164 決別
本日、天気は大雨。
朝から分厚い雲におおわれて、いかにも雨季って感じ。
戦いが終わって数週間、デルティラード王国を取り戻してからの政務の引き継ぎが、ようやくひと段落。
王都の住民たちも落ち着きを取り戻して、ペルネ女王の下で平和な日常を満喫しているみたい。
となれば、やるべきことは一つ。
スティージュ勢とバルミラード勢、それからコルキューテの皆さんが帰る前に、主要人物を集めての大事な話し合いだ。
広い会議室の中、大きな円卓を囲んで座る私たち。
私のとなりにはベアトが座っている。
この子がこの場にいることを不思議がってるっぽい人もいるけど、ベアトはものすごい重要人物。
今までずっと秘密にしてきたけど、それもこの場でぶっちゃけるつもりだ。
「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます」
「ペルネ、前置きはいい! とっとと始めようぜ!」
ペルネ姫のあいさつから始まろうって時に、バルバリオが横やり。
そのとなりでカミルもうんうんうなずいて、サーブさんが頭をかかえている。
うん、いつものバルミラード組だ。
その他の参加者は、スティージュからストラとギリウスさんにレイドさん。
コルキューテからリアさん。
ペルネ姫のとなりには、本来ならイーリアがいたはずなんだけど、アイツは旅に出たらしい。
思いつめておかしな行動に出なかっただけ、よかったのかな。
「……こほん、ではまずタルトゥス軍との戦いの詳細を——」
最初に始まったのは、タルトゥスとの戦いの様子を細かく話すっていうもの。
誰がどれだけ手柄を立てたかとか、それぞれの勢力が出した戦果を、細かく確認してすり合わせなきゃいけないみたい。
あんまり説明とか得意じゃないのに、きっちり事細かに伝えなくちゃいけなくって参ったよ。
まあ、ギリウスさんやリアさんが大体のことを話してくれたんだけど。
「——デリスト砦陥落まで終わりましたね。では、次の議題に移りたいと思います」
タルトゥスを討ち取るまでをまとめ終わって、さあこのタイミングだ。
私しか知らない最後の戦いを、アイツの正体を、みんなにしっかり伝えなきゃ。
「ちょっと待って。まだ最後の敵が残ってる」
「最後の敵……ですか?」
ペルネ姫が不思議そうに首をかしげた。
他の人たちも、私が大ケガしたことを知ってるギリウスさん以外はおんなじ反応だ。
「なんだそれは!! 俺は聞いてないぞ!!」
「僕も初耳だ! タルトゥスの他にも敵がいたなんて聞いてない!!」
まっさきに食いついてきたアホ二人は置いとくとして。
「……ねえ、ギリウスさん。あの戦いが終わってから、ジョアナはどうしてる?」
「ジョアナか……、そういえば見ていないな。しかしアイツのことだ、情報収集のためにどこかへ行ってても不思議じゃないが……」
「あれ、大兄貴も知らないんだ。レイドさんはなにか聞いてる?」
「残念ながら、僕も知らないね。スティージュからこっちに来て以来、彼女のことは見ていないよ」
そうだろうね。
みんなジョアナがどうなったか知らないんだ。
アイツの正体を知らずに、今も信じられる仲間だと思ってる。
……少し前までの私みたいに、アイツを信じ切ってるんだ。
「キリエ、その様子だと知っているみたいだが、聞かせてもらえないか? ジョアナは今、どこでなにをしているんだ?」
「……ジョアナは今——」
だから、全部知ってる私が教えなきゃ。
教えなきゃいけない。
いけないのに……。
「今……」
そこで詰まってどうすんだよ、キリエ・ミナレット。
ジョアナと決別するって、決意したはずだろ?
「……っ」
「……ベアト」
ベアトがそっと、私の手に手を重ねて微笑んでくれた。
ベアトも詳しい事情を知らないはずなのに、頑張ってくださいって励ましてくれた。
この子の温もりで心がとけて、自然と勇気がわいてくる。
ありがとう、キミには助けてもらってばっかりだね。
少し息を吸い込んで、私は一気に真実をぶちまけた。
「……ジョアナは今、地面の底で煮られてるよ」
……言っちゃった。
これだけじゃ、まだなにがなんだかわかんないだろうけど、ね。
「な……っ!?」
珍しくうろたえるギリウスさん。
なにが起きたかまでは話してないベアトも、びっくりして目を丸くしている。
「……キリエ、どういうことだ? 詳しく説明してもらおうか」
「……ジョアナ、これがアイツの本当の名前かどうかは私も知らない。だけど、他にどう呼ばれていたかは知ってる。きっとみんなも知ってるよ」
みんなの視線が私に集まる。
少し怖いけど、ベアトにもらった勇気をふりしぼって。
「神託者ジュダス、それがアイツの正体。ブルトーギュをそそのかして私の村を襲わせた最後の仇。私たちに正体を隠してタルトゥスとつながってた、敵だ」
さようなら、ジョアナ。
アンタの正体、しっかりみんなに伝えたよ。
これでアンタとは、本当にお別れだね。
私、もう二度とアンタを仲間だと思わないよ。
「神託者……だと……っ!」
「うそ、ジョアナさんが……っ」
「あの方が、神託者ジュダス……?」
さすがにみんなびっくりするよね。
簡単には受け入れられない。
ベアトも両手で口元をおおって、固まっちゃってる。
私が元気なかった理由にも、ようやく納得いったみたいだ。
「……ま、まいったな……。どこから受け止めればいいのか……」
片手で額をおさえるギリウスさん。
「……ジョアナさん、信じてたのに……っ」
軽く涙ぐむストラ。
「あの方が、父と手を組んでいた神託者……」
ペルネ姫も、かなりショックみたいだ。
「……勇者様、貴重な情報をありがとうございました。神託者との戦闘、よくぞご無事に切り抜けられましたね」
でも、さすがは女王様。
すぐに気を取り直して、場を仕切り直す。
ジョアナとの付き合いがほとんどないから、その分のショックが薄かったのもあるだろうけど。
「では、今度こそ次の議題に移りたいと思いますが——皆さま、休憩は必要ですか?」
けど、ジョアナと関係の深かったスティージュ勢のショックは大きい。
ペルネ姫が会議の中断を提案するくらいには。
「……いいえ、ペルネ陛下。続けましょう。いいよね、大兄貴」
その申し出を断ったのは、なんとストラ。
毅然とした表情で、会議の続行を望んだ。
ペルネが女王になったから、同じ女王として負けてられないってとこだろうか。
「あ、あぁ、もちろんだ。陛下、続きを」
「……はい。では次の議題へ。これこそが今回の会議の本題ともなります。タルトゥス軍から奪った勇贈玉の、今後の扱いについてです」
円卓の上に、立派な宝箱が置かれた。
ふたが開けられて、中に納まっていたのは三つの腕輪。
【使役】【必殺】【魔剣】の勇贈玉がそれぞれハメ込まれた、今回の戦いの戦利品だ。
「皆さまも承知のことかと存じますが、勇贈玉はパラディの至宝。我らで管理することへの是非を、じっくりと話し合いたく——」
「話し合う必要などございますかな?」
その時、会議室に聞き慣れない男の声が響いた。
とっさに後ろをふり向くと、神官の服を着たつるつる頭のおじさんが入り口に立っている。
コイツが入ってきた気配、私なんにも感じなかったぞ。
ギリウスさんもびっくりしてるし、多分この人も気づかなかったんだろう。
コイツ、ただ者じゃない。
「……誰でしょうか。入り口に見張りを立てていたはずですが?」
「おっと、これは失敬。礼を失しましたかな? 私の存在に気付かなかったのでつい……」
まったく動じないペルネ姫もすごいけど、笑顔を崩さずに深々と頭を下げて見せたコイツときたら、うさんくささマックスだ。
まるでこっちを脅して、有利にコトを進めようとしているみたい。
「お初にお目にかかります。私はソーマ、パラディの神官をつとめている者。本日はタルトゥス軍に奪われた我が国の至宝と、行方不明になられていた貴きお方を引き取るため、まかり越しました」




