119話 上様
手違いで投稿出来ていませんでした。
ので、本日分と合わせて2本立てです。
「あんた達にお客さんだよ…」
酷く怯えた様子の宿の者からそう告げられる。
「あぁ、ありがとう……しかし、昨日の今日で随分と対応が早いな…」
そう呟きながら宿の外に出ると、そこには町にいる女性達と同様の格好をした1人の女性が佇んでいた。
服はユカタに似ており、髪は結ったものをクシで縫い止めている。
「伝言は届けてくれたみたいだな!」
「…………こちらへ」
女はそれ以外何も告げず、歩き出す。
「良いのか?役人達に黙って勝手に出歩いて…」
「…ご心配には及びません」
そして人気のない場所にやってくると女は立ち止まり、振り返る。
「…………今回の件について、どうか御内密にお願い申し上げます」
そう告げられたアクセルは皆に視線を向け、皆が頷いたのを確認する。
「分かった。それで……」
それから先を聞こうともせず、女は歩き出した。
「なんだよぉ……喋るの嫌いか?昨日も一言も喋ってくれなかったしよぉ……」
「……………初めてお会いするはずですが…」
「いやいや、だって……」
「マスター……彼女にも事情があるのだ。そう問い詰めてやるな」
ミラの助け舟を得て、その女も態度や表情には一切変化が無かったが、内心を不安と疑問が埋めつくしていた。
「(本当にこの者たちを連れて行っても良いのだろうか)…………少々急ぎます」
自身が昨日アクセルと接触した人物だと、アクセルのみならず、全員に見破られていると悟り、女はそれだけ告げると
常人ならざる速度で動き出した。
動きづらい服装であるにも関わらず、女は木の枝を足場に跳躍。案内するというより姿をくらまそうとしている様な動きでどんどんと進んでいく。
しかしアクセル達はそれを意に介さず、雑談を交えて女に続く。
それなりの距離を移動したところで女が足を止めた為、アクセル達も同様に足を止める。
「着いたか?」
「はっ…はっ…まさか…息も、切らさないとは……」
「…まぁ、これくらいはな」
「………ご無礼を致しました。目的地には着きましてございます。私のことは煮るなり、焼くなりなんなりと……」
女はそう言いながら膝をつき、その膝の上に手を揃え、覚悟を決めたかのように目を閉じた。
「何でだよ…とにかく行こうぜ」
「………………」
生い茂った木々を抜けると、視線の先には木造の大きな建物が見えていた。
しかしその建物は民家にしては巨大で、建物に続く長い階段があり、その手前には門のような物があった。
しかしこの門は綺麗に装飾されているが、扉が付いておらず、侵入を阻むための物では無さそうだ。
「神殿みたいなものか?それとも教会か?どっちにしても面白い作りだ。あの門には何か仕掛けでもあるのか?」
「……………申し訳ございません。ご案内致します」
「はぁ………難儀なことだなぁ」
恐らく勝手に語ることが出来ないのだろうと察し、それに対して同情してしまう。
階段を登りきると、すぐ側に石の台座の様な物の上に鎮座する犬の様な彫像も見つけるが、何も答えてはくれないだろうと、そのまま通り過ぎる。
「この先に上様がいらっしゃいます。履物を脱いでお上がりください……」
「靴脱ぐのか。宿はそのままだったのにな」
「あの宿は私達のような異国の者に合わせて作られていると言っていた。こういう習わしも含めてなのだろう」
そんな会話をしながら用意してもらっていた水の入った桶に布を潜らせ、足を綺麗に拭いたあと建物に上がる。
すると控えていた者が案内を引き継ぎ、とある部屋まで連れられる。
そして膝を付き、横に引いて開く扉を開け、そっと身を引いていく。
そんな仰々しい案内にむず痒い思いをしながら部屋に入ると、豪勢な笑い声が響き渡った。
「わっはっはっ!!!!よくきたな。アクセル!!」
「シン!!!」
そこには以前出会った時より年齢を重ね、煌びやかな衣服を纏い、口髭を携えたシンの姿があった。
「殿…そのような口ぶりは些か……」
傍に控えるように膝を着く女性が言い淀みながらそう告げる。
「堅いことを申すな!今ばかりは無礼講よ。良いなアヤメ」
アヤメも一見して別人かと思えるほど見た目麗しい女性となり、それを引き立てるかのような煌びやかな衣服を纏っている。
「やっぱりアヤメか!見違えたかと思ったよ……それより殿って?」
「うん?まぁ、お前達でいう王のようなものだ」
「……まぁ、以前からそれなりに権力を持ってやつだとは思ってたけど、王か……」
「当時からだった訳じゃない。王になったのもこの数年の間だ。まだまだ若輩者よ。それより以前見かけなかった者もいるようだが?」
「私はソニア。アクセル様達と旅を共にしております。以後お見知り置きを」
その後は過去話を織り交ぜながら色々と教えてもらう。
この建物はアクセルが推察したとおり神を奉る為の場所であり、殺生を禁ずる場所とのことだ。
そして一頻り話が終わるとシンが話題を切り出す。
「それで、今回の訪問の目的は?」
シンの質問にアクセルは無言のまま、ステラに視線を向ける。
それを察してアクセルの代わりにステラが口を開いた。
「今回はこの地の隠密集団が使ってる投擲武器について知りたくてきたんだ。良かったら見せて欲しいなって…」
「ふむ………」
本来であればとても信じられる言葉ではない。というのも、この地の隠密集団が使う武器はあまり一般には浸透しているものではないが、かといって特に秘蔵しているわけでもない。
それをただ見たいが為に、危険な大海原を長い時間かけて渡ってくるのは正気の沙汰とは思えなかった。何か裏があるのではと考えほうが自然だ。
しかしそれはあくまで一般的な考え。
シン自身が旅をしたことに加え、アクセル達が世界を旅して回っていることを知っている。
そしてそんな旅路には武器はとても重要な物。
手に馴染む、または信頼の置けるものを追い求めることの重要性はシンにも即座に理解出来た。
「勿論見せることについては問題ない。後ほど案内させよう。なんなら現物も幾つか持って行っていい…」
「…随分と歯切れが悪いな。迷惑なら言ってくれていいぞ。それとも何か気になることでもあるのか?」
「いや、役職上すこし深読みしただけの事だ。気にするな…だが、代わりと言ってはなんだが、少々手を貸してほしい」
「それは内容によるな…」
「うむ、今この地は少々問題を抱えていてな。俺が偶然この地に居たのもその問題をどうにかしようとしてのこと…それに加えて異国の者が密入国。これはお前たちだったからもう良いのだが、巨大な飛竜…ドラゴンを目撃したなんて報告もあってな……頭を抱えてるいるのだ」
「あ………」
「申し訳ございません。気をつけていたのですが、まさか人目についていたとは……」
ソニアが申し訳なさそうに頭を下げると、それを理解が追いつかないとシンも首を傾げていた。
そんなシンにソニアのことを教えると歓喜と安堵が混ざったかのような複雑な表情をしていた。
「となれば残る問題は1つ。これが厄介でな…恐らく魔法と呼ばれる力が関係しているようなのだ。知恵を貸してほしい」
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