155 【沸騰】VS【風帝】
キリエさんがどこにもいません。
パレードが終わって、私たち非戦闘員もお城にやってきました。
ギリウスさんやペルネ姫、皆さんとっても忙しそうにしています。
ベルさんはベッドに寝かされて、あとは目を覚ますのを待つだけです。
キリエさんも当然、お城のどこかにいるはずです。
だけど、いくら探しても見つかりません。
誰もあの人を見ていないって言うんです。
「どこ行ったんですかね、お姉さん。せっかく夕方から祝勝会だというのに……」
「……っ」
「……もしかして、アレかもです」
「……っ!?」
いっしょに探してくれてたメロさん、遠慮がちに口を開きました。
遠慮なんてせずに、早く教えて下さい!
「神託者ジュダス。結局、あの砦にいなかったですよね? だったら王都にいるか、もしくはとっくに逃げてしまったはずで、つまりお姉さんは神託者を探しに行ったんじゃないですか?」
「……っ!」
だったら大変です。
あの人とは、王都でリヴィアって人とキリエさんが戦った時、顔を合わせたことがあります。
フードで顔はよく見えませんでしたが、底しれない感じがしました。
底なしの魔力と、ぞっとするくらいの冷たい雰囲気を感じました。
「……っ、……っ!!」
早く探しにいかないと!
もし勝てたとしても、いつも以上にズタボロになって、すぐに治療しなきゃ死んじゃうような大ケガするかもしれません!
「……っ!!!」
「わ、っちょ! キリエお姉さんを探しにいくですか? わかりました、付き合いますから肩つかんで揺らさないで……」
メロさんがいっしょなら心強いです。
ついでにトーカさんにも頼みましょう。
あの人の魔導機竜なら、空から探せます!
ところがトーカさんまで、キリエさんと同じく見つかりません。
どうしましょう、キリエさん以外を探してる時間なんてないのに……。
「ベアト、メロ、浮かない顔してどうした?」
「ギリウスさん……。トーカがどこにいるか知らないです?」
「キリエの次はトーカか。アイツなら魔導機竜に乗ってスティージュとバルミラードに行ったぞ。戦勝の報せを一刻も早く届けてやりたくて、俺が頼んだんだ。特にレイドのヤツ、居残りでやきもきしてるだろうからな」
「そ、そうなんですか……」
どうやらトーカさん、もう王都にはいないみたいです。
ちなみにキリエさんのことは、さっき会った時に聞きました。
「どうするです? 王都の中はともかく、あたいらだけで街の外を探すの、ちょっと危ないですよ? ベアトお姉さん、狙われている身ですし……」
「……っ」
でも、とっても心配です。
いてもたってもいられないくらいに。
あの人、パレードに行く前、ちょっとだけ遅くなるって言ってました。
ちょっとって、どのくらいですか?
私が待てるくらいの、ちょっとなんですか?
それとも……。
「その調子だと、キリエはまだ見つかってないみたいだな。俺も手伝ってやりたいのは山々だが、やることが他にも山積みでな……。だが、兵士の数人ならどうにか都合がつくか……?」
「……っ!!」
「おぉ、ホントですか!? それなら——」
「ギリウス様、大変です!」
兵士さんが一人、顔色を変えて廊下を走ってきました。
なにかあったんでしょうか。
「どうした?」
「北の森の向こうから、マグマの龍が現れました! 新手の魔物でしょうか……!?」
「マグマの龍……? ソイツはまさか——」
「……っ!?」
「それって多分、キリエお姉さんの【沸騰】ですよ!」
そうです、間違いないです!
キリエさんはそこにいます!
きっとその場所で、神託者と戦ってるんです!
「伝令だ、手の空いてる兵士をすぐにかき集めろ! その龍は勇者殿の【ギフト】の力。おそらく彼女は今、神託者と交戦している! 至急捜索隊を編成し、彼女の救護にむかえ!」
「は、はっ!」
命令を受けた兵士さんが、来た時と同じくあわてて走っていきます。
「……っ、……っ!」
「ベアト、お前たちも捜索隊に加わりたいんだな」
「……っ」
こくこく、必死にうなずきます。
戦いを終えたあの人のケガを治すのは、私の役目です。
「……わかった。ただし、無茶だけはするなよ」
「……っ!」
「よかったですね、ベアトお姉さん!」
キリエさん、今行きます。
戦いじゃ役に立てないけど、戦いを終えたあなたの力には、なれるから。
だから最後の仇討ち、必ず勝って終わらせてください。
●●●
溶岩龍の攻撃をよけてる間に、あの子ったら姿を消しちゃった。
「あーらら、まんまと逃げられちゃったわね」
……って言っても、穴の中に逃げ込んだのはバレバレなんだけど。
あの子が私から逃げるわけがない。
いったん距離を取って、低気圧空間から逃れただけ。
きっと対策を練ってまたむかってくるわ、私を確実に殺すためにね。
いつもあの子はそうやって、格上の相手を殺してきたんだもの。
「……うふふっ、ここが正念場ってヤツかしら」
キリエちゃんの機転と底力、今まで近くで嫌というほど見てきたもの。
絶対にあなどっちゃダメ。
全力をもって殺しにいかないと。
体内の気圧を直接操作できれば一番早いのだけれどね。
残念ながら、いくら私の力があっても、相手の魔力に満ちた体内をいじるなんてムリ。
ズドオオォォォォォッ!
「……来たわね」
私の背後、地面の中から再び溶岩龍が飛び出した。
あなたのことだもの、二番煎じの攻撃じゃないんでしょう?
さぁ、見せてみなさい、キリエちゃん。
○○○
全長二百五十メートルの溶岩龍、第二号。
穴の底からコイツを地上へと打ち上げた。
コイツの狙いも、もちろん攻撃じゃない。
「これでよし、と」
大量に魔力を使っちゃったけど、私が今いる小さな地下空間から地上へ続く二つの穴ができた。
出口が一つだけじゃ、出てくるところを狙い撃ちされちゃうからね。
続いて巨大な水龍を二つ作って準備完了。
二つの水龍をあやつって、一気に穴を上らせる。
そして私は——。
●●●
出口を二つ作って狙いを分散させる、とか考えてるんでしょうけど、甘いわよ。
二つ出口があれば、二つともにワナをしかければいいだけ。
見えない風のカッターを、格子状に二か所、穴の出口に設置したわ。
これで、どちらから飛び出してきてもあなたは細切れのサイコロステーキ。
あっはは、いまからその光景が楽しみだわ。
ゴゴゴゴゴ……。
「さぁ、来たわね」
地響きが聞こえてきたわ。
どちらからくるのかしら。
どっちを選んでも末路は同じなんだけれど、ね。
ブシャアアァァァァァッ!
まず、私の前。
最初にあけた穴の中から水龍が飛び出した。
こっちにキリエちゃんはいない。
残念ながらハズレね。
ってことは、私の後ろかしら。
ズブシャアアアァァァッ!!
「……あら?」
こっちから上ってきたのも、水龍だけ。
さて、それじゃあキリエちゃんはどこに……。
なんて考えてたら、私の足下がひび割れて——。
○○○
二つの出口、どうせどっちにもワナが貼られてるんだろ?
そんなことはわかってる。
最初からどっちの穴も囮だ。
本命は、今掘り進んでいる三つ目の穴。
水龍の頭の部分にもぐって、噴き上げる勢いで穴を掘りながら神託者の魔力反応へと突き進む。
そして、一気に地表を突き破って飛び出した。
ドガァァァッ、ブシャアアァァァァァァァッ!!
「がぼぼぼばぼっ!?」
足元から飛び出した水龍がヤツを飲み込んで、
ドシュッ……!
突き出した真紅の刃が、ヤツの脳天をブチ抜いた。
全身を水龍の頭の部分にすっぽり包まれて、地上に飛び出した私。
気圧とやらに対して、体の異常はまったくナシ。
思った通り、【風帝】は空気を操作する能力。
つまり、水中にいれば影響が出ないんだ。
まぁ、もしあったとしても、神託者の脳天をおもいっきりブチ抜いてやったんだ。
魔力の制御が乱れて、すっかり元の空気に戻ってるはず。
「がばぼっ……!」
眉間から後頭部にかけてを貫かれて、白目をむく神託者。
このまま腹を煮溶かして、胃袋ごと【治癒】の玉を引きずり出してやる。
右手に【沸騰】の魔力を込めて、トドメの一撃を仕掛けたその瞬間。
「……っばぁ♪」
「……っ!!」
脳天に剣を突き刺されながら、神託者が満面の笑みを浮かべた。




