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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第四章 アリスターの婚活編

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第103話 馬鹿だなぁ

 










 売られていく子牛ってこんな感じなのかな?

 処刑台に向かう気分っていうか? 自分のためでもないのに命の危険がある場所に赴くっておかしくない?


『死地に赴く戦士みたいで格好いいじゃん』


 そんな格好よさ求めてないんだよね。

 どうにも、この魔剣は前の適合者がどんな奴なのかわからないが、好戦的なところもあるな。


 現在、俺はマーラの私兵たちと共に馬に乗って移動していた。

 故郷にいたときからは想像できないな。


 馬を使った農作業すらサボっていたのに、そんな俺が今や馬に乗って他人を助けに向かっているのだから。

 ……どうしてこうなったんだ。


 それもこれも、すべてマガリと魔剣のせいである。この恨み、いつか必ず……!


「勇者様!」


 馬に乗りながらそんなことを考えていると、近づいてきて声をかけてくる者がいた。

 金色の太陽の光に反射して輝く髪を揺らしながら、俺の隣につけてきた。


 やっぱり、俺よりも馬に乗るのが上手いな。

 まあ、当たり前か。俺みたいな農村の子供ではなく、あちらは生まれながらにして上流階級の貴族様だ。


 それこそ、生まれた時から英才教育を受けてきたに違いない。

 乗馬もそのうちの一つだろう。


「アリスターでいいですよ、バルディーニ様」

「でしたら、わたくしもマーラでいいですわ、アリスターさん」


 にこやかに笑みを浮かべ合う俺とマーラ。

 うーむ……本当に今まで出会ってきた貴族とは違うようだ。


 俺が名前なんて呼んでいたら、発狂して襲い掛かってきそうだった。

 二人とも奴隷所有や売買をするようなクズだったから、比べるまでもないのだが。


「お礼を言いに来ましたの。わたくしの領地のことですのに、お力を貸していただいて感謝しますわ」


 本当は貸したくないんですよ、マーラさん。


「はっはっは。お気になさらず。困っている人がいるのであれば、できる限り助けたいですからね」


 まず、俺を助けてほしい。

 俺、こんなに困っている人を不本意ながら助けているのに、俺を助けてくれる人って誰もいないんだよね。


 そろそろ、いい思いをさせてもらってもいいと思うんだけど。


「まあ! 素晴らしい心意気ですわ! 今代の勇者は農民の出と聞いていましたが、並の貴族よりも素晴らしい人格者ですのね。聖剣に選ばれるということも分かりますわ」


 パッと周りが華やかになるような綺麗な笑みを浮かべるマーラ。

 選ばれるというより、憑りつかれたという感じですかね。


 そんな心の声は、彼女には届かなかったようである。


「ふふっ。わたくしがもう少し若ければ、アリスターさんにアプローチをかけていたかもしれませんわね」


 クスクスと微笑むマーラ。その仕草もとても様になっていて、綺麗だった。

 いや、アホ貴族はちょっと……。


 ……しかし、それほどアホというわけでもないような気もするんだよな。うーん……。

 あっさりと拒絶して望みを絶つのは、止めた方がいい気もする。


 だが、もう少し若いというのはどういう意味だろうか?


「もう少し? マーラさんは、まだ十分若いと思いますが……。あまり俺と変わらないですよね?」

「もう! 下手なお世辞は止めてくださいまし! 怒りますわよ?」


 俺の言葉を受けて、マーラは頬をぷっくりと膨らませて隣の俺を睨みあげてくる。

 これを見ると、やっぱりそんなに年をとっているようには見えないのだが……。


 仕草が幼すぎる。


「えぇ……? いやいや、別にお世辞とかそういうわけじゃなくて……本当に若いと思うんですけど……」

「本当に怒りますわよ……?」

「えぇ……」


 凄い睨んでくる……。

 今回は別に評価を上げようとして口から出まかせを言っているわけではないのだが……。


 俺は本当にマーラのことをババアとは思えなかった。

 俺の理想像に容姿と年齢は関係ないことも、そう思う要因の一つかもしれない。


 正直、まともで金持ちで俺を甘やかしてくれるのであれば、オークの雌(120)でも余裕でいける。


「まったく……二十代にもなって、まだ旦那様を迎えられていないんですのよ? かんっぜんに行き遅れましたわー!」

「うーん……そうですか?」


 髪をブンブンと振り乱しながら嘆くマーラ。

 二十代で行き遅れになるの?


『まあ、貴族だったら子供の時から許嫁や婚約者を親に決められていることが多いみたいだしね』


 ほほう。何か俺よりも詳しそうだな。

 俺の前の適合者は、貴族関係だったのか?


『いや、そういうわけじゃなかったけどね。彼の近くには女性が多く集まってきていて、その中に貴族の女性もいたんだよ。だからね』


 ……俺の先輩はハーレム野郎だったのか。

 クソ! それはまったく羨ましくないが、貴族の女から好意を寄せられていたのは憧れる!


 もう食べちゃうだけじゃん! カモがねぎを背負ってやってきているじゃん!


『……そんな生易しいものじゃなかったんだよなぁ』


 なんだか遠い目をしている気がする。

 魔剣だから目もクソもないんだけど。


 俺の故郷も農村だから、早い奴は十代前半で結婚してるやつもいたけどなぁ……。

 それを見て羨ましいと思ったことは一度もないが。


 一生あの寒村で暮らしていくとか冗談だろ。

 ……といっても、結婚して二人になることで少しでも生活を楽にしようという意味もあるので、それで結婚が早いということもあるみたいだ。


 俺は上手いこと媚び売ってたから、割と食糧とかには困らなかったんだよな。

 冬になったらマガリが家に来ていたし。


「わたくし、このまま結婚もできずにババアになっていくんですわ……。あぁ……お先真っ暗ですわ……」


 そんなことを考えていると、マーラがウジウジとしていた。

 ウジウジというか、枯れていた。


 面倒くさい……けど、無視したらそれはそれで評価下がるだろうしなぁ……。


「そんなことないですよ。マーラさんはとてもお綺麗ですし、話していても賑やかでとても気分が良くなります。それに、領民のことを思いやる優しさも持ち合わせているんですから、とても魅力的ですよ。いつか、あなたの魅力をちゃんと見てくれる人が現れます」


 何で初対面の女を慰めなきゃならんのだ。

 とはいえ、全てでたらめということではない。


 こういうことは、真実を少しばかり大げさにするのだ。

 そうすると、褒められた本人は自尊心を刺激されて嬉しがる。


 全てでたらめで大喜びするのは馬鹿だけである。

 どうやら、マーラは典型的なアホ貴族ではないようなので、そこまで媚びることはなかった。


 俺の顔を少し大きくした目で見ていたマーラは、うっすらと蠱惑的に微笑んだ。


「……なら、アリスターさんはどうかしら?」

「ははっ。俺でよければ、喜んで」


 即答する。ここで拒否したら、おべっかの意味がない。

 まあ、まだマーラに寄生してやってもいいかはわからないがな。


 年収は? 結婚してから俺は働かなくてもいい?

 こういう重要なことを聞いてからだ。


「ふふっ、ありがとうございますわ。では、もう少し気楽に待っておくとしましょう」


 マーラは嬉しそうに微笑んだ。

 彼女も本気で俺にもらってもらおうと考えていたわけではないのだろう、あっさりと身を引いた。初対面なのだから当たり前だが。


 しかし、そうか。マーラの年齢ですら、行き遅れと言われるレベルなのか。

 ならば、いざという時落としやすいかもしれないな。


 貴族だから、金銭的な問題はない。

 しっかりと領地を治めているようだし、財政状態が悪いということはないだろう。


 まあ、不作とかになると、この性格の彼女はあっさりと蔵を開いてお金をばらまきそうだが……許容範囲内だ。

 あとは、こいつが男を甘やかすダメ女かどうかである。


 これさえわかれば、俺は……。

 …………あれ? もしかして、一番俺にとって都合のいい女に近いのって、マーラなのか?


「見えてきましたわ」


 マーラの言葉に前を見る俺。

 そこには、黒煙が一筋上っている場所があった。


 ……もう手遅れですやん。











 ◆



 俺の予想通り、すでに村は壊滅していた。

 それもそうか。問題が発生したからマーラの元に助けを求めたわけで、何も起きていなかったら呼ぶ必要もないしな。


『酷い……! どうしてこんなことを……!』


 さあ、俺も分からない。

 強盗とか山賊とかって、だいたいばれて討伐されるのになぁ。


 まったく、馬鹿としか言いようがない。もっと上手いことやれないものか。


『いや、そういう意味じゃないんだけど……』


 食うに困って賊になったのか、それとも他者を虐げて何かを得る方が楽だと気づいたのか。

 どちらにしても、結局やっていることは強盗殺人である。


 それ相応の報いを受けることになるだろう。

 今回は俺何も関係ないから、どうでもいいんだけどさ。多少、ここの村人たちには同情するが。


 こればっかりはなぁ……災害みたいなものだ。諦めるしかない。


「生存者がいないか確認してくださいまし」

「はっ」


 マーラの方でも動き始めているようだ。

 さて、俺も手持無沙汰の様子を見せないために、一応見回りに行っておくか。


 領主がやってくることは賊も知っていただろうし、もうここには残っていないだろう。


「まだこんなことをする賊がいたなんて……」

「もしかしたら、他所の領地からやってきたのかもしれませんね」


 なんかマーラついてきた……。

 今までこういった賊に対してしっかりと対応して処理していたのかもしれないな。マーラの反応を見ていると。


「そうですわね。一通り片付けたから、油断していましたわ。本当に申し訳ない……」


 悲しげに顔を歪めるマーラ。

 うーむ……本当にこいつは貴族なのか? こんなに領民を思いやる貴族なんて知らないのだが……。


「う、うぅ……」

「せ、生存者ですわ!!」


 そんなことを考えていると、小さく聞こえてきたのはうめき声だった。

 駆け寄ってみると、小さな子供が倒れていた。


 すぐに抱き起して、ザッと全体の様子を見る。

 ……まあ、俺も大して診断とかできないんですけどね。


 しかし、素人目にはなるのだが、この子供はかすり傷のようなものはあっても、重傷と言えるようなものはなかった。


「大丈夫か?」


 身体の負担にならないようにしながら、声をかける。

 こういうのは、最初に行ったら評価が上がる。


 ……と、まあ、流石にこんな子供が死に瀕しているというのに、目の前だと見過ごすわけにはいかない。

 子供は目をうっすらと開いて、言葉を発した。


「お父さん……刺されちゃった。お母さん、連れて行かれちゃった……」


 おもぉい!

 てか、賊さんやりすぎだろ。絶対に処刑だぞ、これ。


「助けて……お母さんも、助けて……」


 こちらに手を差し伸べてくる子供。

 ……いや、流石に振り払ったりはしないから。


 子供の小さな手を優しく握りしめ、力強く頷く。


「ああ、任せろ。安心して、今はゆっくり休め」

「アリスターさん……。……もちろんですわ! わたくしたちが、必ず助け出してみせますわ!!」


 横からひょっこりと顔を出したマーラも、力強く言葉を発した。

 それを聞いて、安心したのか。子供はうっすらと笑みを浮かべて……。


「ありが、とう……」


 そう言うと、目を瞑ったのであった。

 え? 死んだ?


『大丈夫、生きているよ。もし、彼女が死にそうになったら、君の寿命を彼女に分け与えていたから』


 ちょっと待って。とてつもないことを俺に相談せずにやろうとしていたの?

 冷静にクソみたいなこと言うんだな、魔剣って。


 いや、まあ知ってたけどさ。


「行きましょう、アリスターさん!」

「ああ」


 マーラの言葉に頷く。

 とにかく、山賊退治だ。


 ……こんな派手で残虐なことをしたら、捕まったら処刑になるんだけど。

 ……何も考えていないのか? 賊って。馬鹿だなぁ。


 俺はまだ会ったこともない賊たちに対して、嘲笑を向けるのであった。




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