コミックス5巻発売記念(副題:ガチの威圧は止めて!)
『君って本当に頻繁にバルディーニ領に来るよね。迷惑では?』
お前の存在が俺にとって迷惑だってこと、自覚あるの?
バルディーニ領に頻繁に来るのは当然だろ。
何せ、ここにはマーラがいるんだからなぁ!
俺にとっての女神!
なんだかんだで色々と邪魔されて結局ヒモになることはできていないが、ぶっちゃけ勝利は目の前にあると確信している。
何も問題なければ、今日にでもゴールインできるレベルだろうな。
俺、マーラの前で完璧に演じ切っているし。
『結婚詐欺師並に悪質じゃん……』
「安心しなさい、魔剣。それをさせないために、私がいるんだから」
どや顔を披露しながら、俺を背もたれに本を読んでいるマガリ。
邪魔だなこいつ。色々な意味で。
「マジで毎回ついてくんなよお前。エリアけしかけるぞ」
『王族をけしかけるとか言わない方がいいんじゃない……?』
「それだけはやめなさい。悍ましいわ」
『王族になんてこと言っているの!?』
ぐでーっと全体重をかけてくる。
どれだけ嫌なんだこいつ……。
それに、嫌そうな顔をしたら俺が余計やりたくなると分からないのだろうか?
サラサラの長い黒髪を手で遊びながら考える。
「あーあ。お前がいなかったら、今頃結婚指輪でも買いに行けていたのになあ」
『そんなことない、と言えないのが怖い』
「本当、無駄にマーラからの好感度が高いからね。無駄に」
無駄じゃない。めちゃくちゃ重要だ。
俺を養ってくれる大切な人だからな。
そう思っていると、俺の胸板に頭をこすりつけながらマガリが見上げてきた。
「言っておくけど、私があんたの幸せにつながることを、黙って見ているとは思わないことね。ことごとくを邪魔するし、無為に返すわ。それが、私が私であるための大切なことなのよ」
「それ、間違っても大切とは言えないよな」
なんで格好つけているの? 格好付いていると思っているの?
他人の幸せを全力で妨害する、なんて胸を張って宣言することじゃねえぞ。
「だいたい、お前俺の邪魔するために身体張りすぎだろ……。変な噂をされたらどうするんだよ」
「構わないわ。それで、あんたが困ることにつながるならね!」
「最低なんだけど、こいつ」
『うーん、否定できない』
へっと荒んだ笑みを浮かべるマガリ。
手持無沙汰に彼女の髪を適当に弄っていると……。
「アリスターさん!」
ガチャッと扉を開けてマーラさんがやってきた。
即座に俺はもたれかかってきていたマガリを突き飛ばし、全力でマーラさんを迎え入れる。アイラブユー!!
「マーラさん! 好きで――――――!!」
「ふん!!」
「ごぇっ!?」
マガリの本が、俺の腹にめり込んだ。
あ、ありえねえ! 口からなんか出る……!
「ご、ごめんなさい、アリスター。虫がいたので、つい……」
「つ、ついで本を使ってみぞおちを殴る奴がいるか……!」
はわわ、と慌てた様子を見せるマガリ。
こ、この猫かぶり野郎……! 許せねえ……!
そんな俺を心配そうに見つめて、駆けよってくるマーラさん。
何かいい匂いがする。
「だ、大丈夫ですの? よしよしさすって差し上げますわ!」
「よろしくお願いします」
キリッとした表情でよしよしを迎え入れようとすると、スッとマガリが割り込んできた。
邪魔ぁ!
「大丈夫よ、アリスター。私が代わりに撫でてあげるから」
「いや、いらん……いだだだだっ!?」
撫でてねえ! つねってるつねってる!
そんな俺たちを見て、マーラさんはどこか寂しそうに笑顔を浮かべる。
「……相変わらず、お二人は仲良しですのね。うらやましいですわ……」
「「いえ、全然」」
『なんでそこは息ぴったりなの……?』
こいつと仲良しとか、マーラさんの目は節穴か?
可愛そうに……。俺が一緒にいてあげるからね。
とくに介護とかはしないけど。面倒くさいから。
「それで、どうかしたんですか、マーラさん。お困りでしたら、俺の全身全霊を持ってお助けしますが」
「そ、それはとても嬉しいのですけれど……」
キリッとしたイケメン顔で言えば、マーラさんは頬をうっすらと赤らめる。
マーラポインツ、ゲットだぜ!
マガリのやばいくらいの顔は見ないことにする。
本当……形容しがたいほどやばい。怖い。
「実は、困りごとではなく、アリスターさんに嬉しいお知らせですわ!」
「嬉しい?」
俺が嬉しいことと言うと……金? 金なのか?
それとも、遂に結婚して俺を養ってくれるつもりに!?
『黙ってろ、下種』
黙ってろ、寄生虫。
「以前、わたくしと一緒に村で暴れるゴミを掃除しに行ったとき……」
所々見えるバイオレンスさが怖い。
マーラさんのここだけが懸念点である。
「あの時、子供を助けたことを覚えていらっしゃいますか?」
「……もちろん!」
「(覚えていないわね、こいつ)」
『覚えてないね』
ちっ、うるせえなあ。
まあ、マーラさんに直接言っていないことだけは評価してやる。
そんなことを考えつつも、何とかマーラさんの言っていたことを思い出す。
子供を助けた、マーラさんに関わること、と二つをつなぎ合わせると……。
そう言えば、村に賊が来たとかで、助けに行ったことがあったな。
ちなみに、その賊はほぼ全員がマーラさんにミンチにされた。
文字通りのミンチである。
しばらくお肉食えなくなった。
その時、マーラさんのポイント稼ぎに、キッズを一人助けた気がする。
「その子が、どうしても直接お会いしてお礼を言いたいと言ってくれましたの。わたくしはすでに受け取りましたが、アリスターさんにも是非にと」
俺は内心顔を歪めた。
えー、めんどうくさぁい。
あれ完全にマーラのご機嫌取りと好感度アップのためにしていたことだしぃ。
『なんだこのクズ……。長く一緒にいても慣れない……』
じゃあ、さっさと出て行っていいぞ。
まあ、この状況で断るとマーラポイントが下がる可能性もあるしなあ。
「もちろんですよ」
「ありがとうございます。では、連れてきますね」
俺が了承すると、マーラさんはにこやかに笑いながら部屋を出て行った。
子供を呼びに行ったのだろう。
猫を被る必要がなくなったマガリが、ふうっとため息をつく。
「ガキねぇ。私、あまり好きじゃないのよねぇ……。こっちが気を使わないといけないし」
「マジ? 俺は割と好きだぞ。どう頑張っても大人に勝てないのとか、滑稽で面白いじゃん」
「それくらいじゃない、良い所」
「まあ……」
『これが勇者と聖女……! この世界は終わりだ!!』
魔剣の嘆きが大きい。うるせえ。
じゃあ、俺を勇者から解放しろよ。喜んで止めてやるから。
……ただ、マガリは聖女に据え置きでよろしくお願いします。
そんなことを考えていると、部屋にマーラさんがやってくる。
そして、彼女に先導された小さなおめかしした少女も。
かすかに残っていた記憶から、少し成長したように見える。
……それだけの時間、俺は勇者として魔剣にこき使われたということだ。
腹立ってきたわ。
「あ、あの、この前はありがとうございました! 勇者様のおかげで、私はこうして大きくなることができました!」
「いいんだよ」
顔を赤らめながら、一生懸命お礼を言ってくるガキ。
それに対して、俺は目線を合わせるために膝をつき、にっこりとイケメンスマイルを披露。
ほら、面倒くさいしもうやること終わっただろ。
帰りなさい。
「私のアリスターが助けになってよかったです。これから一生懸命勉強して、マーラさんやアリスターに恩返しができるといいですね」
マガリもここぞとばかりに猫を被り、好感度を上げるための言葉を吐く。
というか、誰がお前のアリスターだ。ぶっ飛ばすぞ。
いつも通り、マガリもそつなく好感度を上げる……はずだった。
「…………」
「ど、どうかしました?」
しかし、少女はじっとマガリを睨みつけるじゃないか。
あまりそういう経験がないから、マガリも目を白黒とさせている。笑える。
俺がニヤニヤしていると、その前で少女はビシッと指をさす。
「私、あなたには負けません、聖女様!」
「ほ?」
「へ?」
何が負けないのか、よくわからない。
マーラさんも、俺も、ポカンと口を開けて……。
明確に少女の意思を理解していたのはマガリだけだった。
鬼の形相を浮かべたマガリは、冷たく言葉を吐いた。
「――――――はあ?」
『ガチの威圧は止めて、マガリ!』
本日、コミカライズ第5巻が発売されました!
蟹蜜先生にとても面白くしてもらっているので、ぜひご覧ください!
下記には書影もありますので、よろしくお願いします!




