143話 アーサー
ダンジョンから豊富な資材と共に帰還したアクセル達は、薬になりそうな素材と、薬師のカミルに依頼させていた素材、ドラゴンの魔石以外は売り払い莫大な資金を得ることが出来た。
61階層からは環境的にも更に厳しいものとなるため、しっかりと準備をし、後々挑むこととなった。
そして現在はソニアの背に乗り西大陸を離れ、リーレストを目指している。
大々的に公表はされないが、人魚国とリーレストが正式に交易を始めることになり、その初交易が今まさに行われているのだ。
アクセル達の眼下には巨大な氷の塊となった魚介類が荷車に載せられ、数人の人間に扮した人魚と共に人々がリーレストを目指している。
そんな様子をリーレストまで見守り、無事辿り着いたことを確認する。
「さて、これで俺達の手を完全に離れたと思って良いよな」
「あぁ、歴史的な1面を目の当たりにしたな…」
「マスター、これからどうするの?西大陸にすぐ戻る?」
「ん?うーん、せっかくだし、のんびりアートランにでも顔出そうぜ」
こうして非常にゆっくり、優雅な空を旅をしていた時だった。
中央大陸の南に位置する平原で、魔獣3匹に襲われている人間を発見した。
よく見るとすでに魔獣の2匹には動けないほどの手傷を負わせ、残りの1匹と対峙しているようだった。
しかし対峙している人間もすでに限界のようで辛うじて攻撃を防げているといった状態だ。
「ソニア!!」
アクセルはそんな様子を見るとソニアに1声かけると、ソニアの背から飛び降り、そのまま剣を抜き魔獣へと向かう。
そして勢いそのままに魔獣を斬り伏せた。
間をおかず残り2匹の魔獣にミラとステラが斬り掛かる。
「平気か?討ち漏らしは?」
アクセルが襲われていた人間、もとい、青年に声をかける。
「だ、大丈夫です……」
声を震わせ絞り出すように青年が答える。
「安心しろ。周りにはもう居ない。怪我は?」
「少し掠った程度です……」
魔獣から受けた傷は例えかすり傷であったとしても呪いにより死に至る。
確実に仕留めた今、死ぬことはないがその恐怖は計り知れないものだっただろう。
「そうか……良く持ち堪えたな」
周囲の警戒を怠ることなく青年の傷を手当てしながら話を聞く。
「しっかし、何だってこんな所に1人でいたんだ?」
この青年、身なりや言動、そして魔獣を1人で相手取る力量と、かなり良い家柄の人間に違いない。
そんな者がなぜ1人でいるのかが気になった。
「それはっ………申し遅れました。私はアーサー・っ………アーサーです。助けて頂きありがとうございました。私はかの高名な冒険者、金狼殿に教えを乞うべく、単身冒険者の街アートランへと向かう途中でした」
「……………」
「ほぅ……それは何とも……」
押し黙ったアクセルに代わりミラが答える。
「私は真の騎士になりたいのです。そのために、噂に聞く金狼殿の強さを学びたいと………」
アーサーが語る。
アーサー曰く、今世界中にいるほとんどの騎士はその役割を
果たしていないのだという。
騎士とはただ騎乗して戦う者を指すだけではなく、国の剣であり、盾であるべきだと語る。
過去、戦争が頻発していた時代ではいざ知らず、現在は世界情勢もかなり安定している。
しかし現在の騎士は過去の栄光に縋った者達が、自分本位に振る舞い役目を果たしていないだと。
「国である人を護るべき騎士が、民を迫害している様子を目にしました。そして助けに入ろうとした際、不敬に当たると止められ…だから私は家を、国を捨て、あるべき場所で騎士になるべく飛び出して来ました」
「…話は分かった…だが…」
そんなアクセルの言葉を遮るようにミラが口を開く。
「ふふ、君は運がいい」
「私達の目的地もアートランであり……」
「なんたって、その金狼が君の目の前にいるんだからね」
「へ?」
「おい、お前ら!!」
「まぁ、良いじゃないか…旅は道ずれと言うだろ」
「時空間使えばすぐだろ…」
「アーサー君の目的はアートランじゃなくて、マスターなんでしょ?」
「マスター不在のアートランに行っても取り越し苦労なのでは?」
押し黙るアクセルとミラ達を交互にアーサーは見ているが、理解が追い付かないのか口を開けたままだ。
「ほ、本当に貴方があの金狼殿なのですか?」
「……その名を名乗った覚えはない………が、呼ばれてることは事実だ」
「で、では私に……」
「悪いが!!…俺は何かを教えるつもりはないぞ」
アクセルはそれだけ告げると少し距離をとった。
「私は何かあの方の気に触るようなことを言ったのでしようか?」
「いいや……まぁ、彼には彼の考えがあるということだ」
「後はアーサー君次第だね!」
「はあ…………」
こうしてアーサーを連れ当初の予定通りアートランを目指し旅をすることになった。
しかしいつもなら真っ先にソニアが背に乗れと言い出すところ、今回は旅の感を取り戻したいと歩いて目指したいと言い出した。
ミラとステラもそれに賛同し、歩いて目指すことになったのだが、道中でもステラやソニアがわざと旅の足を遅くするような行動をとる。
その為、非常にゆっくりな旅路となっていった。
翌朝、アーサーは夜明けと共に目を覚ますが、アクセル達が居ないことに気付く。
しかし周囲に目を向けると訓練をしている一同を見つけ安堵した。
(あれは何かの訓練なのだろうか……)
そう思いながらも姿勢を正し、その様子をアーサーは見つめる。
数日旅を続け、アーサーも訓練を欠かさず見つめるようになった時のこと。
「あ、あぁ、寝起きに身体の調子を測るにもこの訓練は丁度良いなぁ!!」
突然、アクセルが大声でそんなことを言い出す。
「僕ももっと動きを確認して無駄を無くさなきゃなぁ」
アクセルにステラも続く。
それを聞いたアーサーは即座に立ち上がり、自分なりに訓練を始めていた。
「ぷふ………全く…素直じゃない」
「ミラさん、しかしなぜマスターはこのような遠回しなやり方を?」
「それはマスターが真面目で、さらにアーサーの想いを真剣に受け取ったからだ。ま、彼なりの最後の抵抗とでも言えば良いか…」
アクセルはこと、戦闘において誰かれ構わず知識を与えることはしていない。
不幸な目にあい、力を欲する者達は数え切れないほど出会ってきた。
そんな者達に戦闘の知識を与えると間違いなく闘いに身を置くことになる。
それはステラやソニアも同様だった。
しかしステラとソニアは、アクセルやミラの命についてや、力の在り方に対する考えに賛同し、旅に同行することになった。
そんなステラやソニアだからこそ、アクセルは知識を与える。
「責任……ということですか?」
「その通りだ」
仮に出会った当初のソニアが力を求め、自分本位に振る舞えばかなりの被害が出たはずだ。
それをアクセルが諭したことで、ソニアは自分の力の使い方を学ぶことが出来たのだ。
「マスターは関わったことに責任感をしっかり持っている。しかし、数多の者に関わると、その責任を全て果たすことなど誰であっても出来はしない。だからこそマスターは与えるのではなく、盗ませているのさ」
「なるほど…………マスターからすれば他者が勝手に技術や知恵をみて盗んだという言い訳が出来るわけですね」
「言い方は悪いがそういうことだ。彼は見て見ぬふりが出来ないからな。そうやって自分を納得させているのだろう」
こうしてアーサーはアートランに辿り着くまでに、アクセル達の行動を見て考え、その本質を自らが捉え自分の糧としていくことになる。
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