153話 危機の連続
「嫌な形してるな……」
階層主の見下ろしながら階段を降る途中、その姿を見てアクセルが零す。
階層主は磨かれたように滑らかな岩で出来た巨大な球体だ。
それ以外に変わった特徴もなく、雪が積もっただけの雪原の真ん中に陣取るかのように鎮座している。
「行くか………」
そう言って先頭をアクセルが歩き、最後にミラが階層主のいる部屋に足を踏み入れる。
その瞬間__
「防!!」
アクセルが短く叫び、すぐにステラが準備に入る。
それと同時に階層主の表面が僅かに脈打ちながら発光し始めた。
アクセルはステラを抱え、部屋の1番角、球体から最も距離が離れた場所に移動し、ミラとソニアもそれに続く。
「最大!」
アクセルの言葉を聞き、ステラが最高硬度の氷で4人を覆う氷の空間を作り出し、その外側にはソニアの風と炎が纏われ、さらにその外側にミラの雷が覆う。
氷の内側にはソニアが癒しの炎が灯され、鉄壁の構えとなった。
アクセルは何も力になれない事に焦りを募らせつつも、魔法を展開する仲間達の1番前で襲い来る衝撃に備える。
次第に階層主の光が激しく点滅を始め、そして点灯に変わった後、光が消え失せ球体が半分に割れる。
直後、眩いばかりの光が放たれ、部屋全体を波立たせるほどの衝撃が襲い来る。
「耐えろ。頑張ってくれ!!」
遅れて響く轟音の中、アクセルは皆に声をかける。
しかし衝撃はその1度だけではなく、2波、3波と続く。
それをなんとか凌ぎきった。
「大丈夫か?」
「次は不味いかも…」
「流石に無いと信じたいが…」
「戻りますか?」
階層主である球体は自爆をしてきたのだ。
それもアクセル達が全力の防御で辛うじて防ぐ程の威力で。
ソニアの提案で引き上げる事も視野に入る。
「それは無理なようだ」
上へと続く階段が切り取られたかのように無くなっているのだ。
「…っ!行くぞ」
ミラの言葉のすぐ後にアクセルが慌てた様子で皆に告げる。
「もう………」
「早すぎる………」
皆がアクセルに続き、走りながら部屋の中央に視線を集め、小さく零す。
階層主である球体が下が徐々に形成され始めていたのだ。
一気に階段に雪崩込む。
「階段も無事なようだし、ここなら大丈夫か?」
「全く……とんでもないな」
「はぁ、ビックリした」
「まさかあんな物が存在するとは…」
部屋に入るなり爆発する階層主など、初見で対処しろという方がどうかしている。
さらに威力もこれまでの階層からは考えられないほどだ。
「しかしマスター、よく気付いたな」
「魔力が一気にあの球体に集まり始めたからな………」
階段に座り、すこし休憩をすることした。
「正直、先に行くのは怖いな」
「同感だな……上に上がる階段が急に消えたのは流石に肝が冷えた」
「もう階段、戻らないのかな?」
「いや、急な事で焦ったけど、多分見えないだけだった可能性もある。調べるにしてもまたあの爆発に耐えてからになるな」
「先に進んでも戻れる保証がなく、戻るにしても同じ………かなり不味いように思えますが…」
「とびっきりで不味いな。だが………」
「進むしかないだろうな。別の帰り道があるかもしれん。希望的観測だがな」
「ここまで来たら先に何があるか知りたいね」
「ここまでして守る何かがあるのは確かだろうな」
アクセルの言葉に皆が頷き立ち上がる。
そして階段を降り始め、部屋の様子が視界に入る。
「なりふり構わず………か」
―81階層―
そこには障害物が一切ない四角の大きな部屋があり、その部屋に魔物が所狭しとひしめいていた。
空にはドラゴンや翼竜、巨大な鳥のような魔物が旋回している。
「避けて通れる量じゃないな」
「私がっ…」
「「「駄目だ」だ」!」
ソニアの提案を一斉に否定する。
「あの数は流石に無理だ。魔力も結構使ってるだろ」
「………っ!?おい、マスター……あれ…」
ミラが焦ったように声を上げ、魔物の群れを指差す。
それを見たアクセルも最初は視線を泳がせていたが、何かを見付けて声を震わす。
「な、なんで…なんでアイツがいる!ベヒモスは特異個体のはずだろ」
魔物達がひしめく部屋の中にかつてアクセルの故郷を滅ぼした魔物、ベヒモスの姿があった。
しかしやや姿が異なり、腕もさほど太くなく、四足獣のように歩き回っている。
特異個体とは種として存在する者ではなく、強力な1個体に付けられる呼称だ。
「あれがベヒモス…………待って!!あれ!!ルプレックスもいる」
ステラが声を上げながら指差す先には紛れもないルプレックスの姿があった。
「強者大集合だな………」
改めてよく見ると、現在でも強力な個体として知られる魔物がかなり多くいるのが分かった。
「流石にこれなら戻る方が………」
ミラが途中で言葉を止め、階段上方に視線を向ける。
「階段が崩れてきている!!」
「ちっ!!!覚悟を決めろ。行くぞ」
強者がひしめく、隠れる事も出来ない場所にアクセルは踏み込んで行く。
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