257 対面
リーダーが生きてることは知ってても、ここで会うとは思ってなかったのかな。
突然すぎて心の準備ができてなかったのか。
なんにせよ、ギリウスさんはリーダーの顔を見つめたまま固まっていた。
一方、何がなんだかわかってない様子のリーダー。
ケルファも似たような感じだ。
ともかく、リーダーが魔物を倒したおかげで安全は確保されたんだ。
剣を納めた私は、一目散にベアトたちのところへ。
ベアトは泣きじゃくってるリフちゃんを、クイナと一緒に慰めていた。
「ベアト、大丈夫だった?」
「……っ」
コクリとうなずくベアト。
確かに顔色もいいし、むしろ今大変なのはリフちゃんの方かな。
「……ん? アンタの顔——」
二人の方に目をうつすと、リーダーが何かに思い当たった様子で呟いた。
もしかして、ギリウスさんのこと思い出したのかも。
「兄さん、知ってる人?」
「いや、知らねぇが……」
残念、思い出せてなかったか。
ケルファが兄さんって呼んだとき、ギリウスさんの眉がピクリと動いたのが、少し気になった。
「知らねぇがアンタの人相、いで立ち。キリエちゃんから聞いていたのとそっくりなんだよな。まさかアンタ、俺のアニキか?」
あぁ、それで引っかかってたのか。
ギリウスさんとストラの人相、あらかじめ教えてたからね。
「……信じていないわけではなかったが、本当に記憶がない、か。改めて突きつけられると来るものがあるな」
大剣を背中に納めて、ギリウスさんが少しの間だけ心を落ち着かせるように目を閉じる。
それからリーダーに歩み寄って、右手を差し出した。
「俺はギリウス・リターナー。覚えていないだろうがお前の兄だ。バルジ、よく生きていてくれたな」
「……あぁ。俺のアニキ……なんだよな?」
その手をリーダーが握り返して、二人はガッチリと握手をかわす。
「心配かけたみてぇだな。俺ぁこの通り、ピンピンしてるからよ」
「何よりだ」
リーダーのこと、ギリウスさんに話しておいてよかった。
もしも知らないままだったら、こんな風に素直に再会を喜べなかっただろうな。
ガサガサっ。
その時、またも茂みが揺れる音。
一瞬だけみんなに緊張が走るけど、草木をかき分けて現れたのは、
「騎士団長、ここにいましたか——おぉ、その方は!?」
スティージュの国旗のマークを胸につけた、鎧姿の騎士さんだった。
ギリウスさんの部下の人かな。
リーダーの顔を見て、目を丸くしてる。
「そ、それに勇者様たちも……。団長、いったい何が……」
……そういえば、なんでギリウスさんが王都の近くで魔物退治なんてしてるんだ?
さっきの魔物も、この辺にいるはずない強力なヤツだったし……。
「事情はあとで話す。周囲の魔物は掃討したか?」
「はっ、おおよそ討ち果たしました!」
「よし、団員をまとめて森の外へ集めておけ。勇者殿らとともに、これより王都へ帰還する」
「了解です!」
命令を受けた騎士さんが森の中へ走っていく。
このへんにスティージュの騎士団が大勢来ているみたいだ。
「ギリウスさん。いったい何が起こってるの?」
「話せば長くなる、移動しながら説明しよう。こちらも聞きたい話は積もりに積もっているし——」
ギリウスさんはそこでいったん言葉を区切って、ディバイさんやケルファ、リフちゃん、それからクイナと順に見回した。
「増えたメンツについても、紹介してもらいたいな」
「あんま口が回らねぇヤツもいるからよ、俺から紹介してやるぜ。あー、と……、ギリウスさん、でいいか? 初めて会った相手をアニキって呼ぶのも、抵抗があってよ」
「……かまわないさ。今は、な」
そんな風に返しつつも、ギリウスさんの目はどうしようもなく寂しそうだった。
「……さて、参ったな。俺はいいとして、ストラにはどう伝えたものか」
「スティージュに帰るまでに時間あるでしょ。それまでじっくり——」
「そうもいかん。対策を練る猶予は数時間ってところだ」
「……いるの? 王城に来てるの?」
ギリウスさんがうなずいた。
わー、ソイツは大変だ。
〇〇〇
王都に移動する間、私たちはお互いの情報を共有。
デルティラード盆地に異変が起きてることを、その時初めて知った。
私たち、相当危ないことしちゃってたみたいだね。
さて、ストラについてだけど。
正式な謁見でいきなりリーダーと会わせるのはショックがデカすぎるってことで、まずは非公式に、ペルネ女王立ち合いのもとで顔合わせをすることになった。
女王の私室に、まずは私とベアト、メロちゃんにトーカの四人だけが通される。
「キリエ、おかえり! 無事だって聞いてたけどさ、顔見ると安心するよね」
「うん、ただいま」
「それだけ? 相変わらず無愛想だな」
そうは言うけどね、両手をにぎられてブンブンされて、どんなテンションで返せばいいのさ。
「ベアトも、大変だったみたいだね。でももう安心なんでしょ?」
「……っ」
ストラに笑いかけられて、ベアトもにっこり。
すこしだけ困り眉なのは、ストラのテンションに押されているのか、それともこの後のことを心配しているのか。
「トーカさん、以前お知らせに来てくださった時は、直接言葉を交わせませんでしたね。改めてお礼を言わせてください」
「いやいや、女王様からお礼だなんてとんでもない」
「ダメですよトーカ、ここは遠慮せずに受け取るものです」
「偉そうだな、お前……。まあ、メロの言うことも一理あるか」
ペルネ姫の方は、トーカとメロちゃんとお話してる。
場がとっても和やかになったところで、いよいよリーダーたちの登場だ。
なんかもう緊張で背中から変な汗が噴き出してきた。
「ところでさ、今回の戦いに力を貸してくれた人たちがいるんだよね。そのうちの何人か、連れてきてるんだけど……」
「まあ、そうなのですか? ベアトさんの恩人ですね」
「な、なんで待たせてるの! 失礼でしょ、ほら、すぐ入ってもらって!」
言ったね、ストラ。
自分で言ったんだからね。
「……こほん。ギリウスさん、お願い」
「客人方、どうぞこちらへ」
廊下にスタンバイしていたギリウスさんが、部屋の扉を開ける。
彼を先頭に、クイナ、リフちゃん、ディバイさんと入ってきて。
最後にケルファといっしょに入室してきた、その人の顔を見た瞬間、ストラの笑顔が凍りつく。
「……うそ」
ストラは大きく目を見開いて、それからリーダーのところに走っていった。
目の前までいって、足の先から顔まで眺めて、
「兄貴……なの?」
最後におそるおそる問いかける。
リーダーは気まずそうに後ろ頭を掻きながら答えた。
「……あぁ、まあ。俺ぁたしかにバルジ・リターナーだよ……」
「兄貴……、ホントに兄貴だ……。生きてたんだ、よかった! 今まで何してたの!?」
幽霊でもなんでもない、本物のリーダーだって、やっと確信が持てたのかな。
ストラ、目尻に涙を浮かべてる。
事情を知らないペルネ姫も、感動の涙をうっすらと浮かべてるけど……。
(事情を知ってる他のメンバーは、ね……)
みんなこのあとが怖くって、ハラハラしっぱなしだよ。
……ただ、ケルファだけは少し違う感じだ。
なんだか、居心地が悪そうっていうか。
「あぁ……、と。ストラちゃん、だったか?」
「……はい?」
聞いたこともない呼び方をされて、ストラはおかしなモノでも見るような目をリーダーにむけた。
「な、なにその呼び方。気持ち悪いんだけど……」
「確かにキミは、俺の妹みてぇだな……。けどよ、俺には記憶が無いんだよ」




