80話 海の上で見たもの
思いのほかランタンが秘めた力は凄まじく、一行の度肝を抜いた。
まだまだ謎は多いがとりあえず今はおいておき、旅を再開することにした。
そして日中の暑さも和らぐ季節となったある日、アクセルは見覚えのある山を遠目で発見する。
そう、以前ショックッションの羽を求め来た山だ。
つまり現在地はフォルジュのさらに北側。
目的の街までもう少しだ。
そして数日の内に目的の街まで到着したのだが、聞いていた様子と違っている。
「すごい人だな……」
この街は確かに3年に1度、北大陸に渡る道が出来るのだが、それでも人が多く集まる街ではないと聞いていた。
北大陸は雄大な自然がほぼ全土を占めている。
勿論その自然の恩恵を賜る為に出向く者もいるだろうが、さらに3年の月日を過ごすことになる。
さらに渡るにもそれなりに時間がかかるため、アクセル達が持つチュチュ袋があれば話は変わるだろうが、何か成果があったとしても中央大陸まで持って帰ってくるのは厳しいように思う。
宿に赴くがすでに満員だと宿泊を断られてしまう。
そんな店主にアクセルが疑問をぶつける。
「なぁ、ここにいるやつみんな北大陸に渡るやつか?」
「あぁ、なんでも大陸を渡った所に新しく街が出来たらしい。結構前に渡って行った命知らずの1団が築き上げたんだとよ……」
「へぇ!それで拠点が出来たから儲けようとしてるやつが集まったってことか…」
この街に集まっているのは商人達が多数を占めている。
他の者も護衛であろう。
疑問は解消したが、肝心の海の水はかなり引いているが、まだ膝下位まである所が殆どだ。
大量の荷物を荷車で運ぶ商人達はまだ出発出来ないだろう。
宿には泊まれないので1度拠点に戻る。
「どうする?もう少し待って水が完全に引くまで待つか?」
「私は明日にでも出発をした方が良いと思う。完全に水が引けば商人達も一斉に向かうことになる。そうなると間違いなく厄介事に巻き込まれるな…」
海の水が引くと聞いていたが、実際に目にしてみると、それは長い一本道だ。
横幅はそれなりに大きかったが、言い換えれば周りは海で逃げ道がないのだ。
そんな所にただでさえミラ、ステラという道行く人の目を引く美女を連れ、チュチュ袋という誰もが羨む袋を持っているのが見つかれば、間違いなく厄介事になる。
幸いにも野営が出来る場所の水は早期に引くらしく、辿り着けさえすれば問題ない。
「それもそうだな…最初の野営地点はそれなりに遠いらしいから2、3日寝ることが出来ないって宿屋のおっちゃんが言ってたな。今日はゆっくり休んで、明日いこうか!」
この日は拠点に泊まり、早朝から北大陸を目指す。
空はまだ薄暗いが、街に戻ると漁に出かけるのだろうか。
網を担ぎ海に向かう者達をちらほら見かける。
そんな人達に見送られながら昨日より少しだけ水位が下がった海に足を踏み入れる。
「あんまり冷たくないな……」
ズボンを捲り、素足で進むアクセルとミラだったが、ステラが戸惑いを見せている。
「ん?どうした?」
「少し怖かっただけです…もう大丈夫…」
ポロの街の海にはステラもいい思い出などないだろう。
むしろ海そのものに恐怖を抱いていてもおかしくない。
気遣いが足りなかったとアクセルとミラは反省し、ステラの隣を並んで歩く。
「悪い…いきなりは何でも怖ないよな…」
恐らくステラの恐怖はそういった類のものではないとアクセルも分かっているが、それをわざわざ言葉にするのも躊躇われた。
そしステラを中央におき、全員で手を繋ぎながら歩く。
途中何度もステラはアクセルとミラの手をニギニギし、その度、嬉しそうな笑顔をそれぞれに向ける。
こうして最初の野営場所まで丸2日歩き通し、到着した。
それからはステラももう大丈夫、と手を繋いで歩くことはなかった。
反面、海の上を歩いているのだ。皆が度々海を覗き込んだり、魚を見つけると大いにはしゃいで中々前に進まなかったが、とても楽しい道中となった。
「ぷはぁ……やっぱり底は見えないな!!それになんか木?みたいなのもあったぞ?」
「うぅ…ボク、お耳に水が入るから、顔浸けるの苦手…」
「なはは、ん?魔法でどうにかしたらいいだろ!!」
「はっ!!!」
そんなこんながありつつ、遠目に大陸が見える距離まで来た一行。
最後の野営地点でこの日は休息をとることにした。
そしてその夜……
「おい!お前ら!来てみろ!!!はやく!!!」
テントにいたミラとステラに、アクセルが突然大きな声をかける。
「ほら!空見てみろよ」
「うわぁ…………」「これはなんとも………」
この日の夜空には輝く星々と、様々な色が揺らめく帯状になって重なり、それが遠くまで続いている。
「多分これがあの街の人が言ってた、神の衣ってやつだな……」
それは海の水が引く時期に見られる現象で、地元の人達は神の衣と呼び祈りを捧げるのだとか。
これは現代でいうオーロラだ。
神の衣と呼ばれるオーロラは空だけでなく、海までも照らし、まるで海の上に橋がかかっているかのようだ。
「はぁーーー、まだまだ知らないことがいっぱいあるなぁ」
「だな……」「はい……」
「よーーーし!!もっと色々見て、楽しんで行こうぜ!」
その後も神秘的な光を砂浜の上に三人で寝転がりながら、しばらく眺め見続けた。
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