表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

112/373

112 頼れるお姉さん




「ぁんだよ、怖い顔でにらむなよなぁ……。この広場がなんなのか、疑問に答えてやるってのにさぁ……」


 だるそうに立ち上がったルーゴルフが、広間の真ん中まで歩いてきた。

 様子のおかしいリアさんは、入り口の扉を背に、槍を持って立ちつくしている。


「ここは処刑場……。死罪となった罪人を、捕らえたモンスターと死ぬまで戦わせ、それを見物する。最高のエンターテインメントが行なわれてた場所さぁ……。ま、これは数百年前の血塗られた歴史、今じゃ比較的罪の軽い囚人用の運動場だけどね……」


 完全に罠にハマった。

 この状況、最悪に近い。

 なにより、ベアトがここにいるってことが最悪だ。


 アイツらの狙いの一つがベアト。

 もう一つは多分、私の命。

 敵はどっちも全力で狙ってくる。

 どっちも絶対にくれてやらないけど!


「リアさん、そこをどいて!」


「……」


 私の呼びかけに、リアさんは全く反応を返さない。

 槍を片手にぼんやりと立ったままだ。


「ねえ、なんとか言ってよ! まさか最初から、アイツらとグルで——」


「落ち着け、キリエ。今のあの人の様子、正気とはとても思えないぞ」


「……っ!」


 トーカの言葉に、ベアトもコクコクとうなずく。

 そうだ、ピンチの時こそ冷静に……。


「そういやアイツのギフトは【使役】……。まさか!」


「正解出すの遅すぎだってぇ……、ふぁ〜あ」


 やっぱりそうか。

 あくびをしながら肯定してくださったよこのクソ野郎が。


「つまりどういうことなのです?」


「私の【沸騰】と同じ。魔物を操るギフトだって思いこみは捨てるべきだった、ってことだよ」


「アイツのギフトはあくまでも【使役】。操る相手は魔物に限らないってワケだな」


 リアさんが操られて、利用されるなんて……。

 魔物を操る能力だって思い込んでた私のミスだ。


「ふわぁ……、もういいだろ……? 答え合わせが終わって、スッキリしただろ……? 心置きなくあの世に行けよ」


 ルーゴルフが腕を高々とかざす。

 腕輪にはめられた勇贈玉ギフトスフィアが輝いて、


召喚サモナイズ


 広場中に魔法陣が広がって、そこから大量の魔物が現れた。

 特に目を引くのが、四体の巨大なキマイラだ。

 王都で見せた極太ビーム、まさかこんな地下で撃たないよね……?


「ま、まずいのです……! ジョアナさん、なにかアイデアないですか!」


 メロちゃんがあわあわしながらジョアナにすがりつく。

 ピンチの時こそ余裕のふりを心がけてる私でも、今回ばかりはうっかり弱音を吐きそうだ。


「落ち着いて。まずは逃げることを第一に、ベアトちゃんとメロちゃんの身の安全を考えて行動しましょう」


「逃げることを第一に、か……」


 さすがジョアナだね。

 その一言で一気に冷静になれたよ。

 さて、まずは状況の確認だ。


 この広間、出口はリアさんがふさいじゃった一か所だけ。

 召喚されたモンスターたち、軽く五十体以上いるな……。

 このまま乱戦になったら、連れ去るのが目的のベアトはともかく、メロちゃんが確実に殺される。

 ……と、なれば。


「正面突破、しかないよね」


 地面に手をついて、思いっきり魔力を流し込む。


「させると思うのかぁ……? 行けぇキマイラぁ……。聖女の片割れ以外皆殺しにしてこい……」


 ルーゴルフの攻撃命令で、一気に四体のキマイラが襲いかかってきた。

 巨体がうなりを上げて、猛然と突進してくる。

 けどね、こんなヤツらただの的だ。

 射程内に入った瞬間、


「アンタさぁ、私からベアトを奪えると本気で思ってる?」


 真下の地面が赤熱して、四本のマグマの柱が立ち昇る。

 遠隔破砕リモートブラスト、溶岩バージョンだ。

 勢いよく噴き出したマグマが、キマイラの腹から背中にかけてを貫通。

 内臓を焼かれる痛みに、赤ん坊の泣き声みたいな気味悪い断末魔がひびいた。


「エエェェエェェンッ!!」


「ゥエエェェェェェッ!!」


 ズゥゥゥゥゥゥン……!


 四つの巨体が砂けむりを上げて横たわる。

 よし、これでモンスターの戦力がガクっと落ちた。

 戦力補充される前に、このまま広間の外に飛び出して……。


「キリエ、後ろっ!」


 ガギィィィ……ッ!


 トーカの叫び声、続いて金属音。

 振り向けば、私にむかって突き出されたリアさんの槍を、トーカのバスターガントレットが受け止めていた。


「トーカ……!」


「頼れるお姉さんがいるからって、あんま油断してんなよ!」


 ここの地面は砂地。

 【機兵】の材料になる砂鉄も山ほどあるってわけか。

 両手にまとったガントレットのひじの部分が展開。

 ブースターがせり出して、筒の中から火が噴き出した。


「おらああぁぁぁぁぁっ!!」


 リアさんの体を押したまま、扉にめがけて猛突進。

 魔物を蹴散らしながらカギのかかった木の扉をブチ破り、リアさんを背中から廊下の石壁に叩き付ける。


 ドゴォォッ……!


「今のうち!」


「さっすが姉貴分! ベアト、メロちゃん、ちょっと揺れるけどがまんして!」


 このチャンスは逃せない。

 ベアトをおんぶして、メロちゃんのローブの背中あたりを左手でつかみ上げた。

 同時にジョアナにアイコンタクトを送って、同時に走り出す。


「ちょっ、あたいの扱い雑じゃないです!?」


「ごめん、片手しか空いてない!」


 右手はおぶったベアトの太もも支えてるからね。

 緊急時だしカンベンして。


 ジョアナの放った風の刃(ウインドエッジ)が、入り口をふさぎにきた魔物を斬り裂いて、壊れた扉までの道を切り開く。

 そのスペースを一気に駆け抜けて、私とジョアナは廊下まで飛び出した。


「トーカも、急いで!」


「……ごめん、きびしいかも」


 リアさんと押し合いながら、トーカが苦しげな声で答えた。

 あの人、トーカの突進でも気を失わないどころか、抑えにかかったトーカを逆に押し返してる。


「ちょっとでも力を抜いたら、押し切られそうで……」


 まずい、このままじゃトーカが敵のど真ん中に置き去りになる!

 急ブレーキをかけて反転しつつ、


「トーカっ! 待ってて、すぐに手を貸し——」


「バカっ!」


 助けにいこうとしたら、怒鳴られた。


「なに止まってんだ! お前が一番守りたいのは誰なんだ! 自分の中の優先順位を忘れんな!」


「その通りよ、キリエちゃん。ベアトちゃんを守るんでしょ」


 ジョアナが私の肩を、軽く叩く。

 それから、穏やかな笑みを浮かべて。


「大丈夫、トーカさんは死なせないわ。私が残って彼女を助ける。必ず追いつくから、行きなさい!」


「ジョアナ……。わかった、先に行ってるから、絶対追いついてきて」


「トーカっ! 絶対、絶対追いかけてくるですよ! 絶対生きて、また会うですよ!」


「心配するな、メロ! さあ行け!」


 リアさんと押し合うトーカを助けるために、走っていくジョアナ。

 二人をその場に置いて、私は走り出す。

 泣き出しそうな顔のメロちゃんをぶら下げたまま。


「はぁ……、追いかけるとかメンドクサ……。作戦だからやるけどよぉ……」


「……っ、ルーゴルフ……!」


 その直後、小さなキマイラに乗ったルーゴルフが廊下に飛び出してきた。

 私めがけて走りながら、ついでとばかりにトーカに攻撃をしかけるけど、ジョアナのウインドエッジが飛んできて断念。

 風の刃をひらりとよけて、一瞬チラリとジョアナを見たあと、私のあとを追いかけてくる。


「トーカたちを見逃した……! 狙いはあくまで私たちってわけか……!」


「アイツらかまってお前ら見失ったらバカだからなぁ……。ちっ、そこまでわかってんなら大人しく捕まれよな……」


 最後のほうブツブツ言ってるけど、丸聞こえだからな。

 誰が捕まってやるもんか。

 私の命も、もちろんベアトも、お前なんかに渡してたまるかよ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ここは任せて先に行けみたいなの、こわ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ