127話 暴力の雨
過激な表現があります。
苦手な方はご注意を。
「エレン様……」
アリスファミリーの1人がアクセルにやられたドワーフ・ガンドールに治癒魔法をかけているエルフ・エレンに指示を仰ぐ。
「みな、動くな……」
アリスファミリーの幹部であり、2番手のエレン。
皆を動かす司令塔でもあるエレンが待機を命じ、一瞬の静寂が訪れる。
一触即発の空気にその場にいる1人を除いた全てが、緊張で身体を強ばらせていた。
(あ、あれは人じゃないっ…人の皮を被った何かだ…)
そんな空気の中、エレンはアクセルを見た瞬間、吸い込まれたかと錯覚する程の強い印象を受けた。
エルフは森に住まう種族。
獣人達が魔法を捨てて肉体を特化させ森に順応したように、エルフもまた高い魔力適正と、長寿故の知識をもって森での生活に順応してきた種族だ。
そんなエルフであり、エルフとしては珍しい冒険者として培ってきた経験からか、エレンはアクセルが有する莫大ともいえる魔力の一端を感じ取っていたのだ。
「ハッはぁーー!!!ご指名とは嬉しいぜ……楽しませてくれるんだろうなぁ…おい」
静寂を切り裂くかのように、建物の2階その手すりに足をかけ、身を乗り出しながらオーグが姿を見せる。
その両手にはガントレットと3本の鉤爪が同化したような武器が装備されていた。
「よせ!オーグ!!」
オーグはエレンの呼びかけなど無視するかのように、雄々しい声と共にアクセルに向けて飛びかかる。
そして勢いそのままにアクセルを引き裂こうと、爪を振るう。
オーグが動いたことで団員達も構えをとるが、オーグの爪がアクセルに届かんとした、まさにその瞬間だった。
襲いかかっていたはずのオーグが逆に吹き飛ばされ、轟音をたてながら壁にめり込んでしまったのだ。
アクセルは迫るオーグに合わせ、最小の動きで爪を受け流し、同時に右脚は弧を描く。
その蹴撃はオーグの顔面を綺麗に捉え、壁にめり込むほど吹き飛ばした。
それだけではアクセルは止まらず、吹き飛ばされるオーグに追従し、めり込んだオーグの腹部に拳を叩き込む。
続けて蹴撃、拳撃、それはまるで止む事のない雨のようにしばらく叩き込まれた。
アクセルによる暴力の雨は、オーグの顔面を陥没させた拳撃と共に、めり込んだ周囲の壁が砕かれたことで終わりを告げる。
糸がきれた人形のように倒れてくるオーグの顔をアクセルが掴む。
「クソがァ!!!」
それと同時にアマゾネスの妹ララはまるで豹変したかのように口調が変わり咆哮をあげ、自身よりも巨大な肉切り包丁のような大剣を振りかぶりアクセルへと肉薄する。
姉のナナはそれに合わせ上に跳躍。同時に投擲剣を2本投げつけた。
寸分狂わない連携で、投擲剣とナナの凶刃が絶妙な時間差でアクセルに迫る。
が、アクセルはオーグを適当に放り投げた後、投擲剣を掴み取り、瞬時に魔力を纏わせララの巨大な肉切り包丁を切り落とす。
「っ!!………へっ?」
まさか自身の巨大な武器が切り落とされるとは予想もしてなく、ララは前につんのめる。
すでにアクセルの姿はそこになく、まだ空中にいるナナのすぐ目の前にいた。
ナナの目に映ったのは、ララの巨大な剣が切り落とされ宙に舞ったその直後、すでに触れそうな位置まで迫ってきていたアクセルの蹴撃だった。
ナナは空中で身動きも取れないまま、自身の跳躍を上回る速度で跳躍し繰り出されたアクセルの蹴撃を顎を受け、そのまま跳ねあげられる。
天井にぶつかり、2階部分に落下したナナは血の泡を吹き、白目を剥きながら小刻みに体を揺らした後、動かなくなった。
「よ、よくも皆をぉぉ!!ぐちゃぐちゃにしてやるぁぁあ!!!!」
着地したアクセルに怒りをぶちまけながらララは剣を振りかぶり再度肉薄。渾身の力で剣を振り下ろした。
「っ!…!?」
しかしその剣はアクセルを切り裂くこと叶わず、アクセルの左手1本で受け止められていた。
「俺も同じ気持ちだよ……」
アクセルは静かにそう告げると、拳を握る。
(クソが!片腕くれてやる!お前はぐちゃぐちゃだ)
アクセルの握られた拳を見てララは、左手で攻撃を防ぎ、止められた剣で無理矢理 押し潰してやろうと画策する。
そして予想通り、アクセルの拳はララの腹部目掛けて繰り出され、ララはそれを左腕で防ぐ。
だが予想通りなのはここまでだった。
アクセルの拳撃はララの左腕を砕くと共に、その衝撃は腕を突き抜け腹部に突き刺さる。
さらにその衝撃は体内で振動するかのように、ララに襲いかかる。
ララは体をくの字に折られ、壁に激突。その後呼吸も出来ずのたうち回るしかなかった。
そしてララはすぐ近くにジャリっという足音に気付き、薄ら目を開け、目に映ったのは既に目前に迫ったアクセルの拳だった。
地面が陥没するほどの衝撃と共にララの体は跳ね上がり、ビクンビクンと波打った後、静かになった。
アクセルは拳に付いた返り血を雑に払いながらエレンへと向き直る。
直後、背後からアクセルの首筋に剣閃が襲う。
鳥の亜人・ギザンが翼をはためかせ滑空。襲いかかったのだ。
ギザンはエレンのすぐそばに着地。
「これ以上好きにはさせん!」
立ち上がり、そう告げながらアクセルへと振り返る。
振り返りギザンが目にしたのは、自身に向けて剣を突き出すように構えるアクセルと、当たり一面に浮かぶ光る謎の球体。
アクセルはギザンの不意打ちを躱し、即座に白銀の剣を抜く。そして魔力で作った衝撃弾を建物1階部分全てにばら蒔いた。
「全員動くな……」
アクセルは静かにそう告げた後、左手の人差し指をたて、軽く振る。
するとそれに合わせ、衝撃弾の1つが同様に移動し、壁に接触。
キィィンと甲高い音と共に壁に大穴を空けた。
「あ……あぁ…」
青い顔をしながらオーグの治療をしていたエレンからそんな声が溢れる。
「お前には聞きたいことがある……が」
アクセルはギザンに向けそう告げる。
直後、周囲に漂っていた衝撃弾が一斉に消え去った。
代わりに目に見えないほど極小となった衝撃弾がギザンの表皮が吹き飛ばす。
「いぎやぁあああぁぁ」
おぞましい程の悲鳴を上げ、ギザンはのたうち回る。
ギザンは全身の皮を剥がれた魚の様な状態だ。
そんな状態で地面を転げ回ると肉が引っ付き、さらなる激痛をギザンに与える。
しかし全身を襲う激痛により、じっとする事も出来ず、絶えず悲鳴を上げながら転げ回った後、動かなくなると共に静かになった。
そんなギザンを確認し、アクセルがエレンへと足を1歩踏み出した瞬間、背後から声が響く。
「もうやめてくれぇ!!!!」
白いローブを身にまとい、煌めくような銀髪を振り乱しながらアリスが叫んでいた。
その声にアクセルが振り返ると同時に放たれた赤く、大きな飛ぶ斬撃がアリスのすぐそばを通り抜けていく。
アリスはへたりこんだ後、振り返ってアクセルの斬撃によりまるでくり抜かれたかのような壁を見やったあと、視線を戻し懇願する。
「もう…止めてくれ。頼む……この通りだ」
アクセルは何も答えずアリスの元へと向かう。
「お願いだ………私に出来ることは何でもする。だから……」
「…………分かった」
その言葉を聞き、アリスは即座に視線を上げる。
「……っ!」
「お前が全員の首をとれ……お前にもそれくらい出来るだろ?」
「へ?あ、いや……ま、待ってくれ!」
「なんだってやるんだろ?剣を持って首に振り下ろすだけだ」
「ふぐぅっ……う、う、…頼む………どうか、私の命1つで勘弁してくれないか…私はどうなってもいい!」
「……お前の命1つとるのも、ここにいる全員の命をとるのも、俺にとって労力は一緒だ…それに…命の代わりなんてもんは存在しない」
その後もアリスはただ地面に頭を押し付け、ただ縋るように懇願する。
アクセルはそんなアリスに背を向け、エレンの元へと向かっていく。
そして無言で何かを投げつけた後、時空間で姿を消した。
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