129話 招かざる客たち
「止まりなさい」
アリス達がアクセル達の拠点を視認した辺りで、何処からか声が届く。
「待ってくれ!敵対する意思はない」
そう返事を返すと、どこかに潜んでいたのか、2体の狼、ロアとロイが姿を見せた。
「それは我々には関係のないことです。貴女方は招かざる者。これ以上進むのであれば主の敵とし、排除します」
「違うんだ!聞いてほしい…我々は謝罪にきたのだ。君達の主に取り次いで欲しい」
アリスは必死な様子でロアに縋る。
「黙れ!!今殺されないだけ有難く思うがいい…それとも………」
牙を剥き吠えるロイの言葉を遮るように、ロアが1歩前に出る。同時にロイもそれ以上何かを言うつもりはないようだ。
「………主がお会いになるそうです……ついてきなさい」
ロアを先頭にアリス達が続き、最後尾にロイがつく形で拠点へと案内する。
緊張の面持ちで拠点の扉が開かれ、意を決し中に入るが、そこは無人。
混乱するアリス達にロアが声をかける。
「こちらです」
時空扉を開け放ち、扉の先でそう告げるロア。
扉の先は全く違う景色が広がっているが、覚悟を決めロアに続く。最後にロイが潜り、扉を閉めた。
「これより先、草木1本でも傷つけることは許しません」
浮島拠点の時空扉は活動場所からすこし離れた位置に設置している。
その為、先程と同様の形で歩いていく。
並木道を抜ける手前、そこでロアが静止を促し、少しすると前方からアクセルが歩いてやってきた。
「ありがとう、ロア、ロイ」
そう告げ、ロア達の頭を撫でる。ロアとロイもアクセルに寄り添うように腰を下ろし、アクセルも木に背中を預け地面に腰を下ろした。
アリス達はその場で膝を付き、アクセルと視線があった事で喋りだそうとするアリスだったが、先に口を開いたのはアクセルだった。
「先に言っておく。俺はこれ以上、お前達と関わる気はない。質問に素直に答えたら後は勝手にしろ」
それはつまりお互いに先日のことを水に流そうという、思いがけないアクセルからの言葉だった。
「…感謝する。ここまで来たのだ。今さら上手く立ち回ろうなどという意思もない。何でも聞いてほしい」
それを聞きアクセルはミラに使用した首輪について聞いていく。
あれは中央大陸のとある街の商人からの貢物らしく、魔族に対して絶大な効果を発揮すると言われ、アリスに献上したのだそうだ。
そして現物はミラに使用した物の1つだけで、他者が持っている可能性も確実にないと否定した。
鵜呑みにしないが、調べる方法も無いため、聞き入れる。
「で、その商人の名前は?」
「それは…………その者には危害を加えないで欲しい。それを約束してくれれば、名を…伝える」
アリスが商人の名前を告げない理由はすぐ理解できた。
アリスもその商人の信用を裏切りたくないのだろう。
しかし、それはアクセルにとってはどうでもいい事だ。溜息をつきながら、剣を向ける。
それに対して身構えるナナとララだったが、すぐに動きを止めた。
「クスクス……動いて良いと許可がありましたか?」
いつの間にかナナの背後には、人型のネロが艶かしくナナの首筋を指で撫でながら、そう告げる。
「ネロ…今話してるのは俺だ。邪魔をするな」
「はぁぁん………申し訳、ございません」
アクセルの言葉にネロもまた艶やかな声を漏らし、狼に戻るとアクセルの足に擦り寄るように寛ぎだした。
「名前を言わないなら殺す。嘘をついても殺す。このまま黙っていても殺す。好きにしろ」
アリスは覚悟を決めて、商人の名前をアクセルに伝え、アクセルもそれを聞き剣を降ろした。
だが、アリス達の身体の震えは止まらない。
いつの間にか後方で凄まじいまでの怒気を孕んだ視線を感じていたのだ。
「ソニア、今は俺が話してる…終わるまで少し待ってくれ。その後は好きにしていい」
「ま、待ってくれ!!真実を伝えた。何もするつもりは無いと言ったじゃないか」
「あぁ?"俺は"何もするつもりはないと言っただろ?ソニアにはソニアの考えがある。俺はそれを止めるつもりは無い」
最後にアクセルはあの首輪、もしくはそれに準じる力を使えるか問い、答えをきくとそれ以上は何も言わずその場を後にした。
そしてソニアはそれを確認すると徐に歩き出す。
アリス達の間をわざと通り、前に出ると背中を向けたまま口を開いた。
「お前達がミラさんとステラを…………何故マスターがお前達を生かしたのか私には理解出来ない……………しかし、だからこそ、今日は見逃してやる」
そう告げるとソニアは振り返る。
そして自らを巨大なドラゴンの姿へと変え、顔を近付けた。
「だが、次はない………その時は如何なる理由があろうとも貴様らは灰すら残さず消し去る」
その言葉を最後にソニアは再び人間の姿に戻り、その場を去った。
ソニアが見えなくなっても動けないアリス達にロアが告げる。
「お引取りを…こちらへ」
その言葉を聞き、震える足でなんとか立ち上がる。
ここへ来た時同様の形で扉を潜り、拠点の外へと出た。
敷地を離れ、後方を確認するとロア達は拠点前から動く様子はない。
だがその時、アリスが影がグニグニと動き、その影から人型のネロが現れる。
「御機嫌よう」
それだけを述べ、服の裾を持ち、優雅な1礼をするとネロは再び周囲の影に溶けるように姿を消した。
その行動の意図を全員が即座に理解する。
別れの挨拶をわざわざしにきた、などという理由でない。
いつ如何なる時でも殺すことができる。それをネロの行動は暗示していた。
「…………ごめん、お姉ちゃん。出ちゃった……」
「ウチも………………」
ナナとララもダンジョンを最先端で攻略している猛者だが、現在、足止めをくらっている魔物がいる。
そんな魔物が可愛く感じるほど、ソニアから途方もない力を感じ取り、その場所では生きた心地が全くしなかった。
ようやく解放された途端にネロの不意な訪問。
ナナとララをバカにする者などいるはずもない。
こうしてミラを発端とした出来事は一旦、幕を降ろした。
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