133話 延長戦
新作、始めました。
アクセルは自分達とは正反対の位置にいるアリスファミリーの元へと向かう。
そこは皆が力なく座り込み、雰囲気は最悪。アクセルもついつい同情してしまったほどだった。
今まで磨き上げてきたものが、言い逃れ出来ないほど徹底的にねじ伏せられたのだ。
さらに団長のギザンに至っては自らの行いをどうにか正当化しようと、団員達にソニアが嘘を言っている。騙されるなと必死に呼びかけていたが、団員達も馬鹿ではない。
それよりも自らの無力さに打ちのめされ、空返事する者ばかりだった。
そんな中、アクセルがきたことに気付き、アリスが話しかけてくる。
「やぁ、今回は本当に世話になった………それにしても彼女……凄まじいね」
「あんなのソニアの力の1部だぞ?本気になったらこの街ごと灰すら残らねぇよ」
「ハ、ハハ…それは恐ろしい。しかし彼女といい、君といい、エンチャントなしであれだけの力を持つものは、エディオンが出来て以来のことだろうね」
「エディオン?なにそれ?」
「おや?……知らないのも無理はないか……エディオンはこの街の名さ。この地で街と言えば、この街を指すからね。エディオンの名が広まらないのも無理はないのかもしれない…」
エディオンという名称はそれなりに歴史を持っている。
過去、未開の地でありながら、そこには魅力が溢れていた。
そして冒険者達はその魅力に惹かれ、ダンジョンが続く地下へと潜っていく。
そこはまさに楽園の上に建つ街。
そこからエディオンと名付けられたのだ。
「おっと…君にはこれだね」
アクセルが自分の元を訪ねた理由を理解し、アリスはローブの内側から丁寧に布が巻き付けられた物を取り出した。
アクセルはそれを受け取り、布をとっていく。
「おぉ!!………やっぱり凄いな」
それは文字を書くペン程の大きさと長さ、乾燥しきっているが、まさしく世界樹の枝だった。
しかしそんな状態でも1目で分かるほど生命力に満ちている。
そんな世界樹を掲げ、見入っているアクセルにアリスは笑みを浮かべ語りかける。
「気に入ってくれたようで何よりだ。ところで君達はダンジョンの活動に制限を掛けられているのだろう?私から解除するように言っておこう」
「……………うん?………うん。ん?ありがとう…」
アクセルは世界樹に気を取られすぎて、アリスの言葉を半分聞き流している様子だった。
そんな中、辺りに大声が響く。
「くそがぁ!!!!俺はまだ負けてねぇ!アイツだ!!あの女と一騎打ちさせろ」
「オーグっ!!!よさないか」
オーグはステラを指し示し吠えている。慌ててアリスが静止をよびかけ、周囲の者もオーグを取り押さえようとしているが、オーグはそれでも止まらない。
(コイツ、本物の馬鹿だな………)
アクセルはそんなオーグに心の中で感想をこぼす。
「すまない。あの子には私が言い聞かすから……」
「……ま、どうせここまで来てるんだし、ステラが良いなら良いんじゃねぇか?でも良いのか?多分アイツ、心折られるぞ?」
「………それもまた、オーグ自信が選んだ結果なら受け入れるさ」
アリスの言葉を聞いた後、アクセルはステラの元に行くと、オーグとの一騎打ちの提案を話した。
「んー、確かにここの魔法も気になるし、やってみようかな…」
ステラは舞台に上がる為の幽体状態が気になるようで、一騎打ちを受ける。
そしてアクセルは再びアリスの元に行きそれを伝えた。
オーグはそれを聞き、顔を歪ませる程の笑みを浮かべ、早速舞台に降り立った。
それに続き、ステラも舞台に降り立つが、いきり立つオーグには目もくれず、舞台の隙間から伸びる草を触ったり、匂いを嗅いでいた。
「ふわぁ…ホントに感触もあるし、匂いもあるんだ。不思議~…どんな魔法なんだろ…魔法じゃないのかな…」
そんな態度のステラにオーグは怒りを顕にし再び吠えながら、迫らんとしていた。
「舐めんじゃねぇ!!!虫けらがぁあぁあ!!……っ!?」
次の瞬間、周囲の時が止まったかのように舞台全てが凍りついた。
オーグも瞬時に凍りつき、すでに動かせるのは眼球と、口が開いたまま凍らされている為、喉を震わすことだけだ。
そんなオーグに向かいステラは静かに歩み寄る。
そしてゆっくりと腰のカタナを抜き、刺突の構えをみせながらオーグに語りかけた。
「また会った時、君がまたこうして襲ってくるなら僕も、もう容赦はしない」
構えられたカタナは、オーグの開いたまま塞がらない口に目掛け、ゆっくりと差し込まれる。
そして喉に当たると一気に貫いた。
同時にオーグは目を反転させる。
ステラはそのままカタナを横薙ぎに払い、オーグを斬り裂いた。
オーグは為す術なく光の粒となり消えていく。
そして悲鳴にも似た声を上げ、飛び上がるように身体を起こした。
アクセルはそんなオーグに向かって言い放つ。
「お前、相手の力量も分からないまま、今みたいに喧嘩吹っかけてたら、そのうちさっきみたいになるぞ?馬鹿には何を言っても無駄かも知れないけどな」
そう告げてアクセルも皆の元へと戻り、そして闘技場を後にした。
こうしてアリス達との争いは終結を迎えるのだった。
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