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156 双龍相打つ




 ヤツの右手に魔力が集まって、風の剣が形作られる。

 水を気流で乱しながら、本来は見えないはずの刃がはっきりと見えた。


(まず……っ、勝負を急ぎすぎた……っ!)


 ブルトーギュの時みたいに、致命傷を受けてでも無理やり【治癒】を抜き取ってコントロールを奪えば回復できる。

 ただし、奪う前に死ななければ。


 あの時、私は自分の体を犠牲にして、強引にブルトーギュの剣を抑え込んだ。

 だけど、実体のない魔力の剣に同じ手は使えない。

 奪う前に、間違いなく殺される。


 ゴボォォッ!!


 水がうなりを上げて、風の刃が突き出される。

 私の心臓をめがけて、最短で命を刈り取るために。

 すばやく体をひねって、狙いを急所から外す。


 ザクッ!


「ごぼっ……!」


 心臓は無事だけど、右のわき腹をざっくりいかれた。

 このままじゃまずい、いったん距離を離さなきゃバラバラに刻まれる……!


「……っぐ!!」


 神託者の腹をおもいっきり蹴り飛ばしながら、頭に刺さった剣を引き抜く。

 風の剣による横ぶりの反撃が、今度は私のふとももを深く斬り付けた。


「……っ!」


 たぶん骨まで届くくらいの深さだけど、このくらいで怯んでたまるか。

 続けて回し蹴りを食らわせて、ヤツを水龍の中から蹴り出す。


「ごばっ……!」


 バシャァッ!


 神託者が水の中から弾き出され、地面にむかって猛スピードで吹き飛ばされる。


(逃がすかっ!)


 空間を操作するような大技を使うヒマ、もう二度と与えない。

 休む間もない接近戦をしかけて、最後は四肢を斬り飛ばしてから、再生する前に【治癒】を引きずり出してやる。

 水の流れを操作して神託者の方へ飛び出し、水龍のコントロールを手放した。

 水がはじける音を背に、私の体は神託者にむかって一直線に飛んでいく。


「あっははっ! いいわよキリエちゃん、楽しませてくれるじゃない!」


 ヤツは風をあやつって、地面に激突する寸前でピタリと停止。

 ホバリングしたまま、右手をかざして風の刃を飛ばしてきた。

 風の下級魔法、ウインドエッジとそっくりの攻撃だ。


「この程度でっ!」


 剣で払って打ち消し、続けざまに敵へと斬りかかる。

 狙いは足、まずは動きを封じてからだ。


「本当に元気な娘ねぇ。お姉さん困っちゃうわ」


 敵が後ろへ飛んで、斬撃は空を切る。

 すぐに追いかけて、二度、三度と斬りつける。

 ホントは上空に逃げたいんだろうけど、コイツはもう飛び上がれない。

 なぜなら、さっき穴をあけた時に使ったマグマの龍たちがまだ生きてるからだ。


 アイツらを飛ばして目立たせておけば、お城の人たちが異常を察して監視してるはず。

 そんな状況で空に浮かんだら、信用第一なコイツの正体がみんなにバレちゃうもんね。

 お前が自分で自分の弱点言ったんだ、ざまーみろ。


「殺意むき出しねぇ。それじゃあ私も、殺しにいかせてもらうわっ!」


 斬撃を回避して後ろに飛び退いたわずかな間に、ヤツは魔力をチャージした。

 瞬間、私のまわりを突風がつつんで、風のドームが発生。

 その中心に閉じ込められた私へと、真空の刃が大量に襲いかかる。


「やばっ……」


 このまま中にいたら細切れにされる。

 脱出しようにも、ドーム竜巻につっこまなきゃいけない。

 のんびり地面を掘り進んだら、また低気圧空間を作られる。

 だったら……。


練氣レンキ堅身ケンシンっ!」


 気休めかもしれないけど、練氣レンキをまとって防御力を強化。

 両腕をクロスさせて急所を守りつつ、ダメージ覚悟で竜巻の壁に突っ込んだ。


「あーらあら、とことんガッツがあるわよねぇ。ホント頭が下がっちゃうわぁ」


 お前に褒められても嬉しくないっての。

 練氣レンキの防御を貫いて、風の刃が私の体のあちこちを切り刻む。

 そこら中に傷が走って痛い。

 痛いけど、それがどうした!


「こんなかすり傷で、私を止められるかぁぁぁぁ!!!」


 痛みを叫びで消し飛ばして一気に壁を突破、神託者に斬りかかる。


「一直線。まるでイノシシね。くすくすっ」


 体をそらして斬撃を回避しながら、ヤツはこっちを指さして小馬鹿にしたように笑った。

 なに余裕ブッこいてんだ。

 今すぐその腕斬り落として——。


 ズバァッ!!


「え——」


 私の右腕が、いきなり飛んだ。

 なにも無い空間だったのに、まるでそこには鋭い刃物が置いてあったみたいに、スパッと切れて、ゴロリと転がった。


「見えない風の刃、指さすフリしてこっそり置いてみたの。見事に引っかかってくれたわね。首じゃないのが残念だけど」


「っがああぁぁぁぁぁぁああぁぁっ!!!」


 頭の中身を直接殴られたみたいな苦痛、切り口から噴水みたいに飛び出す血。

 ダメだ、この痛みは気合でかき消せるレベルじゃない。

 目の前がチカチカして、口から勝手に絶叫が出てくる。

 それはつまり、敵の前で致命的なスキをさらしたってことで。


「じゃ、死にましょうか」


 神託者がナナメに腕をふって、はっきりと見えるレベルの、三日月状の真空の刃を放った。

 私の体を両断するには十分な大きさの攻撃が、猛スピードで飛んでくる。

 まずい、このままじゃ死ぬ……!


ケン……し、ん……っ!」


 体中の練氣レンキを全部絞り出して、胴体にかき集める。

 防御力を限界まで高めた直後、風の刃が激突。


「が……っ!!」


 右肩から左わき腹にかけて、刃が骨にまで食い込む。

 けど、そこでなんとか止まってくれた。

 気絶しそうな激痛の中、私は思いっきり血を吐き散らしてブッ飛ばされる。


「あぐっ、がっ、げほっ……!」


 ゴロゴロと地面を転がる私を見て、神託者がケラケラ笑った。


「あっはっはっ! どうやらここまでみたいねぇ。頑張ったごほうびに、思いっきり苦しめて死なせてあげるわぁ」


 ヤツが魔力を高めだした。

 また低気圧の空間を作るつもりだ。


「させ……、るか……っ」


 練氣レンキを使い果たしたせいで体が重いけど、腕と体が死ぬほど痛いけど、歯をくいしばって。

 上空を旋回してたマグマの龍を、神託者へめがけて飛ばす。

 同時に、【水神】の力で水の龍も生み出して、左右からはさみこむように。


「あらあら、苦しまぎれねぇ。こんなの簡単に避けられるわよ?」


 勝利を確信してるんだろうね。

 左右から襲ってくるマグマの龍と水の龍を、ヤツはヘラヘラしながら前へとステップして避けた。

 避けたつもりになった。


「さぁて、魔力チャージ完了。内臓破裂して死ぬ覚悟、できたかしら?」


「お前こそ……っ、バラバラに弾け飛ぶ覚悟……、できたかよ……っ」


「……なんですって?」


 最初っから、二つの龍をお前に当てるつもりはなかったんだ。

 龍の軌道は変えないまま、二つを正面衝突させる。


「ま、まさか……っ、あなたがどうしてこの現象をッ!」


 私、こういう現象とか詳しくないんだけど、【水神】に宿った勇者の魂が教えてくれたのかな。

 こうするといいって頭に浮かんだんだ。


 神託者が叫んだ瞬間、激突したマグマの龍の高熱で、水の龍の頭が急激に蒸発。

 ジュッ、という音とともに大量の水蒸気が上がって、次の瞬間。


 ドゴオオオォォォォォォォォォォォオオオォッ!!


 ヤツの間近で大爆発が起きた。

 ……水蒸気爆発、っていうんだ。

 教えてくれたの、たぶん【水神】の先輩勇者さんだよね。

 ありがとう。


 神託者の肉片があたりに飛び散って、そのうちの胃袋がベシャリ、と落下。

 そこからモコモコと、再生が始まる。

 早く抜き取らないと生き返っちゃうけど、ここから胃袋まで十五メートルくらい。

 今から走っても、ボロボロの体じゃ間に合わない。


「……一か八か……っ」


 残った左手ににぎった、真紅のソードブレイカー。

 コイツに大量の【沸騰】の魔力を流してブン投げる。

 胃袋だったものは、すでに胴体まで再生。

 頭が生えてきた瞬間、切っ先が神託者の心臓に突き刺さった。


「あぎああああぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁっ!!!」


 沸騰が始まって、汚い悲鳴が上がる。

 どうやらヤツもかなり消耗してるみたい。

 再生の速度と、【沸騰】が煮溶かす速度が釣り合って、神託者は四肢を再生できないでいる。


「……勝った……っ」


 この勝負、どうやら私の勝ちみたい。

 さぁ、あとは聞きたいことだけ聞いて、いよいよ最後の仇討ちだ。




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