113 追いかけられて
ルーゴルフのヤツ、アタシらを放ってキリエを追いかけていった。
襲われた時はヒヤヒヤしたけど、ジョアナさんのおかげで助かったし。
……ただ、アレだけで信用はできないな。
キリエたちが見てたから助けただけ、って可能性もあるし。
「ドワーフ……、死んでもらう……」
ルーゴルフから離れても、相変わらずリアさんは人形みたいな表情のまま。
力も全然ゆるめてくれない。
アイツの【使役】、あやつってる相手との距離は関係ないってことか。
「リアさん、正気に戻って……!」
「死ね、ドワーフ……!」
だめだ、説得なんて利く雰囲気じゃない。
と、なれば。
「……しかたないか、拳で黙らせる!」
リアさんの力も相当だけど、種族としては魔族よりもドワーフの方がパワーは上。
つかんだ槍ごとリアさんの体を持ち上げ、ブン回して、壁に何度も叩きつける。
さらにブンブン振りまわし、最後に広間の中へとブン投げ——。
「トーカさん、危ない!」
ようとしたら、こっちに走ってくるジョアナさんの警告が聞こえた。
そして。
「おねえちゃんになにさらしとんじゃコラァ!」
ゴッ……!
「あぐぁっ……!」
後ろから、誰かに思いっきり頭を蹴り飛ばされる。
逆にアタシが、モンスターだらけの広間に吹き飛ばされるハメに。
「おねえちゃぁん、だいじょうぶだったぁ?」
「殺す……。私の任務……」
「だいじょうぶだったぁ? おねえちゃぁん。やったぁ、だいじょうぶだったぁ!」
誰だよ、見ず知らずの相手の頭を蹴り飛ばした失礼なヤツは。
ブロンド髪の小柄な女魔族か。
リアさんをおねえちゃんって呼んでるけど、姉妹には見えないな。
あと、明らかに正気じゃない。
おもに目付きがヤバい。
この娘も【使役】であやつられてる被害者だ。
「まずいな……、もう一人いたなんて……」
しかもこれ、広間に戻されて周りはモンスターだらけ。
【機兵】がなければあきらめてただろうね。
「多勢に無勢だな、だったら遠慮なく! 来い、魔導機兵、魔導機竜!」
足下の砂地から、今のアタシの限界生産数、十三体のゴーレムとガーゴイル一機を生み出して、私の周りに円陣組ませてずらりと並べる。
「どうよ。ここの魔物とくらべても、量はともかく質では圧勝だ」
「私がいるのも忘れないでねっ!」
短剣を逆手にかまえたジョアナさんが、ブロンド魔族の後ろから斬りかかる。
すぐさまリアさんが反応して槍を突き出すけど、華麗にジャンプして回避。
アタシの隣に降り立って、短剣をかまえた。
「あんまり信用されてないみたいだけど、私は味方よ。頼りにしてね」
パチンとウィンクを飛ばされる。
信用したいけど、やっぱりこの人どうしようもなく怪しいんだ。
怪しいけど、今この瞬間だけは、心の底から味方であって欲しいよ。
「……うん、頼りにするさ。アタシだって、こんな薄暗いジメジメした場所で死にたくないし」
ガントレットをかまえながら、ゴーレムたちに魔物への攻撃命令を出す。
武器をかまえたゴーレムたちが、それぞれ四方に突撃。
ガーゴイルも翼をはばたかせて浮き上がり、口から魔導熱線を吐いて、魔物を焼き払う。
魔物と機兵の大乱闘を背景に、リアさんと女魔族がそれぞれ武器をかまえた。
「おねえちゃんとの共同作業っ。あたしとってもうれしい!」
「ビュート……、いっしょに殺すぞ……」
「うんっ、おねえちゃんのために、殺しちゃう!」
ビュート、っていうのか。
あの人もリアさんも殺すワケにはいかない。
自分が死なずに、相手も殺さずに、戦闘不能にする戦い。
かなりヘビーだけど、やるしかないか。
「そーれっ、死んじゃえーっ!」
狂ったみたいな笑顔を浮かべて、ビュートさんが剣を片手に突っ込んできた。
足と腕に練氣をまとって、残像が残るほどの速さで繰り出される斬撃。
この人、リアさんよりも速い!
「それそれそれそれっ! きゃははははっ!」
斬撃の雨あられ。
両手のガントレットでガードするけど、腕がしびれそうなくらい、一撃が重い。
(まずいな、これ……。勝ち目あるのか……?)
むこうでは、リアさんの突きの連打をジョアナさんが必死にかわしてる。
それぞれの相手に手いっぱい。
援護はのぞめない、か。
(魔導機兵も、今の数が限界だしなぁ……)
だけど、約束したもんな、絶対キリエに追いつくって。
メロともまだまだ遊び足りないし、こんなとこで死んでたまるかってね。
○○○
あの野郎、ずっと私たちを追いかけてきやがる。
キマイラの上でだるそうに、全然本気を出してない感じで。
本気で捕まえる気があるか、疑問になってきたんだけど。
「見えた、階段!」
地下と地上をむすぶ階段からさしこむ光に全速力で飛び込んで、一段飛ばしに駆け上って一階へ。
ここまで来れば、人目もあるし物騒なコトできないだろ。
……お城中の人間が【使役】で操られてる、なんてことがなければだけど。
……ドタドタドタドダドダ。
「な、なんなのです? 地響き……?」
「……?」
「あー、嫌な予感が当たった」
廊下の左側から、魔族の兵士さんたちがたっくさん、こっちに走ってくる。
血走った目で、それぞれに剣や槍を持ちながら。
もちろん階段の下からは、キマイラに乗ったルーゴルフが。
「お城の全員、アイツに【使役】されてんのかよ!」
考えられる限り、最悪のケースだ。
お城全体が敵のテリトリー。
このまま大人しく逃がしてくれるとは、とても思えないよね。
「とにかく出口……!」
入ってきた入り口正門、そこをめざして突っ走る。
まず間違いなく封鎖されてるけど!
廊下を走って、十字路にさしかかった。
左に曲がれば出口だけど、こっちからも兵士さんの大群が。
私一人ならともかく、ベアトとメロちゃん二人を抱えたままじゃ突破はムリだ。
さらには正面からも兵士さんたち。
「なら、こっち!」
右側だけ誰も来てない。
こっちに曲がって、なんとか出口を、窓とかを探さなきゃ。
キョロキョロ、辺りを見回すけど、なんかどんどんお城の中心に誘導されてるような……。
「……よし、窓あった!」
しばらく走ってようやく発見。
擦りガラスで外は見えないけど、明るいし間違いない。
しかも、とうとう真正面から兵士さんたちが走ってきた。
迷ってる時間は無いよね。
ごめんなさい、後で修理代出しますからスティージュが!
心の中で謝ってから、窓にむかってハイキック。
派手な音がして窓枠ごと吹き飛んだ。
「……わ、割れてないのです。窓ごとなのです」
メロちゃんが戦慄してるけど、力加減間違えただけだし。
とにかく今は早く外へ。
窓のあったところを踏み越えて、草地の上に着地。
よし、脱出成功……、じゃ、ない。
「ここ、中庭……」
お城の中心、四方向をお城の壁にかこまれた質素な庭園。
しまった、敵の目的はこれか。
まんまと誘導されたんだ。
「はい、お疲れさん……っと」
いつの間にか、ルーゴルフが追いついていた。
キマイラの背中に寝転がって、だるそうにあくびをしながら私たちを見下ろす。
「召喚」
魔法陣が展開されて、魔物じゃなく兵士さんたちを召喚。
どうしよう、完全に追い込まれた。
「ふわーぁ……、ァイツの作戦はここまで、と……。こっからは好きにやらせてもらうよ……、はぁダル……」
飛んでるキマイラの背中から高みの見物か、クソ野郎。
さて、どうしよう。
兵士さんたちを殺すワケにはいかないよね、今後のコルキューテとスティージュの関係を考えると。
馴れてないけど、殺さないようにがんばるか。
……ただ、さ。
ベアトが危なくなったら、どうなるかわかんない。
冷静でいられるかな、私。




