148話 復興への1歩
「皆さん、聞いてください」
幼いながら澄んだシャルロットの声が響く。
「ピーサリアを復興する以前に、まずは現状を確認したいのです」
シャルロットの想いに応え、人々は立ち上がりはしたが、現実は無情なものだ。
食料も蓄えは底を尽きかけ、田畑は荒れ、狩りをしようにも生き残っているのは女、子供、老人が主で、若い男は数十人ほどしかいない。
そんな人々が住む場所は全焼を避けた数軒の建物で、皆が寝泊まりしているような状況だ。
食料ならアクセルが大量に仕入れてきているが、それは目先の問題しか解決出来ない。
それを理解しているアクセル達はシャルロットや街の人が話し合っているのを静かに聞くだけに留めた。
「まずは私達が生きなければなりません。その為にも今は個を捨て、皆で分け合い、助け合いましょう」
そんなシャルロットの言葉を聞き、老人の1人が作物を育てる知識はあると言い、数人のの女性が皆に食事を用意すると言う。
次第に自ずと役割が決まっていき、人々が動き出す。
「ふぅぅぅ…………」
そんな人々が自身の周囲から離れた瞬間、シャルロットは震える声で大きく息を吐き出した。
そんなシャルロットの頭にアクセルが手をのせる。
「良く頑張っているが、無理は良くないな」
「無理など………」
「態度、喋り方、考え方…………お前くらいの歳のやつはそんな風には出来ないよ」
「で、ですが……」
「子供らしくあれ!なんて言わない……だけど自分を偽る必要はないってことだ。ありのままのお前を皆に見せればいい。そうすればお前の力になりたいと思う奴が、お前の足りない部分を補ってくれる」
目を閉じ、ぎゅっと服の裾を掴んでシャルロットは俯いたままだが、手に入れた力は次第に抜けていき、目を開く。
「そう………ですね。私が王である必要はない。1人で全てを背負うには私の背中は小さ過ぎますね」
「くっ……はっはっはっ。全く大した子供だよ、お前は」
シャルロットの子供らしからぬ言葉にアクセルも思わず笑いだしてしまう。
「だけど、そう通りだ。背負いきれずに押し潰されちゃ意味がないからな。頼れるものは頼れば良い」
「はい!…………では1つお願いがございます」
「ん?なんだ?」
「じつは___」
シャルロットからお願いは予想外のもので、人を集めたいというものだった。
そしてそれはただ人を集めるのではなく、国を再興するための人材が欲しいとのことだった。
この地には人が100に満たないほどしか居ないのだ。
集めようと考えるのは当然ではあるが、突然他所からきた襲撃者に襲われ、そして生き残ったこの地の人々を想い行動していたシャルロットから発せられたことに驚いたのだ。
「良いのか?それはつまり余所者をこの地に踏み込ます事になるんだぞ?それに頼むにしても無償ってのは流石になぁ」
「確かに思うところはあります………しかし今の私達は余りに幼く、未熟です。そして対価など当然支払えません。ならばこの地に居着いて貰えば良いのではないでしょうか」
「つまり移民か………しかしなぁ」
「アクセル様達は旅をしておいでなのですよね?その旅の途中でこの地の現実をありのまま伝えてもらい、そうやって来てくれた方を私は無下にするつもりはありません」
確かにもっともな意見ではあるのだが、希望的観測が過ぎる。
そんな物好きがいるようにはとても思えないのだ。
「無謀なのは承知しております。しかし何かしなければと……」
「分かった。覚えとくよ」
シャルロットは1礼し、田畑を耕している者達のもとへと駆けて行った。
「意志の強い子だ………」
アクセルとシャルロット様子を遠巻きに見ていたミラ達がアクセルに近寄る。
「自分が恥ずかしくなってくるよ」
「ふふ、あながち間違いでもないだろう」
「あぁ?」
「冗談だ。しかしさっきの話だが……」
「何か良い考えがあるのか?」
「というより心当たりがある。この地に来てくれそうな人物にな」
アーサーを残しミラの言葉を信じ、仲間を連れ時空間でとある街にとんだ。
「懐かしいな……」
「またこうして戻ってくるとはな…」
アクセル達がやってきたのは中央大陸の要人達が数多く暮らす街、アシュリットだ。
そしてこの街にいるミラの心当たりがある人物というのが……
「いらっしゃ……………ミラちゃん!!!!」
「お久しぶりです。イリナさん」
ミラと同じく魔族との混血、イリナだ。
「ふむふむ…なるほど」
尋ねてきたミラ達を店に入れ、閉店の看板を出したイリナは話を聞いたあと、暫し考え込んでいた。
「ミラちゃん、あの話はしてるの?」
「いや、まだだ」
「うん?」
「もう坊やなんて呼べないわね……アクセル君、私は可能であればピーサリアに行ってみたい。というよりここに居たくないのよ」
イリナがここアシュリットに住んで100年ほど経過している。
魔族の血が流れるイリナの存在に気付いた昔のアシュリットの聖職者がイリナの力を教会に封印し、監視のためこの地に縛り付けていたのだ。
決して受け入れたからではない。
封印し、殺さなかったのは単純に他の魔族の報復を恐れてのことだ。
そして今この地に暮らす者達は、イリナのそんな事情を知らされておらず、また時が過ぎたことで忘れ去られていた為、イリナは平穏な日々を送れていたのだ。
「なるほど、つまりその封印を俺に何とかしろってことか」
「あぁ、私も同様に魔族の血が流れている。以前、教会には入れなかった。もっと言えば封印を解くことも恐らく出来ないだろう」
「私も、もう諦めてたんだよね……私の意志じゃほとんど魔力が使えないから適当に薬師をやってるけど、本来、私は魔道具を作る方が得意なの。封印なんて理由がなきゃ、誰が好き好んでこんな貴族の馬鹿どもが集まる場所で暮らすかっての!」
「まぁ、そっちの都合は分かったけど、急にその封印なんてもんが解けても大丈夫なのか?」
「勿論、考えはあるさ」
ピーサリアに移住するイリナの為、まずはイリナに施された封印を解くことになった。
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