表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/167

146話 ピーサリアの今

「何があった…」


祈りを終えた少女に水を手渡し、アクセルは話を聞く。


この少女、ピーサリアの王女であるシャルロットは自己紹介をした後、礼を述べ、語りだす。


「突然のことでした___」


争いなど無縁なこの国で、王女とはいえ、街の者達と共に田を耕し、野菜を収穫し、子供達と遊ぶ。

そんな何気ない日常を送っていたある日、なんの前触れもなく襲撃にあったそうだ。


周囲の村からの伝言を聞き、すぐにシャルロットや女、子供、老人達は数名の男を護衛とし複数に別れ、街の外にある洞窟に避難したそうだ。


その為、誰がどんな理由で襲ってきたかは把握しておらず、さらには避難したはずの者達も帰ってきたのは3組だけだと言う。


「……わっ、私は……わたしはぁ…………」


「もう良い………今は休みな」


アクセルはそう言って嗚咽を漏らすシャルロットを抱き寄せる。


孤立し、たいした特産もないこの国が恨みを買うはずはない。

そして遺体の惨状からして、恐らくだが襲撃者の欲求を満たす為だけにこの国は滅ぼされたのだ。


アクセルにも遠い記憶が蘇る。

魔物に襲われ、故郷を滅ぼされた記憶だ。自然とシャルロットを抱くその手に力が入る。


落ち着きを取り戻したシャルロットはアクセルから離れ、立ち上がると、おもむろに動き出す。


「おい…無茶するな」


「…もう大丈夫です。まだ生き残った人達がいます。飲み物と食べ物を届けてあげないと……」


シャルロットは王宮の方へ覚束無い足取りで歩き出す。


そんなシャルロットの横につき、アクセルも歩き出した。


そして王宮の中へと入り、ひんやりとした地下に僅かに蓄えられた食料をカゴに詰め、さらに別の地下部屋へと行き、地下水をコップに汲み、それをお盆に乗せて運ぶ。


「俺がやるから、お前はもう休んでろ」


「私は…こんなことしか出来ませんから…」


小さな身体では何往復もすることになるだろう。

しかしシャルロットは動くことを止めなかった。


そんなシャルロットについて回り、人々に水と食料を配っているとステラやアーサーと合流する。

そして王宮の地下を何往復もし、全ての人に配り終えた後、木陰で休憩しているシャルロットは背を木に預け、座ったまま眠りについていた。


「アーサー、お前はこの子に付いててやれ」


「はっ……しかし」


「今は何も出来ない。情報もないからな」


そして程なくミラ達とも合流する。


「生き残りはいなかった」


「……………」


それは村の事ではない。

アクセルを通じ、シャルロットの話を聞いていたロア達が村からの帰り道、避難に使っただろう洞窟を探し、現状を見て回っていたのだ。


「洞窟内部から破裂したかのような様子だった。洞窟も完全に潰れていた。それが3箇所」


「手分けして探したので未発見の洞窟は恐らく無いかと………」


「分かった。俺は1度アートランに戻る」


アクセルは時空間でアートランのギルド長室に直接飛ぶ。


すでに日は傾き始めていたが、未だにアリーは部屋に居てくれていた。


「………っ!?…ホントに君は突然現れるね…それで?」


「あぁ、敵はすでに居なかった。生き残りも100に満たないが、いる」


「分かった。でも………」


「分かってる。これ以上ギルドとしては手が出せないんだろ?」


「うん……ごめんね」


アートラン、その中の冒険者ギルドが今回は動いたのは襲撃したのが魔族である可能性があったからだ。

そしてその脅威が今現在確認されていない現状、冒険者ギルドは動くことが出来ないのだ。


「その代わり、この街の食料や水出来るだけ買っていくぞ」


「私はからも出させて!これは私個人としてだから…」


こうしてアクセルは、なるだけ日持ちがする食料や水、衣服をありったけ買い込み、夜ピーサリアへと戻った。


しかしさらに問題が見つかった。


戻ってきたアクセルを見つけるなりミラが呼び止める。


「どうした?」


「困ったぞ……ここには魔獣避けの結界が張られていない。村もそうだった」


それを聞きアクセルは顔に手を当てる。


「壊されたのか?」


「いや、探してみたのだが、残骸すら見つけられていない」


人が集まる場所には必ず魔獣避けの結界が張られている。

それは魔獣避けの木でも存在しない限り、どんな劣悪な王が治める国であっても例外はなく、義務であり必須事項だ。


「つまり魔獣避けの木があるってことか?」


「私には判断出来ん…」


「いや、俺もだぞ……ステラは?」


「断定は出来ないと言っていたが、今見て回ってくれている」


街の人に話しかけても返事すら帰ってこず、またシャルロットも分からないらしい。


「でも、それってつまり今まで魔獣に襲われていないって解釈も出来るよな?」


「そうであると良いんだが……」


そんな相談をしていると、ステラが帰ってきた。


「あ、マスターおかえり」


「あぁ、ステラもおかえり。それで?」


「うん!僕達が行っていない村の方にも行ったんだけど、あの丘の周囲の森には精霊が宿ってたんだ。上手く会話は出来ないようだけど、僕の質問には答えてくれたんだ。魔獣はあの森にいる精霊がこの地域の木を通じて寄せ付けてないみたい」


「精霊……つまりは結界が無くても大丈夫ってことか…」


「うん!」


一先ず魔獣については大丈夫なようだ。

読んで頂きありがとうございます。

よろしければお気に入り登録、評価、感想よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ