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121 末路




 ベアトの放つ癒しの魔力で、折れた骨も、破裂した内臓の痛みも、あっという間に癒えていく。

 ケガの程度を考えると、切り落とされた腕をくっつけた時くらいの魔力を消費しそうなのに、ベアトってば、平気そうな顔して治癒魔法をかけてくれてる。


「……っ、……っ」


 さっきの魔力光といい、この子になにか異変が起きたのは間違いないよね。

 ……ま、あとでいいか。

 それより今は、ベアトといっしょに心配そうに私を見てるメロちゃんにお礼を言わないと。


「メロちゃん、ありがとう。石に【水神】埋め込んで飛ばすなんて、よく思いついたね」


「あたいはなにもしてないですよ。この作戦考えたのはベアトお姉さんですから」


「ベアトが?」


「ですよ。小箱の中から勇贈玉ギフトスフィアを取り出して、攻撃準備中だったあたいに必死に提案してきたんです。キリエさんにこれを届けてって」


 そっか、なにからなにまでベアトに助けられたってわけか……。


「……でも、メロちゃんも頑張ったよ。この三人の誰が欠けてても勝てなかったんだ、きっと」


 メロちゃんの頭をなでてあげたら、照れくさそうに笑ってくれた。

 ベアトがちょっとすねちゃったので、こっちもなでなで。

 さて、治療もたった今終わったし、いつまでものんびりしてらんないよね。


「二人とも、地下に行こう。トーカたちを迎えに行かないと」


「……っ」


「トーカ……。そ、そうですねっ! すぐに追いかけてくるって言ったのに、約束破った文句つけてやるですよ!」


 メロちゃん、不安を精いっぱい押し隠してる。

 万が一、の可能性が頭をよぎったんだろうな。

 そうでなくても、大ケガして動けない可能性もあるし、どっちにしろ急がなきゃ。


 【使役】のはまった腕輪をベアトに預けたポーチに突っ込んで、ゴミ野郎の頭をわしづかみにして引きずりながら、中庭を走り去る。

 壁ぎわで気を失ってた兵士さんたちも、意識を取り戻し始めた。

 キマイラの死体と攻撃の余波で中庭メチャクチャだけど、非常時だったし許してくれるよね?



 ○○○



「う、うぅん……」


「トーカっ! よかった、目をさましたですっ!」


「……メロ? それにベアト……」


 意識を取り戻したトーカに、メロちゃんがぎゅっと抱きついた。

 全身についてた切り傷、ベアトのヒール……と呼んでいいのかな、あの威力は。

 ともかくベアトの治癒魔法で、完璧に治療できた。

 メロちゃんのとなりで、ベアトもにっこりしている。


「トーカ、お疲れさま。ルーゴルフのクソはきっちり半殺しにしといたから」


「お、おう……。それ、半殺しなのか……。よく生きてるな、すごいな……」


 あれ?

 ルーゴルフの頭をつかんでぶら下げながら見せてあげたのに、ドン引きされた。

 もっとよろこんでよ、倒したんだからさ。


「よく生きてるな、はトーカたちの方だよ。この広間に入って倒れてるみんなを見た時、メロちゃんなんか悲鳴あげてさ。まっさきにトーカに駆け寄って……」


「ちょ、ちょっとお姉さん!?」


 照れたメロちゃんに頭を叩かれた。

 そのトーカが、五人の中でいちばん軽傷だったんだけど。

 おかげで治療が最後に回されて、メロちゃんが泣きながら怒ってたっけ。


「ははっ、ありがとな、メロ。……そうだ、ジョアナさん。あの人は無事なのか!?」


「それは……」


 もっとも重傷だったのがジョアナ。

 左肩からわき腹をざっくり斬られて、大量の血を失って倒れてた。

 まっさきにベアトの治癒魔法を受けて、今は……。


「はーい、無事よ〜。お姉さんの心配してくれるなーんてっ。トーカさんってば私の雄姿ゆうしに惚れちゃった?」


 今はこんなに元気です。

 ニヤニヤしながらさっそくトーカにウザ絡み。

 メロちゃんが一気に不機嫌そうな顔になったけど、私は一人じゃれ合いから離脱して、リアさんたちの方へ。


「リアさん、もう動ける?」


「あぁ、平気だ。ルーゴルフの討伐、感謝する。城のみなに代わって礼を言わせてくれ」


「やめてよ、お礼なんて」


 私一人じゃきっと倒せなかったからね。

 ベアトやメロちゃん、それにトーカやジョアナ。

 みんながいなかったら勝てなかったと思う。

 お礼の一人占めは不公平だ。


「……しかしキリエ殿、まさか女性だったとはな。なぜ性別を隠して?」


「話すと長くなるから、またあとで。それより今は、コイツの拷問が先でしょ?」



 ○○○



 地下広間から少し奥に行ったところ。

 天井、壁、床の全部が石造りの、殺風景な小部屋。

 今ここにいるのは私とリアさん、ジョアナ、証言を書き留める役の大柄な魔族さん——たしかガープさんだったっけ。

 あとは魔族の兵士さんが二人。

 そして最後に、ゴミクズ野郎のルーゴルフだ。


「おい、そろそろ起きろ」


 優しく起こしてやる義理はないからね。

 焼けただれた傷口を剣先で突いてやる。


「……いっ、いぎあああぁぁぁぁぁあぁぁっ!!」


「起きたら起きたでうるさいな……っ!」


 バギャッ!


「ぶげっ!」


 わめき散らすクズの顔面に拳を叩き込んで、黙らせてやった。

 前歯が三本へし折れたけど、どうでもいいね。


「いいか、聞かれたことにだけ答えろ」


「はぁーっ、はぁーっ……! ぉ、ぉまえ……、調子に、乗りやがっげばっ!!」


 口答えしたのでもう一発。

 今度は鼻が折れたみたいだ。


「なあ、耳は無事なはずだよな、おい。もう一回言うよ? 聞かれたことだけに答えろ。いいな?」


 足の甲に剣先を突き立てて、ぐりぐりしながら問いかける。


「あぎひぃぃぃぃっ!! わ、わかったっ、わかったからぁぁっ!!」


「よろしい。正直に話したら、楽になれるからね」


 刺した剣を引き抜いて、あとはプロの軍人さんにお任せだ。


「リアさん、あとよろしく」


「あ、あぁ……。キミ、本当に素人か?」


 なんでだろう、リアさんにまでドン引きされたんだけど。



 その後、ルーゴルフはタルトゥス謀反むほんについての証言を素直に話した。

 【使役】のギフトを悪用して、セイタム王らコルキューテの重鎮じゅうちんをあやつって国を乗っ取っていたこと。

 王都ディーテに魔族軍の兵士を送り込んでいたこと。

 タルトゥスに都合のいいように、情報操作をしていたことまで。


「……ふむ、もういいだろう。ガープ、しっかりと書き留めたな?」


「あぁ、問題ない。見届けた証人もこれだけいる。証拠としては十分すぎるくらいだ」


「では、尋問はこれで終わりとする。最後にルーゴルフの始末だが、改めて裁判にかけ——」


「ちょっと待って」


 リアさんの決定に、待ったをかける私。

 コイツは生まれついての『三夜越え』、その強さは半端じゃない。

 喰っておかなきゃもったいないよね。


「もう用済みだしさ、コイツどうせ死刑でしょ? だったら私にちょうだい?」


「ちょ、ちょうだい、と言われてもだな……」


「……さっきさ、お礼したいって言ったよね? 感謝してるって言ったよね?」


「私からもお願いするわ」


 さすがジョアナ、わかってる。

 しっかり援護してくれた。


「キリエちゃんはね、実は勇者なの。強い相手を殺せば殺すほど強くなる。今後のためにも、ここはリアさんの力で、ね?」


「……はぁ、わかった。ガープと、そこの兵士二名も肝に銘じておけ。苛烈かれつな拷問の末に、ルーゴルフは命を落としてしまったと。いいな!」


「致し方あるまい。恩人の頼みとあらば……」


「は、ははっ!」


「も、もちろんでありますっ!」


 ガープさんはやれやれって感じだけど、兵士さんたちがおびえてる。

 私のことを横目でチラチラと見ながら。


「では、私たちは王に報告に上がる。あまり派手にやるなよ」


 リアさんたちが拷問部屋をあとにして、ジョアナもウインク飛ばしてから退室。

 これにて正真正銘、ルーゴルフと二人っきりだ。


「……さぁて」


「ひ、ひっ……! さ、さっき言ってただろ……? 正直に話したら楽になれるって……!」


「うん、言ったよ? 死んだら楽になれるでしょ?」


「そ、そんな……っ!」


「ま、楽には殺さないけどね。泣いて謝りながら、早く殺してって叫ぶまで、たっぷりいたぶり続けてやる……。ベアトをまき込んだことを謝らせるまで……」


「やめっ、来るなっ、助けてっ、あひっ、ぎああああっぁあぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁっ!!!!!」


 ……そこから五十分後、ずーっと絶叫を上げ続けた末に、ルーゴルフはドロドロに煮立ったスープになった。




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