頭まで到達。

 ジャンプ台みたいに空中へ飛び出した。


「う、おわああぁぁぁぁぁぁ!?」


「……ねえ、早くってば。岩壁に激突して死にたいわけ?」


「わ、わかりましたよ! やればいいんでしょう、やれば! 奥義、魂豪身コンゴウシンっ!!」


 半泣きで騎士剣を抜きながら立ち上がったイーリア。

 その全身が練氣レンキのオーラに包まれて、刀身にまるで柱みたいな長さ数百メートルのぶっとい練氣レンキの刃をまとう。

 そうだよ、やればできるじゃん。


 さて、浮島はもう目の前だ。

 近づきすぎたせいで、直撃コースの岩も大量に飛んできてるけど問題ない。


「いきます!! 練氣レンキ豪破突ゴウハトツ!!!」


 へっぽこ女騎士が、やけくそ気味に叫びながら剣を突き出した。

 巨大な練氣レンキの刃が飛んでくる岩の弾丸を全て粉砕、さらに、


 ガガガガガガガガガッ!!!


 てっぺん付近を文字通り削岩。

 岩壁に大穴が開いて、内部の海底洞窟があらわになる。

 よし、作戦大成功。


「はい上出来。このまま飛びこむよ」


「えぇもう、どこまでもお供しますとも!!」




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― 新着の感想 ―
[良い点] トゥーリアは謂わば、強化版タルトゥス軍みたいなポジですね。鬱陶しくも劣悪な内面と行動で、実力自体は一流という「うざったい中ボス」…いえ、敵組織の中では四天王とかのポジションなので大ボス扱い…
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