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63話 ポロの闇

中盤以降にすこし過激な表現があります。苦手な方は注意してください。

「よし!こんなもんか。ミラと合流しよう」


武闘大会まで残り三日となった現在、冒険者ギルドを訪れ昨日に引き続き、とある依頼を受けていた。


ポロの街の建物は石造りの物がほとんだ。それは海が近いことが1番の理由なのだが、木自体もそれなりに貴重なのだ。


ポロは海と見晴らしのいい平原に囲まれ、その奥にある足場の悪い湿原により魔物や侵略者を阻んでいる。


そのため湿原にある木は決められた区画を厳重に管理され、一定の数量のみを伐採するようにしている。


この為、ポロの街では木を燃やし、燃料とすることが日常的には出来ないのだ。


その問題を解決するのが、現在アクセル達が採取している貝なのだ。


この薪貝と呼ばれる貝は、食用の二枚貝なのだが、殻を乾燥させた後、粉々に砕いてとある物と混ぜることにより燃料になるのだ。


そして薪貝に混ぜる、とある物も現在ミラが採取している。


こちらも石貝と呼ばれる食用の貝なのだが、薪貝と同じく粉にして使用する。

さらに混ぜる比率を変えることにより可燃性は無くなるものの、粘着性が生まれ、一種のコーティング剤のようなものに変わってしまうのだ。


この二種の貝の採取がポロの街の代表的な依頼となるのだが、住民達はこの貝集めをしていない。


高い波に攫われ溺れる者も少なくないため、屈強な肉体を持つ冒険者に仕事がまわっているのだ。


そして住民達は漁を主な仕事とし、冒険者達は周囲の魔物の討伐から生活を補助する薪貝といった物の採取をすることで上手く住み分けが出来ている。


依頼を受ける際、冒険者ギルドから支給される専用の袋いっぱいに薪貝を採取したアクセルはミラと合流し、5つほどずつ取り出し、食べて比べてみる事にした。


「昨日は全部納品しちゃったからな…とりあえず2、3個焼いてみるか」


「では私は別の物を作ろうか」


合流した浜辺で火を起こし、調理の準備をしているアクセルに対し、ミラも調理を始めた。


「お?蒸し焼きか?なるほどな」


「ただの蒸し焼きではないぞ?モーラさんから聞いた酒蒸しというやつだ」


その後、完成した料理を食べていると、一人の男が麻の大きな袋を抱え、崖先に向かっているのが見えた。


「またか…ここで食うんじゃなかったな…」


「同感だ」


ここポロでは、死者を弔う方法は水葬が主流だ。


まだポロに来て三日程しか経っていないが、幾度か水葬を目撃している。


麻の袋を抱えた男は慣れた手つきで袋を海に投げ落とし、手を合わせることなく振り返り帰ろうとしている。


その様子をミラは手を合わせ黙祷を捧げながら、アクセルは静かに眺めていた。


「…………!?」


しかし麻の袋が海に落ちる瞬間、ほんの僅かだが動いた。


それに気付いたアクセルは即座に時空間で飛び、海に落ちる寸前の麻の袋を受け止めた。


そして即座にミラの元に戻る。


「まさか…まだ生きているのか?」


「多分…」


そう言いながら袋の口を開く。


するとピョコンと白い毛の長い耳が飛び出した。


それを確認すると即座に獲物を捌く為の短剣で袋を切り裂いた。


「こ、これは……惨い」


そこには15、6歳程の見た目の女の子が一糸まとわぬ姿で横たわっていた。長い耳と、白く丸い尻尾。ウサギの獣人だ。


僅かに呼吸をしているが、状態があまりに酷い。


女の子は全身傷だらけの上、至る所に大きな水ぶくれのような物が重なるように出来ている。さらには所々それが破裂したのか、膿がジュクジュクと出てきていた。


そしてその膿の下からまた水ぶくれのような物が出来始めている。


「これは呪いか?」


「いや、少しだけど魔力を感じる。恐らく人がかけた呪いだ」


「呪法か…しかしどうする?いっそ楽にしてあげた方が…」


一般的に呪いというものは解くことが出来ないとされている。そこには様々な理由があるのだが、今回の呪法は別だ。


呪法とは呪いを擬似的に作り出し、魔力を介して影響を与える物のため、それなりに解く方法はあるのだ。


その代表が聖水と呼ばれる祈りが込められた水や、聖職者の祈りにより解く方法だ。


だが、当然アクセルもミラも聖職者などではないし、聖水も持っていない。


「死なせない!俺が…俺の魔力でこの呪法を消す」


「バカな!呪法は受けた者の魔力と結びついていると聞く。傷ついた身体に毒を流し込むようなものだ!!賛成出来ん!」


「どの道このままほっといたら死んじまう…それなら少しでも希望がある方にかける」


アクセルが今からやろうとしているのは可能な限り他人に影響を出さないほど魔力を薄くし、尚且つ獣人の女の子の魔力に結びついた呪法の魔力だけを消していくという、他の者達が聞けば正気を疑うような作業だ。


この女の子が元気であったなら多少影響を出してでも作業を速くすることは出来たがそれは叶わない。


そして慎重になりすぎる余り時間をかけすぎてしまうと今度は女の子が衰弱して死んでしまう。


ふぅと息を吐き呼吸を整えたアクセルはミラの反対を押し切り作業に入る。


女の子の腕に手を置き、魔力を流し込んでいく。


女の子の身体が僅かに跳ねるが、アクセルは深く集中し作業を進めていく。


そして少しすると女の子の腕にあった水ぶくれが徐々に消え始めていくと同時にアクセルの額には汗が浮かんでいる。


(まさか!?…本当に可能なのか…)


アクセルのことを信じ切っているミラでさえ、今アクセルがやっていることに驚愕している。


しかしすぐに思考を巡らせ始める。


「私は呪法を取り除いたあとに必要な物を買い揃えてくる」


「たのむ…」


そう言うとミラはすぐに街の方に走り去って行った。



読んで頂きありがとうございます

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