72話 収穫
ミラが持ってきた一掴みの骨粉を埋葬し、簡易ではあるが墓を建てた後、この日は宿に帰ってきた一行。
その間、冒険者ギルドにも顔を出し、未知の遺跡の発見と探索完了を報告し、詳細は明日説明することにした。
その後、遺跡探索完了の打ち上げをする為、酒場に集まる一行。
「そういえばアネッサ、依頼不達成のお金とか大丈夫なのか?」
「それについては問題ない。書面にもしっかりと記してある」
「そっか!安心したよ」
その後も打ち上げは続き、ステラも食べた事がない料理を夢中で口に運んでいる。
思えばステラと出会ってから色んなことが続いたこともあり、こんな風に外食するのは初めてであった。
(これからはもっと色んな物食べさせてやらないとな)
食べ物で口のまわりを汚し、それをミラに拭かれているステラを見ながら、そう思うアクセルであった。
▽▽▽
泥酔状態のコリンと、それを背負うアネッサと別れ、宿への帰路につく。
ステラもミラに手を引かれ、目を擦り、うつらうつらとしている。
そんな二人の前を歩くアクセルに突然、投擲用の短剣が飛んでくる。
その短剣を掴み、即座に投げ返すアクセル。
(チッ…大人しくしてりゃ良いものを…)
「仕掛けてくるとは意外だったな…」
「あぁ、でもすぐに引いたことを考えると、今回は脅しだろうな」
そんなことを話しながらも歩く足は止めない二人。
そこにアクセルの影からネロが現れる。
「主様、お二人は無事、宿に戻られました」
「そっか。ありがとなネロ。それと悪いな、ずっとこんなこと頼んで…」
アクセル達が遺跡探索に向かってからずっと後を付けてくる者達がいたのだ。
そしてネロにはステラの影に潜んでいてもらい、護衛を頼んでいたのだ。
「とんでも御座いません。お役にたてて何よりです」
では。とネロはドレスの裾を摘み、優雅に一礼すると魔結晶に戻っていく。
宿に戻ってからも暗殺を仕掛けてくる様子はないが、監視は付いていた。
しかしアクセルとミラはそれにも気付いており、特に気にする様子も見せていない。
そして何故か必死に眠気を堪えるステラを寝かし付ける。
「なんで今日は我慢してたんだろうな?」
「ふふ、仲間外れが嫌なのだろう」
「そんなつもりはないんだけどな…」
「君はステラをわざと遠ざけているだろう?相談事などもステラが寝てからだ」
「…………」
「余計な事に巻き込みたくないという君の気持ちも分かるがな…」
「気をつけるよ…まぁ、それは一旦置いといて…」
アクセルはそう言うと、わざとらしく咳払いをしたあと…
「で、遺跡で何を知ったんだ?」
「なに?」
「へへへ、俺も言ってみたかったんだ。まぁ、大体の見当はついてるけどな…」
「それは…………」
「……何を戸惑ってるのか分からないけど、あの遺跡は俺に宿ってる魔力…クロノスに備えて造られた物なんじゃないのか?で、最後に見た本にそれが書いてあった」
「………あぁ、その通りだ。咄嗟のことで隠してしまった。すまない」
「まぁ良いけど。もうこの馬鹿げた魔力とは折り合いは付けてるんだ。今更気を使う必要なんてないんだぞ?」
「あぁ、分かってるつもりではあったんだが、どうしても君にとってクロノスは辛いものという認識が抜けないのだ」
「…ありがとな!で、収穫もあったって言ってたろ?他に何か分かったのか?」
「あぁ、一つは君がさっき言ったことだ。もう一つは文字だ。あの本を記した者も我々と同様の文字を使っていた」
「それで何か分かるのか?」
「失われた文字もある中、現在も使われている文字も昔にはあった。ならばその文字と等しく何かしらの情報も受け継がれているのではないか?」
「おぉ!納得!!」
「ただどんな情報かわからないし、世代を跨ぐことで、些細なことから受け継がれてきたものが途絶えることもあるだろうがな」
「この世界の秘密みたいなものが他にも隠れてるかもしれないってことか…壮大な話になってきたな」
「まぁ私が興味を持っている歴史の分野だな」
最初ミラはクロノスについて調べることで、暴走し、発動する事への対策が見つかるのではと考えていたのだが、すでにクロノスはアクセルと融合を果たした為、暴走することはなくなった。
だが、調べていくうちに、なぜ文明を滅ぼしたクロノスの存在を知っている者達がいたのか、滅びた文明はどれ程の文明を持っていたのか等、アクセルとは違った意味で世界を知りたくなったのだ。
「俺的にはやっぱり手に取れる成果があったほうが充実感があるなぁ」
「ふふ、目指すものは違えど、その道は交わっているのだ。楽しんでいこうじゃないか」
「おぉ、意外な言葉が出てきたな」
「私はその道にステラも加わると尚嬉しいがな」
「だな!……よし!俺はちょっと夜風に当たってくるよ。お前は先に寝ててくれ」
「やれやれ…まぁそうさせてもらおうか」
こうしてミラはステラに寄り添うようにベットに入り、アクセルは一人宿を出た。
月明かりの下、アクセルは歩き出す。
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