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135話 リーレスト訪問その1

「ふむ……なるほどな。つまり人魚の国と陸上の国で交易をしようということだな!そして人魚達に接する態度に信用がおけ、情報に詳しく、さらに海が近い場所というのが……」


「あぁ、リーレストだ」


アクセルが概要を説明した後、ミラが噛み砕き皆にそれを伝える。


リーレストは薬学に秀でた国であると同時に独立国家でもある。

それを成り立たせているのが秘薬と情報だ。

武力は自衛する程度しか持たないが、世界中の情報をいち早く集めることでリーレストは存続出来ている。

かつてアクセルが仇である魔物、ベヒモスについて情報を得ることが出来たのはそんな背景があったからだ。


アクアもかなり真剣な表情でそれを聞いていた。


「交易ということは、私達も何かを差し出すってことだよね?何を求めてる国なの?」


「食料……だろうな」


リーレストはそれほど豊かな国でもない。国民が助け合い薬を作り生活を送っている。

その為やはり食料は不足はしていなくても、余裕があるわけではないのだ。


「私達も海の物を食料にしてるから、少し手間を増やすだけで交易の品は集まるけど……」


そう。問題となるのはその運搬方法だ。海からリーレストまでは急いでも3日はかかる。

その間、生ものである海産物を運搬するには困難なように思える。

しかしそれもソニアの提案で解決となる。


「魚達は凍らせることで仮死状態となります。それほど長い期間でなければ腐ってしまうことはないと思いますよ」


「さすが料理人!アクア、それは出来そうか?」


「うん、運搬のことも考えて凍らせて大きな塊にすれば大丈夫だと思う」


こうして提案としての話は纏まったのだが、リーレスト側には全く話をしていない。


「アクア、人魚って陸には上がれるのか?」


「それも魔法を使えば大丈夫だよ」


「よし!とりあえずリーレスト行ってみるか!……時空間で連れて行くから、あとのことは…ミラ、頼む!」


「バカを言うな!言い出したのは君だろう!君が居なければ話にならん。君がアクアを連れて行けば済む話だ」


「いやいや、俺は……あれだ!頭痛で頭が痛いんだ…」


「頭が痛いことを頭痛というのだ!下手な嘘はよせ」


「あ、っあぁ!お腹!お腹痛くなってきた!体調悪いのかなぁ」


「君と知り合って体調を崩したことなど1度たりとも見たことはないし、強靭な魔物を溶かす毒を率先して喰らい、即座に抗体を作り出す君が腹を壊すなどとは思えないがな!」


と何やらアクセルとミラは言い合いを始め、困惑したアクアがソニアに問いかける。


「そ、そんなに行きたくない国なの?」


「ご心配には及びません。個人的な理由だと思いますので」


未だに言い争いを続ける2人にステラが一喝する。


「もう!!!2人して何してるの!!皆で行くの!」


こうして全員でリーレストに向かうこととなった。


郊外に降り立った一同だったが、アクアは魔法を使用し尾ひれを人間同様の足に変化させている。


随分とリーレストに行くことを渋っていたミラはいつの間にか全身ローブを深く被り顔を隠していた。


アクセルはというと顔全体に布を巻き付け、もはや誰か分からない状態だ。


「そんな身なりで行けば怪しまれるだけだろう!」


「お前だってそうだろ!」


この期に及んでも肘で小突き合い、アクセルとミラの言い争いは続いていた。


見兼ねたステラが2人の間に立ち、腕を組んで歩き出す。


「こうしとかないとマスター逃げちゃいそうだしね…ミラさんも!」


そんな3人の後ろをアクアとソニアがついていく。


門に辿り着くと、門番もかなり怪しんでいたが、ステラが★7冒険者としてギルドカードを掲示し、全員仲間として紹介すると無事街に入ることが出来た。


街に入るとかつての懐かしい街並みが今も変わらず存在している。


しかし街の入口からでもハッキリと見て分かる変化があった。


それは門から続く大通りの先、王宮との丁度中間に位置する広場に佇む2体の石像だ。


噴水を境にお互い背を向けるように佇む石像達。

その1体は女性を模したものであり、右手には細剣、左手は手のひらを上に向け、その手のひらからは夜空に輝く星々のような光が溢れていた。


「おぉ!闇光石(あんこうせき)だ…珍しい!!」


闇光石は夜の闇を取り込み、日中に光を放つ少し変わった石だ。

闇光石その物が宝石であると同時に、その光は宝石のような輝きを放つ為、照明というよりかは装飾に用いられる物だ。


そして、その石像に背を向けているもう1体の石像は、男性を模しており、両手に風変わりな剣を持ち、右手の剣は肩に担ぎ、左手の剣は前方を指し示すかのように突き出され構えられている。

そんな石像の足元と剣先には陽光石が散りばめられていた。


そんな石像を見たアクアがボソリと呟く。


「この石像……アクセルとミラちゃんに何だか似てるね…」


「き、きき気のせいだろ…………なぁミラ!」


「うむ!」


この石像は紛れもなくアクセルとミラを模した物なのだが、アクセル、ミラ共に自身を持ち上げられる事に気恥しさがあったのだ。


人型魔獣を討伐したことで、結果としてこの国を救うことに繋がりはしたが、本人達にとっては襲ってきた魔獣を討伐したに過ぎないのだ。


それをこの国は、国を挙げて2人を国を救った英雄として語り継ごうとしているのだ。


「まぁ、なんだか恥ずかしいって気持ちは分かるけど、マスターもミラさんもそこまで嫌がることないのに…」


「え!?この石像やっぱりアクセルとミラちゃんなの!?ってことは2人はこの国の英雄か何か?」


「「………………」」


アクアの純粋な問に対してアクセルとミラは沈黙を貫き、代わってソニアが説明しながら王宮へと向かう。

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