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139話 職人たち

「うぅむ………なるほどのぅ…」


このドワーフ、バンドルと幼少期に別れてから現在までの経緯を軽く説明し、今は世界を見て回る為の旅をしていることを告げると、バンドルも感慨深そうに髭を撫でながら頷いている。


「おっちゃんはこの街で何か用事か?」


「ワシはここに住んでおる……坊主と出会ったあの村は…鍛冶と共に捨ててきた」


「捨てた?」


聞くとバンドルは、幼少期のアクセル達と出会ったことで転機を迎えたのだという。


バンドルは元々鍛冶には精力的だったが、武器に関してそれほど拘りも無かった。

そこに年端もいかぬ子供が武器を携え、危険を顧みず外へと送り出したことで、バンドルは自責の念に囚われる。


「ワシが鍛えた武器がお主らを、先の時代を担う者を殺してしまうのではないか…とな」


「それは確かにそうかもしれないけど、その逆も有りうるだろ」


「分かってはおる…しかし所詮武器なんぞ相手を殺す為の道具だ。それが人であれ、魔物であれ…な」


「おっちゃんは随分優しいんだな……」


「だからこそワシは鍛冶を捨て、酒の美味いこの地に来たのだ」


「そっか!………鍛冶辞めたんなら、今は何もやってないのか?」


「今は1人で大工をやっておる。武器造りなんぞよりよっぽどやり甲斐を感じておるわ!」


「っ!!!ほ、ホントか!?」


「なんじゃ?そんなにも以外だったか?」


「違うよ!丁度今、俺も家を建てようと思ってたんだ!その依頼をドワーフにする為に酒を買いに来てたところだ」


「ほう?ならばワシが請け負ってやろう。如何にドワーフといえど、家を建てるにはそれなりの知識が必要だからの…ドワーフだからと一石二鳥で出来る物ではない」


「それは有難い!!……だけど俺は最高の家を建てたいと思ってる。だからとりあえず、最初の予定通りドワーフにも話を持っていくつもりだ」


「ふむ……それなら……」


「だからおっちゃんも一緒に行こう!」


アクセルはバンドルの言葉を遮り、肩に手を置く。

そしてバンドルの返事も聞かず、時空間でドワーフ達が暮らす街の麓に降り立った。


「なっ…………ここは…」


そこは鉱山を開拓し、そのまま街にしたドワーフ達の街。


「さ、行こうぜ」


バンドルと共に街の入口で見張りをしているドワーフのもとに向かい、声をかける。


「よう!族長に会いたい。取り次いでくれ」


「何っ?いきなり何を……き、貴様は西の……」


見張りをしていたドワーフはバンドルに気付くとすぐに身構える。


「ん?おっちゃん、知り合いか?」


「知らん……」


「ふぅん……あ、族長にはアクセルが来たって伝えてくれ。これ、土産な!」


アクセルはそう言うと酒樽を1つ取り出し、その場に置いた。


「こ、こりゃ火酒の高級品じゃねぇか…よし、すぐに取り次ぐ。待っておれ」


そう言うと見張りのドワーフは酒樽を抱え、奥へと走っていく。


「長、客が来ておる。この火酒を土産にアクセルと名乗る人間……それから西の族長バンドルも一緒だ」


「なに?………分かった。すぐに呼んでこい」


それから間もなくアクセルのものにドワーフが戻り、アクセルとバンドルを鉱山に沿うように建てられた建物の内、一際大きな建物、族長が暮らす建物へと案内する。


「おう!久しいなアクセル。仕事の依頼か?」


「おう!久しぶりだ。依頼かどうかはそっち次第だな」


「ほぅ……それで、なんで西の族長のおめぇがここに居る。おっと、1族を捨てた、元族長さんか!」


「ふん………」


ドワーフ達は中央大陸を東西に2分する形で勢力が存在する。

東を取り纏めるのが目の前にはいる族長であり、西を取り纏めていたのがバンドルだったのだ。


表立って争うことは決してないのだが、対抗心からかお互い仲睦まじいとはいかない様子である。


「まぁ、俺にとってアンタらの関係はどうでも良い。これは残りの土産だ。話を聞いて欲しい」


アクセルは残りの酒樽を全て脇に降ろすと、早速今回の本題である家造りの話を始める。


話を聞き終え、東の族長が口を開く。


「話は分かった。土産も貰った分、無下にするつもりもないが……何もワシらドワーフに頼まずとも人間に頼めば良いのではないか?」


「いや、まず人間には無理だ。今回使う素材は特殊だからな」


「ふむ…ワシらはあくまで鍛冶や装飾が主だからのぅ」


「坊主よ、そういうことじゃ。頭の堅いコヤツやらに言ったところで無駄じゃ」


「なんじゃと?」


「あー、はいはい…ま、それも仕方ないことだよなぁ。しかし残念だ……せっかく"世界樹"なんて代物を手に入れて、それを加工出来るのはドワーフくらいだろうと思ってたんだけどなぁ………流石に荷が重いかぁ…仕方ないよなぁ……」


アクセルはわざとらしく勿体ぶった言い方をしながら族長を顔色をチラチラと伺う。


「「世界樹!?」」


「超一流の素材には、超一流の職人が必要だと思ったのになぁ………残念、残念。という訳でおっちゃん、ここのドワーフ達は無理らしいから1人で作業になっちまうけど、よろしく頼むぜ!じゃ、行こうぜ」


「う、うむ」


「ま、待て待て!断るとは言っておらんぞ」


「でも族長、おっちゃんと仲悪いんだろ?いがみ合いながら家造って欲しくは無いなぁ……」


「むぅ……それはさて置き、本当に世界樹なる物を持っているのか?」


すでに歩き出し、族長に背を向けていたアクセルはそれを聞きニヤッと口角を上げる。


「ちょっとだけだぞ?」


振り返りアクセルは自ら創り出した空間へと手を伸ばし、世界樹の枝を少しだけ引っ張り出す。


「「……………………」」


流石はドワーフ。1目見ればそれがただの木材でないことを2人は即座に見抜く。


「良かろう!いや、やらせてくれ!これ程の素材を扱えるのだ。断れば末代まで恥と語り継がれる……」


「でも仲悪いだろ?」


「この場で裸になり、抱き合ってみせようか?」


「なはははは!!…よーし、頼んだぜ」


こうして超一流の職人を得ることが出来た。


そしてそのままアクセルは2人を連れ、家を建てる場所である浮島拠点へと時空間で移動する。


2人はまずその場所の美しさに目を奪われた。


足を止め、ただ景色を見て回る。


そしてこの美しさ景色の中に佇むであろう建物を想像する。


「……西の………ワシらを好きに使え。人手はワシが揃えよう」


「うむ……ふ、ふははは!!今世1代の大仕事じゃ!」


「「はははははは」」


互いに肩を組み、笑い合う2人だった。

読んで頂きありがとうございます。

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