132話 気持ちの折り合い
連休最後ということで2本立て。
それと新作始めました。よろしければそちらもよろしくお願いします。
決闘という名のソニアによる蹂躙は荒れ狂う炎に包まれ終わりを告げた。
決闘の始まりを告げると同時に、全員を1度に焼き尽くすことなどソニアにとっては造作もないことではあった。
だが、戦うことを嫌うアクセルがアリスの申し出を受け、さらに自分に戦えと言ってきたのだ。
そこには何か裏があり、この戦いにその意味を見出そうと1人1人戦ったのだ。
しかしそれは半分建前でもあった。
ミラやステラを傷付られ、ソニアも怒りに染まっていたのもまた事実。
その怒りの矛先を拳を通じ、ばら蒔いていたに過ぎなかった。
ただ1人舞台に残ったソニアは静かに目を閉じた。
それと同時に舞台上にいたソニアは光となって消えていく。
目を開け、身体を起こしたソニアはすぐにアクセルの元に姿勢を正し膝をつく。
そして、アクセルと視線が交わるとアクセルが口を開く。
「…………何か得るものはあったか?」
「何も………ありません。それが分かりました」
ソニアはそう答えると下を向き、その後、顔を上げミラに視線を向ける。
そして再びアクセルに視線を戻した。
「あの者達は当初、ミラさんに敵意を向けていたはず。しかし、その敵意はマスターに向き、そしてついさっきまで私に向いていた………私があの者達を討ち滅ぼせば、あの者達を想う誰かが再び私に敵意を向ける。そして私は再び……こんなことに答え、正解があるのでしょうか」
ソニアにとって親しい者が死の淵に追いやられる。それは初めてのことだった。
もちろんどういうことか、理解はしていた。
しかしそこに自らの感情というものを入れて考えられなかったのだ。
それも当然と言えるのかもしれない。
今まで戦ってきたのは理性のない魔物や魔獣だったのだ。
仲間を通じ、知り合った人間達は皆が気のいい者達ばかり。
さらに、その仲間であるアクセル達はとてつもなく強かったのだ。
そしてソニア自らが強者であるが故に、親しい者が死に追いやられるということを経験したことがなかったのだ。
「正解がない。しかし、ならば、私のこの感情はどうしたら良いのでしょう………仲間が殺されても我慢するしか、ないのでしょうか……」
「ソニア……いいか?今回の出来事はな、異例中の異例なんだ」
アクセルはソニアに視線を合わせ、語りかける。
そう。今回のミラを発端とした出来事はまさに異例だったのだ。
それは魔族という種族が大いに関係してくる。
魔族という種族は本来、人間達の住む世界には存在しない。
しかし魔族の住む世界と人間の住む世界が繋がり、偶然が重なることで魔族は人間の世界にやってくる。
そして人々を虐げてきた。
しかし魔族にとってそれは当たり前の行為。
ドワーフが手先が器用で物作りが得意なように、エルフが長命で魔力との親和性が高いように、魔族もまた、自身の優位性を必要以上に誇示したい種族なのだ。
だからこそ魔族は弱者を踏みにじる。
それが例え同族であったとしても。
こうした種族の特徴ともいえるものがあったからこそ、魔族は徹底した上下関係が成り立つのだ。
しかし人間達からすればそれは迷惑極まりないことだ。
魔族は肉体も魔力も、人間の上位互換とも言えるほどの力を生まれながらにして持っているのだ。
だからこそ人間は魔族に対し、徹底抗戦の構えを取らざるを得なかった。
そして後手に回れば弄ばれる。それが分かっていながら、後手に回る必要はない。
魔族と分かれば、先手を打つことこそが正しい行動であり、一般知識なのだ。
それは遥か過去から続き、2つの例外を除いて現在も変わらない。
2つの例外の内1つはミラであり、もう1つはミラと同じく混血であるイリナだ。
この2人だけは人間達の住む世界で他者との深い絆を持っている。
しかし、だからと言って突然2人を他の魔族とは違う、と受け入れることは容易にできることでは無い。
同じように絆を深めた仲であっても、それすら弄ぶ過程とする魔族もいるのだ。
そして今回の出来事。
アリスファミリー達のとった行動は決して間違ってはいないのだ。
ミラにしても余程のことがないかぎり魔族としての正体を暴かれるような失態は侵さない。
しかしアリスファミリー達はそれを見破る力も持っていた。
加えてミラも強さを得たこと、さらに仲間が増えたことで、本当に僅かだが慢心とも呼べる油断がうまれてしまっていたのだ。
「しかしっ!ならば全てを受け入れろと言うのですかっ?」
「違う!そうじゃない。今回の出来事で原因があったとすれば、それはミラが油断をしたことだ。当然、俺も全てを受け入れることなんて出来るはずがない。だからこそアイツらには痛い目にあってもらったんだからな」
「しかし……………でも…………」
「お前も言ってただろ?そこに正解はない。それじゃ憎しみの鎖は切れないんだ。だから、ソニア…気持ちに折り合いをつけるんだ」
「折り合い…」
「今回のことでアイツらの行動は間違っていない。でもそれはアイツらの敵がミラじゃなく、魔族だったからだ。真っ当な行動をしたアイツらを俺は痛めつけはしたが、それは俺が仲間を傷付られたことに対する、単なる腹いせでしかない。でも殺しはしなかった…」
アクセルにとっても今回の出来事は理性を保つ為に苦労する出来事だった。
傷付られはしたが、ミラ、ステラ双方生きていた。
しかしそれでは怒りが収まらないと、アリスファミリーの元へ乗り込んだのだ。
「俺はもし、どっちが死んでたら、歯向かうやつ全てを殺す覚悟がある。世界全てを敵に回すことになったとしてもだ…憎しみの鎖が断ち切れるまでな。でも2人は生きていた。だから殺さなかった。それが俺の折り合いだ」
「…………………」
「……ソニア、お前も自分の中の気持ちに折り合いをつけれるだけの力と知識、経験はあるはずだ。そうやって出した答えに俺は口を挟むつもりはない。俺と同じ必要もない。お前がアイツらの顔を見るのも嫌だってんなら、後で燃やしてもいい。その後、どうなるかも当然わかってるはずだしな」
アクセルにとって今回の出来事での折り合いは、死だ。
2人が生きていたから、怒りをぶつけるだけに留まった。
しかしソニアに対して、アクセルは自身の考えを押しつけはしない。
あくまでそれはアクセルの考えであり、ソニアにはまた違った答えがあるはずなのだから。
そしてアクセルが最後に言った言葉。
それは再び仲間を戦火に巻き込むことに他ならない。
「………………」
何かを思い付いたような表情と共に顔を上げ、再び言葉に出来ず下を向く。それを何回も繰り返すソニア。
アクセルはそんなソニアの頭をワシワシと撫で回す。
「自分だけの力を身につけたように、考えも身に付けな!焦って答えを出す必要はない。でも、同じようなことがあるまでにはしっかり考えて、答えを出しとけよ………じゃ俺、アイツの所行ってくるから」
立ち上がり、アクセルはアリスの元へと向かう。
残されたソニアの元にミラとステラがやってきて、椅子に座るようソニアに促す。
「ミラさん、私は…………」
「何も言わなくていい」
ミラはそれだけ言うと、ソニアを抱き寄せる。
「こんな経験、二度と出来ないと思え。経験する時、それは私達の中の誰かが死ぬのだからな」
「………はい」
小さく返事をしたソニアはミラを強く抱きしめる。
そしてミラから離れた後、ステラに問いかけた。
「ステラ、君ならどうしていた?私やマスターが、自分の知らない間に傷付られていたら………」
ソニアにとってステラは同じものをみて、同じ経験をした姉妹のようなものだ。
だからこそ、ステラの意見を聞いてみたかった。
「うーーん………止められても…殺すかな。全員」
確かにステラはソニアと旅を始めた時期はほぼ同じくらいではある。
しかしそれまでに経験し、見てきたものは全く違うものだ。
アグレクトルドラゴンという絶対強者に囲まれていたソニアとは違い、ステラは死がすぐ隣にあったのだ。
死に行く者を毎日のように見てきたステラが、何よりも大切な、かけがえのない仲間を殺した者に情け容赦などかけるはずもなかった。
「……そうか。それがステラの折り合い……私はまだまだ翼の生えただけのトカゲでしかないのだな……」
「ふっ…そう卑屈になる必要はないさ………」
こうして、この出来事はソニアを一回り成長させてくれたのだった。
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