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魔法書を作る人 番外編  作者: いくさや


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番外編15 ある貴族の妄執R①

 番外編15


 招待状が届いた。


 差出人は王様だ。

 ソプラウト大陸に渡る時に何度かお世話になったトネリアの町で行われる、妖精族との親善目的のパーティに参加してほしいらしい。

 昨今は魔族の脅威が激減したため、他種族との交流が増えていく傾向にある。

 となると、地理関係上でブランは竜族と。スレイアは妖精族と繋がるのが自然なのだけど、スレイア王国の馬鹿貴族のせいで妖精族から見る人族の印象はかなり悪い。

 参加する貴族の面々も留意した人選にはなっているようだし、懇親のための準備などもしているようだけど、それで安心してくれと言ったところで難しいのが実情だ。

 王の名前で催されるパーティとはいえ、妖精族もなかなか信用できない。実際、数年前に誘拐事件なども起きているのだから、警戒されるのは当然だった。


 で、安心してもらうためにどうすればいいのか。

 答え、第八始祖が参加する。


 既に妖精族と親交の深い僕がいるなら、誰もが安心というわけだ。

 もしも、何かが起きたとしても政治的、信仰的、物理的に解決できる人材なのだから一石三鳥。とてもお得な方法だった。




 というわけで、僕はパーティに向けて試着タイム中。

 出発する前にサイズが合っているかどうかを確かめようと、王様が用意してくれた礼服を着こみ、それっぽく髪型をセットして、ここで腕組み。


「さて、どうしようかな」


 このパーティ、妖精族との親交を深めるためにある条件が用意されているのだ。

 王様も礼服と一緒に準備してくれているのだけど、僕に案があるならそちらでも構わないという申し出がある。

 準備された物を使うだけでもいいのだけど、一応は自分でも考えてみよう。

 この条件を満たすものがないか、どうか。


「あ、あれだ。あれがあった。ねえ、リエナ」

「ん」


 準備を手伝ってくれていたリエナが振り返る。


「僕の猫耳としっぽ、どこだっけ?」


 凪の目で見られた。

 結婚から十年以上、割と阿吽の呼吸だったけど、理解不能らしい。


 なるほど、考えもせずに言ってしまったけど、我ながら頭がおかしいとしか思えない台詞だった。

 さも『ネクタイどこだっけ?』みたいに真顔で聞いてしまったよ。


「……ん?」


 リエナがそっと寄り添ってくる。

 僕の頬に猫耳が触れて、お腹の辺りにしっぽが押し当てられた。

 これは慰められているのだろうか? それとも異常言動を始めた僕を癒そうとしてくれているのだろうか?

 とりあえず、間違いないのは今の僕は至福です。

 そんな感動しているとリエナが見上げてきた。


「ん。シズの猫耳としっぽ」


 やべえ。抱きしめてえ。

 僕の嫁がかわいすぎてやばい。


 けど、ギリギリのラインで踏みとどまった。

 広間にいたはずのルナとステラとレギウスが、いつの間にか扉の隙間からこっちをじーっと見てるからね。落ち着け、僕。

 優しくリエナの肩を押して、語りかける。


「いや、リエナ。気持ちは嬉しいけど、そうじゃないんだ。随分前になるけど、学園の時にもらった猫耳としっぽの付け飾り、覚えてる?」


 ルネに装着してもらったものの、あまりの『攻撃力』に僕が撃沈し、本能的に強敵と悟ったらしいリエナによって回収されてしまった猫耳・しっぽセット。あの封印指定セットならば見事に目的を果たせる。

 リエナの性格上、勝手に捨てたりはしないはず。


「ん。ルネにあげるの?」

「違う。待って。槍を持たないで」


 確かにあの時はルネに装着してもらったし、鼻血で流血騒ぎになったけれども。

 いや、十年以上歳を重ねた現在でも似合ってしまうと想像できてしまうあたり、ルネのポテンシャルは洒落にならないけれども。


 リエナさん。ルネに対してだけは嫉妬心が強く働くよね?

 槍を握る手をゆっくりと開きながら説明する。


「今度のパーティは人族は仮装が条件なんだよ。できれば、妖精族っぽい感じの」


 王様からは青髪のかつらが届けられていて、いつでも青髪さんにはなれるのだけれど、これだけだとインパクトが弱い。

 わかる人には、この青髪がある樹妖精の仮装とわかるだろうけど、人の記憶頼りにするのはどうかと思うのだ。

 その点、あのセットなら実にわかりやすい。

 僕も今日から猫妖精だと言い張れる。


 納得してくれたリエナは自分のタンスの奥から箱を出してくれた。

 開けるとそこには懐かしい猫耳としっぽ。


 ああ。

 なつかしい記憶が蘇るようだ。


 わずか一ヶ月ばかり。

 それでも充実した時間だった。

 あの時はケンカ別れになってしまったっけ。

 まさか、その主義主張で反対した僕が猫耳としっぽをつける事になるなんて。人生はわからないものだ。


 感慨深く装着してみる。しっぽはリエナがベルトに取り付けてくれた。


「……不思議な感じだ」


 実際には見えないけど、頭の上で猫耳がある感触。

 体を捻ればしっぽの先が揺れている。


「おとさん、耳! しっぽ!」

「とうちゃ、いっしょ!」

「い、いっしょー」


 そして、飛び込んでくる子供たち。

 大興奮で僕の周りを走り始める。放っておいたらバターになるまで回りそうだ。

 一人トテトテと姉たちを追いかけているレギウスが転ばないよう、さりげなくフォローしてたりしていたりと器用だな。

 まあ、一家で唯一の仲間外れだった僕が人工物とはいえ猫耳としっぽを手に入れたのだ。驚くのも無理はない。


 が、家の中では走っちゃいけない。


「ん。落ち着く」


 案の定、リエナによって姉妹が首の後ろ掴まれてしまった。

 空中でピキーンと凝固している二人を抱え上げる。

 残されたレギウスはどうしたかと思えば、僕のしっぽに猫パンチを繰り出し、ギミックによって動くしっぽに驚いてコロンと一回転して、懲りずにまたそろそろと触っては逃げたりしている。


「二人とも、お父さん出かけてくるからお母さんと一緒にお留守番できる?」

「ん! できる!」

「ん! がんばる!」

「? えっと、うん」


 ソレイユが王都に行ってしまってから半年。

 お姉ちゃんがいないぶんまで自分がしっかりしようという意識になってきたような気がする。

 レギウスはまだよくわかってないみたいだけどね。


「じゃあ、しっかりお母さんのお手伝いをして、レギウスのお世話もするんだよ?」

「にゃ!」「なー!」


 頼もしいお姉ちゃんたちだ。

 最近は二人でレギウスを遊びに連れて行ったりしているし、心配ないだろう。


「じゃあ、いってきます」


 二人の頭を撫でて、僕はパーティの行われるトネリアの町へと出発した。

一時間後にもう一話更新します。

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