87話 ソニアの成果
ランタンの力で現れた扉をくぐった先の世界、時間の流れが違うその場所で早3年の月日が経とうとしていた。
その間、それぞれが自分に合った戦い方を模索し、それを習得していく。
そして現在、ステラ、ソニアはその習得した力を実践訓練という形でさらに昇華させている最中だ。
そしてこの日の訓練を最後に元の世界に帰る予定なのだ。
「最後の仕上げだな!全力でこい!」
実践訓練の相手は勿論アクセルだ。
すでに何度も実践訓練を行い、その度にアクセルはステラ、ソニアに色々と指摘する。
指摘を受けた2人はまた改善策を模索し、そして実践訓練を行なって、と地道な努力を惜しまなかった。
そしてこの世界に留まる最後の日である今が、現段階ではあるが集大成を見せる時なのだ。
そしてこの日の訓練はより実践に近い形の戦闘で行われる。
「私から行きます!」
ソニアがそう言うと前に出る。
前に出ながらも様々なことが頭を過ぎる。
(私では太陽になれない…だが、仲間の道を照らす灯火くらいにはなってみせる!それを今、示すのだ!)
わざわざ鍛える為だけに時間を使ったのだ。
今ここでその成果をみせ、自身の力を示したかった。
勿論全員がすでに認めている。しかし、これまでソニア本人が自信を持てなかったのだ。
だが、それも今日限りだ!と気合いを入れ、アクセルと対峙する。
そして、ふぅ…と息を吐き、メキメキと音を立てながら、翼、尾が生え、先の丸くなった角も生えてくる。
さらに肘から手にかけて鱗を硬質化させ、手甲を形成していく。
以前アクセルに言われたドラゴンと人その二つを力を合わせ持つ姿だ。
その姿はドラゴンではなく、人でもない。ドラゴンであって、人でもある。
それはドラゴンと人との混血であるソニアだけに許された姿なのだ。
そしてソニアはボゥっと音を立て、全身に炎を纏う。
その炎は触れた相手を燃やす、まさに攻防一体の炎。
これがソニアの導き出した自分の戦い方だ。
そして拳を構え口を開く。
「いきます」
その瞬間、身体に纏った炎からボッと短い爆発音が鳴り、ソニアは急加速しアクセルに接近する。
さらにボッボッボと連続で音が鳴り、その都度ソニアは推進力を得て加速する。
そのジェット噴射のような爆発は、ソニアの身体そのあらゆる方向から発生が可能で、急加速からの直角に進路先行、急上昇から急降下など、あらゆる動きを可能にしてみせた。
そんなジェット噴射を駆使し不規則な動きをしながらアクセルの周りを飛び回る。
そしてアクセルの右方向から一際大きな音と共に近付く。
アクセルがそれに反応したのを確認したソニアは、爆発音だけを消した加速をし、進路を変えアクセルに殴り掛かる。
しかしそれをアクセルは見ずに躱す。
ソニアはそのまま直進し、大きく距離をとるが、後方にいるであろうアクセルの方に振り向くと、そこには無数の衝撃弾が自身の周りに浮かんでいた。
「くっ…」
咄嗟に腕を交差させてそれを防ぐが、衝撃弾が破裂したことによりソニアの身体に纏っていた炎が部分的に剥がされ、そこにアクセルの蹴撃がねじ込まれた。
大きく体勢を崩すソニアに追い打ちをかけるように無数の衝撃弾と斬撃が飛んでくる。
どんどんと纏った炎は剥がされ、やがて全てを剥がされると、ソニアは腕を交差させ、衝撃弾と斬撃を直撃を避けながらアクセルに突貫を試みる。
そして拳の届く距離までくると、その勢いと共に渾身の一撃を繰り出した。
だがその拳はアクセルの頬をやや掠めるだけで、逆にソニアが繰り出した拳に被せるように放たれたアクセルの拳がソニアの顎を捉えた。
寸止めされた拳を確認したソニアは構えていた腕を下ろし、呟いた。
「……参りました」
「ふうーーー、いやぁホント強くなったな。最後の一撃まともに食らったら頭ごと吹っ飛んでたな。はっはっは…それに途中の音を消しての加速も良かった!あれはホントに危なかったよ……」
アクセルに拳が届くことは無かったが、積み重ねた想いは届いたようだ。
アクセルに褒められ嬉しい反面、まだ実力差が埋まっていないことに若干の悲しみを感じつつ、ミラ、ステラがいる場所に戻るソニア。
「お疲れさま」
「惜しかったね!前よりも全然強くなってる!!」
ミラから労いの言葉をかけられ、ステラからは称賛の言葉を受け取った。
「だが、まだマスターには届かなかった。まだまだだ…」
「そう落ち込むな。マスター以外にあの動きを捉えることが出来る者などそうはいないさ。彼の目の良さと動きを捉える感性は異常だからな」
アクセルは目でだけでなく、周囲の空気の動きや音、あらゆるものを利用し状況を把握しているのだ。
「よーし!次はボクだ!やるぞー」
ぐるぐると肩を回しながらステラはそう言いながらアクセルの元に向かっていく。
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