124話 足掻く者達
今もアクセルとカミルは荷車のそばに腰を下ろし、雑談を交わしている。
カミルも最初は戸惑った様子をみせていたのだが、随分と心を許してくれているようになった。
カミルからは薬の知識を聞き、アクセルは世界を旅して得た経験を話している。
「良いなぁ………私もいつかここじゃない何処かで自分のお店を………な、なーんて…あはは」
「ここは嫌なのか?」
「あ、いえ!勿論そんなことはないんですが…でも他の所も見てみたいなって……」
「…………ふーーん、そっか!」
他の地を見たいという願いを叶えるだけなら簡単だ。
自分の時空間で連れて行ってやればいい。
アクセルに一瞬そんな考えが頭を過ぎるが、そういうことでは無いのだろう。
自分達が世界を旅して回っているように、カミルも自身の足でこの地を離れたいという思いが会話をしていて伝わってきた。
自分達が素材を卸せば、薬は出来る。
その薬は間違いなくカミルの知名度を上げるだろう。
そうすれば資金も増え、他大陸に渡り、店を構える位の資金はすぐに貯まるはずだ。
もっとも数年はかかるだろうが……
そんな和やかな雰囲気のまま、カミルは丁寧に別れを告げ帰っていった。
「さて………」
アクセルがそう呟いたと同時に物陰から声が届く。
「おいおい、兄ちゃん………俺らの縄張りで随分勝手な事してるようじゃねぇか…あぁん??」
ゾロゾロと男達を従え、1人の男を先頭にアクセルに詰め寄ってくる。
「……買い物して、その店主と少し話しただけだが、なんか気に触ることでもあったか?」
「こ・こ・に!お前が居ることが気に食わねぇって言ってんだよ!!余裕ぶりやがって!!バラしちまうぞ」
「…………」
「あの女は俺らのもんだ!手出しさせねぇ」
よく見ると薬を強奪していった男達も取り巻きの中に確認出来た。
「……はぁ…つまり都合の良い薬屋を独占したいってことか…アホくさ……」
「んだとぉ!?ってめぇ…」
「よく考えろ!お前らも冒険者だろ?見たところ訳ありで力を授けて貰えなかったって所か?どっちにしても、カミルが居ねぇとお前らは薬を手に入れられない!そうなったらダンジョンに入ってもただ死ぬだけだ」
「うるせぇ!!!んなこたぁ十分理解してんだよ!!お前の言うようにあの人が居なくなると俺らは野垂れ死ぬしかないんだ!!誰にも渡さねぇぞ」
「………はぁ?」
やれやれと思いつつアクセルは殺気立った者達を宥めるため、チュチュ袋から湯気が立ち上る料理を取り出し差し出した。
そして食わせてやる代わりに話し合いを持ちかけた。
最初は警戒をしていた者達だったが、たちまち腹から魔物のような唸り声を上げる。
そして集団を率いていた者も覚悟を決めたのか、手下達に食うように促し、自身はアクセルの前にどっかりと腰を下ろした。
聞けばこの者達もアクセル達同様、ファミリーに加入せずダンジョンに潜っている冒険者だった。
中にはファミリーから追放され、エンチャントの恩恵を失った者も混じっているそうだ。
アクセル達にとってダンジョン1階層~10階層に出現する魔物は脅威にはなり得ないのだが、この者達にとってはそうではない。
毎日が命懸けなのだ。
その為、稼ぎも思うように出せず、食事すらまともに出来ないような有様なんだという。
リック達のいた街の住民も似たような境遇の者達だったが、唯一の違いは目的を諦めたか、そうでないかの差だ。
あの街の住民はダンジョンに潜ることを諦めた。その代わりに全てのファミリーに恩恵をもたらす情報を提供する。だからこそ生活を保護させているのだ。
「俺達だって姉さんにはいつも助けて貰ってる。金だって出来ることならちゃんと払ってやりたい。でもよぉ……」
「自分勝手過ぎるだろ!要するにお前らはカミルの優しさに付け込んで夢を追ってるわけだろ?カミルにとってはいい迷惑だ」
「分かってるってんだよ!!!だが、どうしようもねぇんだ!!!」
この者達は夢を諦めきれず、尚且つ魔物を圧倒する実力も足りない。
商品を強奪しようと変わらず商売を続けてくれるカミルに甘え、さらにはカミルに近づく者達を脅し、遠ざけていたのだ。
正直、救いようのない者達だ。
素直にファミリーに加入するか、夢を諦めた方が楽だろう。
しかし、まだ足掻いているのだ。
まともな食事もしばらくしてなかったのだろう。我先にと食事を口に運んでいた者達も食事を終え、姿勢を正しアクセルの言葉に耳を傾けている。
「……はぁ…おい!全員でダンジョン行くぞ」
幸いミラ達との合流するまでにはまだ余裕がある。アクセルはならず者達を引き連れダンジョンへと向かう。
「とりあえずいつもどうりのやり方見せてみな」
総勢13名がその言葉を聞き、散らばっていく。
腐ってもこの者達はダンジョンに立ち入りを許可された者達だ。
個々の実力は十分にある。
「おーーい!集まれ」
だが、少しするとアクセルが呼び集める。
「お前らはバカか?なんでこんなに人数いるのに協力しないんだ」
そう。この者達、全員がバラバラに魔物と対峙していたのだ。
中には2人組もいたようだが、アクセルの言いたいことはそうじゃない。
「何のための人数だ?役割を分担すれば良いだろ。戦闘、運搬、魔石の取り出し、休憩するやつ。戦闘に向かないやつも戦闘に駆り出す必要ないだろう?」
当然だが、全員が戦闘に特化しているわけではないのだ。
魔法使いであっても運搬に適した力を持っている者がいる。
戦闘技術はおざなりでも体力が有り余り、無駄に走り回っている者もいる。
組織だった動きがまるで出来ていなかったのだ。
その後アクセルが役割を割り振り、再度戦闘を行う。
戦闘は4人、狩った魔物を階段付近の比較的安全な場所に運搬する者2人、血抜き等の処理に1人、魔石取り出しに1人、処理を終えた魔物を買取場まで運搬するのに1人、残りの4人は戦闘組の控えで、万が一に備え、処理を行う者達の護衛を兼ねて休憩。
その後、約2時間程ダンジョンに潜っただけで、この者達が1日かけて稼ぐ金を稼ぐことが出来た。さらに傷薬も戦闘を行う者達に回せば事足り、節約も出来た。
「アニキ!!!今日はありがとうございやした!!」
「んだよアニキって……まぁ、とりあえずは今のやり方で資金集めして、その後は好きにしな。カミルにちゃんと金も払えよ」
このならず者達もカミルには随分と恩を感じている様子。カミルもちゃんと商売が成り立つだろうし、ちょっかいを出してくるやつがいたなら、この者達が黙っていないだろう。
中々いい感じで纏められたと、アクセルも少しだけいい事をした気分になっていた。
「さて、丁度いい時間だし、ミラ達と合流場所に行こうかな」
足取り軽く、合流場所に着いたのだが、ミラ達はまだ来ていないようだ。
少し待ってみたのだが、それでも現れない。
「うーーん…アイツら迷子か?まったく、しょうがないなぁ。迎えに行くか。確かあっちの通りだな」
軽い足取りでアクセルは歩いていく。
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