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122話 別れの時

宴の準備の間、当初の約束通り隠密集団の使用する投擲武器を見せてもらうことになった。


現在地は拠点を主とした場所ではなく、会合の場として用いられることが多いため、本格的な道具はなく、シン達に同行した者達が持っている物を見せてもらうこととなった。


「この者達はシノを筆頭に、忍ぶ者。故にニンジャ、またはシノビという。そしてその者たちが扱う武具を忍具と呼称している」


シンの説明と共にシノと数名のシノビ達が今回の任務にあたる、シン護衛の為に必要と思われる忍具を並べ広げている。


投擲武器を目的としていたステラは別として、新しい物好きのアクセルも大いにはしゃいでいた。


アクセルはシンから色々な話と共に説明をうけ、ステラは実際に使用しているシノから色々と話を聞いている。


その道具は魔法文化が発達していない分、アクセル達にとっては無駄に思えるような物も存在したが、それでもやはり独自の技術があった。


縄の先に鉤爪が組み合わさった物、導火線があり破裂すると煙を撒き散らす小型で球体の物、暗器と呼ばれる仕込み武器の数々、そして暗器の1つでもあり、投擲武器である苦無や手裏剣と呼ばれる物。


そんな道具の中にも、さらに様々な種類があり、用途によって使い分けるようだ。


一通り道具を見終わった後、シノから補足が入る。


「私達はこの道具と一緒に忍法という手段も用います」


そういうとシノは何やら手で印を結む。


「忍法・火炎手裏剣!」


そんな言葉と共に放たれた手裏剣には火が纏われ、対象となった木製の人形をメラメラと炎上させている。


「ふわぁ!!!!かっっこいぃぃ」


「へぇー……魔力が少ない分、独自の技術に派生させたのか…」


ステラは目を輝かせ、アクセルは感心と納得を示していた。


「……やはりあれも魔力が使われているのか…」


シンからはそんな言葉がこぼれる。


「そうだな。恐らく発動前にやってた動作が魔法使いにおける詠唱に当たるだろうな……魔力の流れも感じ取れたし」


「ふむ、やはりこれから先は魔力について詳しく知らねばならんな………」


自分達の使っていた技術の仕組みもハッキリと理解していなかった事実をシンは真摯に受け止め、国の未来を見据えているようだ。


そんな会話をしながらシンとアクセルはステラの様子を見ていたのが、今度はステラが何かやるようだ。


「よーーし!じゃあ僕も………えっと…ステラ忍法・氷で分身」


見様見真似で手を適当に動かし、印を結んだ後、ステラそっくりな分身が2体現れる。


そしてその分身は身動きしない人形ではなく、姿も瓜二つであり本体であるステラと全く同じような動きをしている。


「…………お前の後ろに隠れていたあの嬢ちゃんが……立派になったものだ。…時の流れとはこうも早いものか」


「同感だが……言い方が年寄りくせぇぞ」


離れた場所からシンとアクセルはそんなこと言い合い、ミラとソニアもまた別の場所からステラを見守っていた。


その後、ステラはまだしばらくシノビ達に教えを乞うとしその場に留まり、それ以外の者達は室内に移動する。


宴まではまだしばらく時間がかかるとのことで、アクセル、ミラはシン達に魔力のことについて色々と教えている。


ソニアはというと、この地特有の料理があることを聞きつけ、宴の準備を手伝う傍ら、料理を学んでいるようだ。


しばらく思い思いの時間を過ごし、ステラも満足したのか、室内に引き上げてきた所、自身が作った料理を運んでいるソニアと出くわす。


「ステラ!悪いがこれをマスター達の所に運んでくれ」


「にんにん!!忍ぶでござる!!にんにん!!」


「………そうか…ステラは要らないか…頑張って作ったのだが………」


「う、嘘でござる!!!忍ばないでござる!!運ぶでござる」


こんな様子でステラは随分とシノビが気に入ってるようだ。


そしてこの後は盛大に宴を楽しんだ。


翌日


流石に一国の王を長々と引き止めるのは気が引ける為、昼前にはこの場を後にしようと準備をしていた最中、シン達からお呼びがかかる。


「本来であればしっかりと礼をしたいところだが、今はこれで勘弁してくれ」


そう言って手渡されたのは手のひら程の木の板。

そこには通行手形と大きく描かれていた。


「この国では異国の通行手形が通用せんからな。…それがあればこの国のどこでも自由に行き来できる。俺の名が記してあるから期限も気にする必要は無いぞ」


「おぉ!助かるよ」


ステラはすでに昨夜の内に苦無と手裏剣を一つずつ貰い受けており、さらにはこの地特有の食材であるコメを1袋と、豪華な贈り物を貰い受けた。


その後、別れを惜しみながらもその場を後にする。


しばらく昨日食べた料理の感想やら、この地の技術などについて雑談を交わしながら山の中を歩いていたのだが、突然ソニアはその足を止め、皆に声をかけた。


「あのっ…………少し良いでしょうか」


そんなソニアの言葉に皆も足を止めソニアに視線を集める。


「突然なことですみません。少し別行動を取らせて欲しいのです」


「んん?何かあったのか?」


今回東大陸に来た目的はステラが投擲武器を求めたからだ。

そして、それは強くなりたかったからに他ならない。

強くなるには。と方法を模索した結果が投擲武器と結び付いたのだ。


そしてソニアもそれは同じ想いであったらしく、その方法もすでに見つけているようだ。


「私はこの地に最初にきて見つけた場所…風が吹き荒れるあの地で風の属性を手に入れたいと考えています」


属性とは魔法を扱う上ではとても大切な要素の1つだ。

それを後天的に得る場合、過酷な環境に身を置く必要がある。


属性を得たことで何が出来るかなどはまだ不明だが、確実に己の糧になるのは間違いない。


しかし一見しただけでもソニアの示した場所は危険極まりない場所だ。

そこまで無理をする必要もないと思えたのだが………


「……分かった。行ってこい!……だけど、無茶はするなよ」


「は、はい!!」


「うん!じゃあ……俺達は拠点にでも帰るか」


「えっ……旅はよろしいのですか?」


「お前が居ないんじゃ意味が無いだろ?旅は強制されてる訳でもないしな」


アクセルはそういうとソニアの頭をわしゃわしゃと撫で回す。


「だから無事帰ってこい。それからのことはお前が帰ってきてからだ」


「……はい!必ず」


こうして皆が思い思いのかたちでソニアと別れの挨拶を交わし、その後ソニアは空高く飛翔した後、飛び立って行った。


本来であれば、あれこれ口出ししたいところではあったが、ソニアはすでに一々小言を言わなければいけないような子供ではない。


散々考え、その末に導き出した答えであるのは明白だ。


あとはソニアが無事帰ってくることを願い、アクセルはミラとステラを連れて時空間で拠点へと帰ったのだった。

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