123話 お薬事情
「よし!!」
アクセル達と別れたソニアは、風が吹き荒れる景色を眼前に捉え気合いを入れた後、無策のまま侵入する。
ソニアがドラゴンで無かったなら侵入する事も出来ず、身体はバラバラになっていただろう。
風の壁を超えた現在も風はソニアの身体を引き裂かんとしている。
気を抜けばたちまち体勢を崩され壁に叩きつけられるだろう。
(ランタンの世界で訓練していたお陰か……)
そんなことを考え、ついつい表情が緩んでしまう。
だが、すぐに己の過ちに気がついた。
(ダメだ………これではダメなのだ!)
魔力を操り環境に適応するだけではダメなのだ。
(住処に居た時同様に自然体でこの環境に適応しなければ…)
ソニアの目的は風の属性を得る事。
雪国に長年住んだものが寒さに強い様に、水の中の生き物達が水の中の酸素を取り込み活動出来るように、属性を得るには己のみの力で環境に適応しなければいけないのだ。
身体に巡らせた魔力を解いた瞬間、ソニアは強風に煽られ地面に叩きつけられる。
最初は立ち上がるのも苦労した。
だが
(……全身で風に順応する)
時に全身で耐え、時に受け流す。さらには利用して移動する。
どれ程壁に叩きつけられたか分からない。
だが確実に進歩している。
(モノにしてみせる。………必ず!!!)
▽▽▽
ソニアと別れたその日の夜。
「さて、明日から何するかな……」
短い旅ではあったが東大陸から戻り、旅先の荷物等を片付けたアクセルは急拵えした椅子に座りながら1人呟く。
ステラは新たに得た力を試すようでダンジョンへ。ミラもそれに同行するとのことだ。
ステラに同行しようかとも思ったが、やはりダンジョンはあまり好きになれない。
金もそれなりに貯えがあり、食料もまだまだある。新たに試したい武器や力もない。
グルっと周りを見渡し、傷んだ箇所を見やった後、拠点の補修と修繕をすることに決めた。
それから数週間経った。
拠点はアクセルの頑張りでかなり綺麗になった。
家具等も直せるものは直して使用している。
だがやはり買い足さなければいけないものもあった。
ベットや照明だ。
「それは私達が買ってこよう。君はのんびり街でも見て回るといい」
ミラとステラがその役目を請け負ってくれるようで、朝から出掛けるとのことだ。
アクセルも同意し、明日は街を見て回ることにした。
「せっかくだし、昼くらいに合流して飯でも食って帰ろうか」
照明は兎も角、ベットは流石にチュチュ袋には入らない。
即日受け取りが出来るならば合流して運んだほうが効率もいい。
その後待ち合わせ場所など決め、皆が眠りについた。
翌朝、皆で一緒に出かけ、アクセルは途中で別れる。
すでにこの地にきて結構な日数が経っている。
その為、ある程度の地形は把握しているが、さすがに広大な街だ。全てを把握している訳では無い。
のんびり散歩気分で街を散策しているアクセルだが、目的もあった。
それは薬屋だ。
薬屋自体は街の中央に何軒か確認している。
それも値段相応の効果を持つ物を販売している店だ。
だがアクセルは満足していなかったのだ。
旅をする上でアクセルが最も妥協しない道具の1つが薬の類いだ。
ステラも植物に詳しくなったこともあり、簡単な調合なら幼少期に教わったこともあり可能だ。
しかし重症を負ってしまった場合、簡単に調合出来る薬は効果を見込めない。
その為、信頼と実績のあるリーレスト産に拘ってきた。
元値の何倍だろうがリーレスト産なら買い、薄めてあったり、偽ったりした物は即座に見抜き、手を付けない。
当然、世界中でリーレスト産の薬は人気で品切れといったこともあった。
その場合もなるべくリーレスト産に近い物を購入していた。
そしてこの地の薬はというと、素材はダンジョン産であり、調合はエンチャントと呼ばれる力で授かった技能を用いて作製されている。
そのため高い技能を持つ者が、より希少な素材を使って高度な調合を行う事ができ、さらには品質も商品ごとに落ちることも一切ない。
技能を用いれば、製作者によって品質が変わるといったことがないのだ。
だが、その代わりに試行錯誤がない。
高い技能持ち同士が競い合えば、信頼で優劣がつく。
そしてダンジョンという無限に魔物が湧く場所だ。作れば売れるのだ。
いちいち試行錯誤を繰り返し、少し効果を高めたり、原価を安くしたり、他者と競い合う必要がない。
だからこそアクセルの求める水準を越えるものが無かったのだ。
チュチュ袋に入れておけば劣化の心配はなく、リーレスト産の予備はまだ余裕があるのだが、この地で薬を仕入れるならより信頼のおけるものが良いと、アクセルはこの地に来た当初から探していたのだ。
「ふぅ………高望みしすぎかなぁ」
そんなことを呟きながら歩き回っていると、街の中央部のように美しい街並みとはうってかわり、治安の悪そうな場所に踏み入ってしまったようだ。
建物は古く荒れ、道には物が散乱している所もあった。さらには道端に座り込む者も目についた。
流石にこんな場所には薬屋はおろか、店を出す者もいないだろう。
しかしアクセルは散策も兼ねてさらに奥に進んでいく。
するとダンジョンへと続く建物が見えてきた。
(ここは中央部の下層って感じか……)
よく見るとダンジョンに続く大通りへと繋がる階段も発見する。
さらに周囲を歩いていると、荒々しい声がアクセルの耳に届く。
「おら!!!さっさと寄越せ……ったく」
声に方に向かうと、数人の男達が小さい荷車に並べられた小瓶を引ったくって去って行こうとした所だった。
「おい!!!お前ら!!!」
アクセルは男達の背後から大声でそう叫ぶが、男達は早々に立ち去ってしまう。
アクセルは荷車の持ち主である女性に近寄り声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「はっ、はい…大丈夫です……いつもの…事なので…」
女性は声をかけられたことに驚いたのか、他に仲間がいたと思って驚いたのか定かではなかったが、怪我等はなさそうだ。
「いつものことって………毎回商品盗られてんのか!?」
「い、いえ…たまにお金を頂ける時もありますよ」
笑いながらそんなことをいう女性に、アクセルは驚き、呆れる。
「お前なぁ……そんなんじゃ商売にならねぇだろ」
「い、良いんです…私なんかの作った薬であの人達が救われてるなら……」
そんな言葉を聞きながら1つだけ残った小瓶を見やる。
「この色………なぁ、ちょっとフタ空けていいか?」
女性に確認をとったあと、アクセルは薬を手で仰ぎ、匂いを嗅ぐ。
「あんた、もしかしてリーレストの人?」
そう。この女性が売っていた薬はリーレスト産に限りなく近かったのだ。
流石に素材の違いがあり、同等の効果を期待することは出来ないが、それなりに素材が良ければリーレスト産に劣らない物になるだろう。
「え?リー…レスト?私は生まれも育ちもこの地ですよ?」
女性はリーレストという地名さえも知らないといった感じだ。
「んー、そっかぁ」
「あ、でも私のお師匠様は別の地からいらしたとおっしゃっていましたよ?」
聞けばこの女性カミルは、冒険者だった両親が幼少期に亡くなり、路頭に迷っていたところ、薬師の師匠に拾われ育てて貰ったそうだ。
エンチャントのよる技能を用いず、独自の素材と調合方法で薬をつくっているのだとか。
客はもっぱら先程のような荒くれ達で、たまに貰える金でなんとか食い繋いでいるそうだ。
「なぁ、この薬1個だけか?あれば売れるだけ売ってくれ」
「え?ま、まだありますけど………」
カミルはおずおずと残り4つを取り出した。
「1口飲ませてくれ」
アクセルはそう言って味も確かめた後、一般にも普及している薬の値段150ポルンに少し上乗せし、1つ200ポルンの計1000ポルンを支払った。
「こ、こんなに!?!?貰いすぎですよ」
これは決して同情したから。などという理由では無い。
「いや、妥当な値段だと俺は思ってるぞ。使ってる素材の割には効果も他のやつより高いし、何より味が良い」
一般に出回っている飲む薬。何を隠そう、とにかく不味いのだ。最悪、吐き出してしまう者もいる程だ。
その点、リーレスト産、さらにこのカミルの作った薬は美味しいとはいかないが、とても飲みやすい。金額を上乗せするには十分すぎる理由だ。
「なぁ、素材があれば他の薬も作れるか?素材は俺が採ってくるから、色々作ってくれ。勿論、金もちゃんと払うからさ」
「えっ…えっと……はいぃ……」
こうして腕の良い薬師であるカミルと知り合うことが出来た。
投稿が遅くなってごめんなさい。
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