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120話 嵐の後に

シンから魔法が関係した問題に対処するため力を貸して欲しいと頼まれる。


「俺を含めこの地に住う者たちは魔法の知識が著しく乏しいのだ」


聞けばこの地の人々は魔力を用いた技能を、人ならざる力と恐れ関わろうとしてこなかったそうだ。

そしてそれは現在も変わらず、それ故に研究といったこともされていないのだという。


そうした背景を語りつつ、シンは問題についても語っていく。


問題が発生した場所は、現在地からさほど遠くない山の中の村。

その村には大昔に希少な素材で作られた1本の脇差と分類されるカタナがあった。


その見事な造形は美しいだけでなく武器としても大変優れていたのだが、何やら訳あってそのカタナを祀り、祭具として使用していたそうだ。


恐らく一時的に悪天候が重なったことで土地が荒れ、農作物の不作が続いたことを祟りだ、何だと騒いだことがきっかけだろうとシンが推察を付け加える。


その祟りを鎮めるため、とある一族がカタナを祭具とし、定期的に舞を披露してきたのだとか。

しかし時が経つにつれ、その舞は祟りを鎮めることから豊作を願う舞に意味を変え、近年まで受け継がれてきた。


しかし今から100年ほど前に大きな戦いに巻き込まれ、その一族が途絶えたことによって、カタナの存在は忘れられることは無かったが、伝統の舞は失伝してしまう。


そして問題が起きたのは半年ほど前。

その村の周辺は天変地異に見舞われていた。


万物を引き裂くかのような強風が吹き荒れ、滝のような雨が降り何もかも押し流す。さら雨が降らない時には身を焦がす程の温度となり、夜には凍えるほどまでに温度が下がる。


即座に住民は避難したが依然止まない天変地異に怯えているのだという。


「そりゃたしかに大事だな…」


「これといった原因も思い浮かばんのだ。舞を行わなかった故に罰が当たったなどという意見もあったが、確証などはないからな...俺は魔法の力が関係していると踏んだのだ。何か知恵を授けてくれ」


思わぬ大事について意見を求められるが、皆目検討もつかない。


「正直、なんとも言えないな..憶測にはなるけど、祟りっていう線は多分ない。何かが意思を持ってやってることなら、その地域にだけしか影響を出さないことが不自然だ。人を狙ってるわけでもなさそうだしな」


その後もアクセルは色々な推察を語るが、やはり憶測の域を出ない。


「直接見る方が早いし、何か分かるかもだな」


「俺達にとっては願ってもない事だが、良いのか?」


「俺も気にはなるしな…でも、最悪の場合どうするんだ?」


仮にそのカタナに原因があった場合、つまり破壊を余儀なくされた場合、どうするかということだ。

代々受け継がれ、祀られた物を容易く破壊しても良いのかとアクセルは心配していた。


「背に腹はかえられん。その場合は止むを得まい」


「そうか…で、場所は?」


そんな質問を投げかけると、シンはパンパンと手を叩く。するとお付の者が部屋に入ってきて地図をシンに手渡す。


その地図を見ながら場所を教えて貰ったのだが、アクセル達は皆揃って、違う場所を頭に思い浮かべていたようだ。


「シノ…聞いていたな。そなたが案内し、できる限りの助力をせよ」


そう告げるとどこからともなく返事と共に1人の女が現れる。

アクセル達をこの地に案内していた女だ。


シノと呼ばれた女は動きやすさを重視した黒を基調とした服に着替えていた。


「改めましてシノと申します。先程は無礼の数々、申し訳ございませぬ」


「おう!細かいこと気にするな。案内よろしくな」


その後、馬の手配や食料の確認などといった準備をするというシノに対して、ソニアが自分が運ぶと言い出した。


ソニアに運んで貰えば目的地までは正に一瞬だ。


シンとアヤメに見送られながら、シノの案内の元、目的地に向かう。


そして僅かな時間でたどり着くことが出来たのだが、感情を出さないよう訓練をしているシノもソニアの移動速度には面食らったのか、しばらく放心状態となっていた。


しかし流石と言うべきか、現場が近づくと気を持ち直し、いつもと変わらない態度に戻っていた。


「こりゃひでぇな……」


現場の惨状を目の当たりにしたアクセルからそんな言葉が漏れる。


遠目からでもどんよりとした空を確認できていたが、現場は正に嵐に蹂躙されたかのようだった。

大粒の雨がまるで降り注ぐ矢のように打ち付けられ、なぎ倒された木々が暴風によって空を舞っている。


「シノはソニアとここに居な。ミラもついてやってくれ。ステラは俺を手伝ってくれ」


ソニアはドラゴン姿のまま背にシノとミラを乗せその場に待機。調査はアクセルとステラで行うことになった。


ステラは自身に風を纏い、アクセルは空中で跳ね、勢いを殺しながらそれぞれ地上に降り立った。


視界を遮るほどの雨と、立つこともままならない風に順応しながらカタナが祀られた場所にアクセルは向かっていくのだが、ここで異変が起きる。


「あれ?なんで僕の周りはこんなに静かなんだろ…僕なにも魔法使ってないのに」


雨や風がまるでステラを避けるかのように、ステラの周囲は穏やかな空間となっているのだ。


そんなことがありながらも、カタナが祀られた祠に辿り着くが、そこはまるで侵入を拒むかのように風が防壁のように覆っていた。


しかしステラが近づくとまるで招き入れるかのように風が止み、中への道が開けた。


何故ステラが…そんな疑問は最もなのだが、祠に入るとその答えがすぐに分かった。


「精霊?いや、違うな…それに近いものか…」


「……うん…僕の中に色んな思いが駆け抜けていってる」


精霊とは種として確立された存在ではあるが、目の前にある祀られたカタナからはそれに近いものが感じられた。


恐らくあのカタナには残留思念と呼ばれるものが宿っているようだ。


意志を持っている訳ではないが、様々な思いの断片が無数に集まっている。

これらが何らかのより強い影響、または長い月日を経て精霊となる事例も稀にあるという。


あのカタナに宿っているのは精霊に極めて近いなにか。といったところだ。


「なるほどな。こいつはステラを気に入ったんだな……」


そんなアクセルの呟きを聞きつつステラはそのカタナにゆっくりと手を伸ばし、優しく持ち上げた。


すると先程まで響いていた騒音は瞬く間に止んだ。


それをうけ外に出てみると、そこは嵐が嘘のように晴れ、青空が広がっていたのだった。

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