154話 死地へ
「はぁ、はぁ、次から次へと………鬱陶しい」
「ソニア、平気か?」
「また階段が崩れてくる前まで休めば、まだまだ平気です」
アクセル達は魔物の群れを階段まで一気に切り崩し、階段まで辿り着くと、階段が崩れてくるまで休憩し、再び階層を進むといった方法で下層を目指していた。
しかし流石のアクセル達もこれまでの様に無傷とはいかず、少なからず被害が出ている。
中でもソニアは癒しの炎を仲間達に優先したことで、自身にその効果を回せず、痛々しい傷が目立ち始めていた。
所持していた薬の予備はまだ充分にあり、このまま強行を続ける事は可能ではある。
しかしこの先に待ち受けているであろう脅威を考えると気が滅入ってくるのもまた事実だ。
それでもアクセル達をダンジョンがゆっくりさせてはくれず、階段がまた崩れ始め、アクセル達は下層へと進む。
そして背後から魔物の群れに追われる形で90階層に続く階段に辿り着く。
「ふぅ……少しは休ませて欲しいもんだ」
「ソニア、大丈夫?」
「あぁ、問題ない」
「しかし、これで魔物達が階段まで侵入する事が出来たなら………ダンジョンを踏破するのは不可能だろうな」
「だな。多分ダンジョンもここまで人が来ることを想定……………」
アクセルが階段を少し降った所で言葉を止め、足を止めて後続に続く皆に手で静止を呼びかける。
「ふぅ………………時空間だな」
「なにっ!?」
「外に繋がってる………わけない……よね」
アクセルは階段の丁度中間辺りから時空間魔法が仕掛けられているのを感じ取る。
自身が使えるからこそ、それに気付けはしたが問題はそこではない。
「ミラ、どう思う」
「…………まず間違いなく最後の手段といったところだろうな。外に繋がるということは、今更考えられない」
ここまでなりふり構わず侵入者を殺そうとしてきたダンジョンが階層主が居るであろう階層の手前で、わざわざ外に繋がる時空間を仕掛ける道理はない。
そこから考えられるのは最悪の未来だ。
「ここまで来た侵入者を確実に殺す方法…仕掛けられた時空間を使い、戦力を分散し、個々を確実に打ち倒す……さらに付け加えるなら数の暴力を越えて来た者達に数をぶつけるとも思えない。数の暴力に勝る強者をぶつけてくるだろうな」
「ここに来て時空間なんてもん使うにはそれ以外、ないだろうな」
階段を進めば時空間に呑まれ、皆がバラバラに何処かへと飛ばされ、強者と一対一で対峙を余儀なくされる。
「後ろはすでに魔物達が押し寄せて戻る事も出来ない。時間が経てば階段が崩れ、進むしかなくなる。進めばその先には今まで以上の強者…………笑えないな」
しかし皆がすでに進むしかないことを理解し、薬の分配を始める。
そして万全とはいかずも、信頼のリーレスト産の薬を惜しみなく使い可能な限り万全に近付ける。
「覚悟を決めろ。絶対に生きて帰るぞ」
「あぁ」「うん」「はい」
「無駄だとは思うが一応、俺に触れて階段を降りろ。時空間を無効に出来るかもしれない」
こうしてアクセル達は階段の崩壊を待たず、死地へと歩み始めた。
そして階段の丁度中間、そこに皆が並び一斉に足を踏み入れようとした時だ。
「なっ!?」
アクセルの体から皆の手が一斉に離れる。
直後、アクセルは1人階段に取り残されていた。
「くそっ……………皆、無事で居てくれよ………」
そう願い、アクセルは1人で先に進む。
そこで目にしたのは2体の異様な階層主。
立ち止まることなく階段を降り、階層主がいる部屋に踏み込んでいく。
アクセルが部屋に踏み込んだことで階層主が動き出す。
夜の暗闇が形を持ったかのようなドラゴンと、同じく眩い光が形を持ったかのようなドラゴン。
闇竜と光竜がその巨体で宙に浮き、眼下のアクセルを見据え咆哮をあげる。
「はは、……………貧乏くじは俺か?」
そう強がるアクセルの頬を汗が流れ落ちた。
―▽▽▽―
「くそっ!まさかあの様な小細工で手を離してしまうのは………」
そう零すのは、皆で階段の中間に足を踏み入れようとした際、背後から雪崩込んでくる魔物達から皆を護ろうとしてアクセルから手を離したミラだ。
「私以外の皆も同時に手を離すのが見えた……無事でいてくれ」
ミラが見た雪崩込んでくる魔物達は幻。
今ミラは1人静かに階段を降っている。
そして予想した通り、ミラの進む先にも階層主が待ち受けていた。
「大きさの有利を捨てられるほど強者か………」
部屋に入り、ミラと対峙するのは一見、人間のように見える。
しかしミラも連戦の猛者だ。
ここに来て階層主がその巨体を捨て、人間と変わらない大きさになっている事で、より一層気を引きしめる。
「さっさと片付けさせてもらう」
ミラがそう声をあげ、魔族の姿へと変貌する。
遠慮や配慮など一切ない、ミラが全力を出し切ることが出来る姿だ。
「なん……だと」
それに合わせたかのように階層主の人間だと思われた者も姿を変える。
背には純白の翼が、体には聖なる力を宿した鎧が纏われ、頭部には丸い輪が浮いている。
「ふっ…………まさか伝承にあった天使などという種族と、合間見えようとはな!!」
その言葉と共にミラが魔剣を携え、階層主の天使へと斬り掛かる。
天使はミラから振り下ろされた剣を、光が寄せ集まり出来た剣で防ぐ。
魔族のミラ、階層主の天使の一騎打ちが始まる。
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