138話 思いがけないこと
リーレスト王の後に続き地上へと戻る。
その後は再び宴を楽しんだ。
その間、以前出会った当時は王妃の足に引っ付き、後ろに隠れていた王子レスターの成長ぶりに驚き、握手を求められ困惑し、昔話に華を咲かせた。
しかしアクアも馴れない陸上でのことで1泊することは出来ず、送り届けるためアクセル達もお暇することとなった。
宴に参加していた者は皆、別れを惜しんでいたが前回とは違い再会は容易い。
それほど悲観することもなくリーレストを後にした。
「はぁ……楽しかったなぁ…みんな良い人そうだったし、これからは私も頑張らないと」
アクアは魔法を解き、海辺に降り立ったあとしみじみとそう呟く。
「ま、ゆっくり陸上のことを知って、人魚としてこれからどうしていくか考えていけばいいさ」
「うん。私も一国を預かる身…私だけで決めていい事じゃないしね。まぁすでに勝手なことしてるからセイラには随分怒られそうだけど………」
側近であるセイラに叱咤されるであろうとアクアもやや気落ちしていたが、すぐに何かを思い出したかのように顔を上げる。
「そうだ!………その…ちょっと頼みづらいんだけど…」
「ん?」
「まだ交易がどうなるか分からないし、まだまだ陸上のことも不安が残るから…アクセル達と連絡手段をどうにか確保出来ないかなって…」
当然といえば当然だ。
交易に関して良い方向には進んでいるが、まだまだ見えていない問題は必ずある。
それだけではなく人魚にとって陸上、そこに住む者達も全くの未知だ。
「あぁ、それは勿論俺も考えてた。丸投げするみたいでいい気はしなかったしな。だけどすぐ思いつかねぇんだ。すまん」
アクセルもバツが悪そうに頭を下げる。
そこにステラが割り込んだ。
「あっ!それなら僕に任せて。なんとか出来るかも…」
視線が集まるなか、ステラはチュチュ袋から小さな装飾品を取り出し、それをアクアへと手渡した。
「これは?」
「ちょっと待ってね」
そう言うとステラは腰に携えていたカタナの内、脇差を手に取り、目を閉じ意識を集中させる。
すると脇差から小さな光が1つ浮かび上がる。
「おぉ?これ……精霊か?いや、それ未満ってところか」
アクセルとステラ以外には目にハッキリとは見えていない様子だが、脇差から精霊に近い存在が出てきたのだ。
「えへへ、毎日お喋りしてたらこんな風になっちゃった」
それは脇差に集まった小さな想い達。
本来であれば長い長い時間をかけて"精霊になりうる存在"となるものなのだが、ステラと触れ合ったことで準精霊として存在を確立していたのだ。
勿論、脇差には無数の想いがこもっているため全てではないが、いくつかは準精霊となってる。
ステラはその準精霊の1つをアクアに手渡した装飾品へと誘導する。
準精霊もそれに従い、装飾品へと身を移した。
「今アクアさんに手渡した装飾品にはミスリルが埋め込んであるんだ。そこに準精霊を移した。何かあればその準精霊が僕に伝えてくれるように話してあるよ」
「ステラちゃん、そんな凄いこと出来るんだ……」
「えへへ……あ、でもずっとその装飾品に宿せるわけじゃないんだ。その準精霊のお家はこの脇差だから、いずれはここに帰ってくる。それでも交易の話が纏まるまでくらいなら大丈夫だと思うよ」
こうして一先ずの問題は解決し、アクアも安心した様子で帰っていった。
アクセル達もエディオン拠点へと帰りつき、これからのことを話し合っていた。
「思いがけないことだったけど、世界樹が手に入った。俺はこれを使って、俺達の家を建てたい」
「うんうん!!でもマスターが家造るの?」
「いや、俺はそれに関して一切の妥協はしたくない。だから造り手も超1流に頼むべきだと思ってる」
「それはそうだろうな。しかし、何かあてはあるのか?」
「あぁ、前に知り合ったドワーフに頼もうと思ってる。装飾品造りが主だけど、家もなんとか出来ねえかなってさ…」
―翌朝―
まずは浮島拠点へと全員で戻り、この地のヌシである白獅子に会いに行く。
そして世界樹を見せ、家を建てたい旨を説明するが言葉は通じない。
しかし拒否している様子もなく、大丈夫だろうという結論に至った。
アクセルはそこで皆と別れ、早速時空間で移動する。
「アイツの寝床にも世界樹を使って何かしてやりたいな…」
そんなことを呟きながら、家造りを依頼するドワーフに手土産を買う為とある街へたどり着く。
この街にしか出回らない火酒を樽で5つ購入する。
本来なら1つで充分なのだが、アクセルがどれだけの想いを込めているかを示す為、大盤振る舞いすることにした。
断られたとしても、これだけの土産があれば何か伝手を辿ってくれるだろうという打算もあった。
火酒を購入し終え、街の外へと向かっている途中、とある人物が気になり足を止める。
(あれは………)
アクセルはその人物に駆け寄り声をかけた。
「なぁおっちゃん…」
アクセルの声に振り返るその人物は、ずんぐりむっくりな体型に髭を蓄えた男、ドワーフだ。
「……………なんだ」
「……覚えてないかも知れないけど、アンタに昔助けてもらった。改めてちゃんと礼を言いたかったんだ。ありがとう」
ドワーフも困惑を隠せないでいる。突然声をかけられたかと思った途端、突拍子もないことを言われればそれも仕方のないことだ。
「………………」
「まぁ、覚えてねぇよなぁ…もう随分前だ。子供の時、ミラ…仲間の女を背負ってアンタを訪ねたら薬をくれたんだ。鍛冶についても色々教えてもらったぞ」
アクセルが旅を始めたばかりの頃、ミラが体調を崩したことがあった。そのとき親切にしてくれたのがこのドワーフだったのだ。
「…………も、もしかしてあの時の坊主か!!デケェ風晶石持ってた、あの……」
「お?……これだろ?今もちゃんと持ってるぞ」
「おぉぉ!これじゃ…………そうか…生きとったか…」
思いがけない場所で、思いがけない人物と再会を果たしたアクセルだった。
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