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145話 惨劇

アーサーを伴い、ソニアが空を駆ける。


すぐに荒野が見え始め、そして山が見えてきた。


険しく高い山を越えると、視界いっぱいに森が広がる。


その森のまだ先に煙が立ち昇っているのが分かった。


「ソニア、まずはあそこに向かってくれ」


「承知しました」


だんだんと近付いてくる煙の出処は、小さな村であった場所だ。

その村の上空へと到達し、空から周囲を見て回る。


「かなり手酷くやられてるな……」


建物は全て燃え、動く者はいなかった。


惨状に顔を背けるアーサー。


「お前達はここに居てくれ…」


アクセルはそう言うと1人ソニアの背から飛び降り、村へと降り立った。


(匂いは?)


アクセルがロア達に問いかける。


(血と煙で……)

(分かった…何か気になる事があったら教えてくれ)


そうロア達に告げると、ロア、ロイ、ネロがそれぞれ姿を見せ、周囲に散らばっていく。


完全に奇襲を受けたのだろう。

道にも遺体が横たわり、中には建物から出ようとしたところで襲われ、出入口のすぐ横の壁に剣で縫い付けられ燃やされている者も見て取れた。


アクセルも魔力を拡散するが、情報に繋がるものは何も得られなかった。


ソニア達を呼び、皆が村に降り立つ。


1人の遺体を、膝を付き見ているアクセルにミラが話しかける。


「どうした……」


ミラはそう問いかけながらも遺体に視線を向ける。


「随分と痛めつけられてる……」


その遺体は目が抉られ、耳を削がれ、腕が無く、腹が大きく切り裂かれていた。


それは決して恨みがあった訳では無いはずだ。

焼かれず残っている遺体はどれも似たような有様だったのだ。


「魔族…………だと思うか?」


「いや、多分違う…上手くは言えないが、これをやった奴は、なんかこう…力を試してるような…そんな感じがする」


魔族も人間を虐げるが、やり方が違う。

魔族にとって人間は玩具なのだ。すぐ壊すようなことはない。

仮にすぐ殺すのであれば必要以上に痛めつける必要も無いはずなのだ。


「しかし……」


「とにかく他の場所も行こう。まだ生きてるやつが居るかもしれない」


残念だが、この村の者達を弔うのは後回しにし、村を去った。


平原を飛んでいると、遠目で海が見え、進路方向左手には大きな街が、進路方向右手には小高い丘とその周囲を囲むように森が見える。

そしてその丘の手前に村があった。


「2手に別れる。ミラはソニアとあの村へ。ロアとロイもついて行ってくれ。ステラとアーサーは俺と街へ行くぞ」


ミラ達と一緒にロアとロイが居れば離れていてもアクセルには状況が把握出来る。

皆が黙って頷くと、アクセルはアーサーを抱えソニアから飛び降り、ステラもそれに続いた。


「ネロ、悪いがアーサーを乗せてやってくれ」


地面に降り立ち、アクセルはそう呟くと、ネロがアーサーの股下に姿を現し、すでに背に乗せているような状態となった。


「しっかりと掴まっていてください」


「お手数お掛け…」


アーサーの言葉を最後まで聞かず、すでに走り出していたアクセル達の後をネロが追う。


城壁もない街へと踏み入ると、まず目に付いたのは正面にある王宮だった。

しかし豪華絢爛とは程遠く、周囲の建物と区別する為に造りが違うといった具合のもので、石造りの大きな建物といった印象だ。


そして周囲に建ち並ぶ建物は尽くが焼け落ち、数える程しか使える物が残っていないような有様だった。


「師匠!人が……」


そんな残された建物の傍に力なく座り込む者を数名見つける。


「大丈夫ですかっ?」


アーサーがそう声をかけても皆が顔からは生気を感じず、無気力なまま、アーサーに視線だけを向けていた。


「アーサー、お前はここに残っていてやれ。ネロ、お前も」


アクセルはそう言うとステラと別れ、別々に街を見て回る。


少しすると、ロアから声が届く。


(マスター、こちらの村も先程の村と同様です…)


(分かった、戻ってきてくれ。こっちはまだ生き残ったやつが何人かいる)


そう告げた後、アクセルは目を閉じる。


この惨劇が戦争故のことであったとしても、ここまで徹底的にやられた場所は始めてみたのだ。


生き残りを見つけると食料と水を手渡しながら王宮の方まで進むと、遺体が横たわる傍で何かをしている少女を見つける。


その少女はアクセルを見つけると手を止め、話しかけてきた。


「旅のお方ですか?ここはご覧のような有様……早々に別の場所へとお行きになった方が宜しいかと…」


見ればその少女、全身古くなった血と泥で黒く汚れ、元は綺麗なドレスであっただろう服は所々焦げ、破れている。


少女はそれだけ告げると、足元の遺体を板に乗せ、小さく細い腕で運ぼうと頑張っていた。


「無理するな…俺も手伝うから」


アクセルは1度に数人担ぎ、少女と共に遺体を運ぶ。


少女が足を止めた場所にはすでに、新しく盛り上げられた土が数え切れないほどあり、そこには1輪の花が添えられている。


「これ、全部お前が?」


「…私にはこんなことしか……してあげられませんから…」


予め掘っていたであろう穴は、すでに1つしか残されておらず、その穴に遺体を纏めて埋葬する。


花を添え、膝を付き両手を組んで祈る少女の手はすでにボロボロになっていた。


読んで頂きありがとうございます。

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