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147話 小さな想い達

(まだここには居るつもりだし、食料なんかは俺が持ってた方が良いか………傷まないしな)


魔獣による脅威がないことが判明し、夜のピーサリアに各々が散らばっていく。


アクセルは大量に買った食料を王宮の地下に運ぼうと向かっていた途中ふと気付き、足を止めていた。


そして火を囲み多くの人が集まる場所へと戻ろうとした時、土を掻くような僅かな音が聞こえてきた。


すぐにアクセルは魔力を拡散し、その物音の正体を確かめる。


「……お前なぁ………………」


そこにはシャルロットの姿があり、手にはクワを持ち、月明かりの下で荒れた土を耕していた。

そして、少し距離をあけ、アーサーの姿もあった。


「すみません師匠…私には止めることが出来ず……」


アーサーはアクセルに駆け寄り視線をシャルロットに向けながら謝罪をしてくる。


「今ある食料だけでは、皆さんを養うことはすぐ出来なくなります。少しでも多く皆さんに………」


12、3歳の少女が生き残った人々を想い、必死に未来を切り開こうとしている姿に胸を打たれる。


しかしだからこそアクセルはシャルロットに近付き、振るわれた腕を掴んで無理矢理にでもシャルロットを止めた。


「だからってお前1人で何が出来る!!!」


「お離しください!…………私が、私がやらないと……」


「小娘1人がこの街の住人全て救うって?馬鹿言ってんじゃねぇよ……大事に思ってる奴、たった3人護るのに俺がどれだけ苦労してると思ってる」


「私は貴方のように誰かを護れる力などありません!でも、だからこそ、こうやって私が出来ることをしているのです。邪魔をしないでください」


「そうじゃないだろ!!!」


周囲にアクセルの声が響き渡り、そんな声に圧倒されてかシャルロットも手を止めた。


「お前が街の人を大事に想い、救いたいのはよく分かった……だからこそ先を見ろ!」


シャルロットは王女としての誇りか責任か、国が滅ぼされてからずっとこんな調子だったのだろう。

人を想い、ひたすら動き続けていたその身体は、限界などすでに超えている。


「俺は確かに多くの脅威を退ける力はある………だけど今、それは救う力にはならないんだよ」


「………………」


「周りを見ろ!!」


アクセルに促され、シャルロットは周囲に目を向ける。


そこには夜な夜な大声で言い合っていたアクセルとシャルロットが気になったのか、子供を含む数人が様子を見守っていた。


「1人の力なんてたかが知れてる。でも、だからこそ力を合わせるんだ!………力を合わせるのも簡単じゃない。デタラメに合わせたとしても、すぐにバラバラになる。そこにはそれ等を纏める芯が必要なんだ。そして合わせた力をどこに向けるか決める奴も必要だ。……分かるか?」


アクセルの言葉を聞き、シャルロットは力なく座り込む。


「お前は間違いなくこの国の芯だ。その芯が折れたら………分かるよな」


涙を堪え、静かに何度もシャルロットが頷く。


「しっかりと休むことも大事だ。明日を生き抜くにはな」




―▽▽▽―



「全く……大した子だ……」


「あぁ………」


子供達と一緒に眠っているシャルロットを見てミラとアクセルが感嘆の言葉を漏らす。


「ミラ、俺は………アイツの力になってやりたい」


「あぁ。私はそんな君の力になろう」


「僕もいるよ!!」


「私もです!!」


そんなアクセル達の会話をアーサーは静かに聞いていた。


―翌日―


シャルロットとアクセル達は全ての者を埋葬し終え、さらに2つの村の者達も埋葬を行った。


「ありがとうございました」


街に帰り着き、人が集まる場所にまで戻るとシャルロットが頭を下げた。


「気にするな」


アクセルの言葉を聞いたあと、シャルロットは暫し顔を伏せる。

しかし顔を上げたシャルロットには覚悟が見て取れた。


そして周囲の人々に視線を向け語りかけた。


「皆さん、聞いてください。今このピーサリアは国ではなくなったのかもしれません…しかしまだ私たちは生きている。お父様やお母様、亡くなられた皆さんの想い………そして今、生きている私達の思い出が詰まったこの地を、私はこのままにしたくはありません。だから……取り戻しましょう!私達の手で!私のこの想いに力を貸して頂けませんか?どうか…どうか…」


シャルロットが語りかける。

この国を、再び国として蘇らせたいと。

いなくなった者達の想いを受け継ぎたいと。


生きる希望を失っていた人々にシャルロットの声が届く度に少しずつ希望の光が灯っていく。


「……うむ。こんな老いぼれが役にたてるか分からんが…」

「えぇ、私もやるわ!」

「俺もだ!!」


1人、また1人と人々が立ち上がる。


そして全員が立ち上がるまでさほどの時間はかからなかった。


「皆さん…………ありがとうございます。必ず成し遂げましょう。私達の手で!」


周囲は拍手に包まれるそんな中、シャルロットに向けてアーサーが静かに歩み寄る。

そしてシャルロットの前に来ると、おもむろにひざまづき、頭を垂れる。


「シャルロット様…私不肖騎士アーサーは感服致しました。つきましては、貴女様、そして貴女様が想うこの国の剣となり、盾となる所存…忠義を尽くす所存であります。どうか私の忠誠を受け取っては頂けませんか」


アーサーがそう述べながら、丁寧に自分の持っていた剣をシャルロットに差し出す。


「…………………分かりました。いえ!」


シャルロットは1度自分の言葉を否定し、覚束無いながらも差し出されたアーサーの剣を受け取り、鞘から抜いたあとアーサーの両肩を剣の腹で軽く叩く。

そして剣を鞘に収め、アーサーへと差し出した。


「アーサー、貴方の忠誠、確かに受け取りました。代わりに私の信頼を貴方に託します」


「はっ」


アーサーが短い言葉と共にシャルロットより剣を受け取る。


「これからよろしく頼みますね。アーサー」


「全ての力を持って、お仕え致します」


こうしてアーサーはシャルロットに仕える騎士として人々を支えていくことになる。


そして、そんなアーサーは人々に囲まれているシャルロットから離れて、アクセルのもとへとやってきた。


「なかなかカッコよかったぞ!」


「師匠……いえ、アクセル様。私が国を出たのは、今日この日の為だと確信しております。導いてくれたアクセル様に感謝を…」


「大袈裟だ…それに」


「はい。これから!ですよね」


「そういうことだ」


人々の輪を抜けだしシャルロットもアクセルのもとへとやって来た。

そして困惑の表情を見せながらアクセルに問いかける。


「あの、先程の忠誠の儀はあれで良かったのでしょうか…私初めてで、自信がなくて……」


「知らん!…だが、大事なのは形より想いだ。間違っていたとしても、いずれさっきのを正解にすればいい」


「はい!………それと、もし可能でしたら、今しばらく力をお貸し願えないでしょうか」


「おう!きっちりこの"国"を見届けてやるよ」


こうしてシャルロットを中心にピーサリアの復興が始まった。

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