116話 人魚の国 その1
本日は予想以上に長くなったので2本立て!
水竜スフィアの背に乗り、暗闇の中を進む。
直後、アクアが灯りを魔法で作り出してくれたお陰で全員の姿を確認できる程度の光源を得たのだが、周囲の様子は全く分からない。
暫く暗闇を進むことに皆が意識を向けていた為、気付くのが遅れてしまったが、水竜スフィアもまた背に居るものたちを気遣ってくれているようだ。
恐らくスフィアも人魚に負けず劣らずの速度で進んでいるにも関わらず、水の影響を一切感じないのだ。それに加えて会話も出来る。
そんな調子で人魚の国に向け進んでいたのだが、やはりアクセルにとって周囲を確認できない事は不安だったのか、魔力を展開し、周囲の確認を行う。
(万が一こんな所で俺の魔力が魔法を打ち消したりしたら笑い事にもならないな…)
訓練を重ね、さすがにうっかり魔法の効果を打ち消してしまうということは有り得ないが、万が一戦闘となった場合、そのうっかりも確実に無いとは言いきれない。
ましてや周囲は暗闇。自分達を狙っているものが近くにいるかもしれないと思うと、僅かながら緊張してしまう。
皆の談笑に耳を傾けつつそんな事を考えていたのだが、展開した魔力には何も反応が無いことに違和感を持った。
「なぁアクア……今通ってる所って、もしかして物凄く広くて大きいのか?」
「っ!?これくらいしかない灯りでそんな事も分かるの?アクセルって目が良いんだ…」
「え?あ、いや、別にそういう訳じゃないんだけど……」
「でも、正解だよ!スフィアに乗った所の暗闇を入口として物凄く大きな洞窟になってるんだ。で、人魚の国はこの洞窟の中にあるってわけ」
その言葉に皆が感心を示していたが、真っ暗で何も見えないことが残念で仕方なかった。
「あ、もうすぐ着くよ」
アクアのその一言に全員が前方であろう方向に視線を向け、意識を集中させる。
すると遠くのほうで暗闇の中に小さな光が見えてきた。
その光は瞬く間に近づき、それに伴い周囲の様子も鮮明となってくる。
そしてスフィアが立ち止まった後、皆が立ち上がり目の前の光景に息を飲む。
そこはとてつもなく巨大な空間が存在し、恐らく住居であろう建物が並ぶ、まさに街がそこにあったのだ。
先程までの暗闇とは違い、淡く優しい光が空間全土を包み込んでいる。
ふと気になり振り返ってみると、街の光に照らされ、先程通っていた洞窟の全容が鮮明に視認することが出来た。
アクアの言っていた通り、巨大な洞窟ではあったのだが、その規模が想像を遥かに超えている。
「おいおいおい……これは大きすぎだろ…スフィアが小魚位に思えてくる…」
アクセルの絞り出したかのような驚嘆の声が届くと同時に皆が振り返る。
「「「…………………………」」」
「あはは、ね?大きいでしょ」
「海ってすげぇんだな……………」
数々の雄大な自然を見てきた一同だが、ただ巨大というだけで言葉を失ってしまった。
「じゃ、そろそろ行こっか」
アクアの言葉を受け、スフィアが緩やかに動き出した事で皆も腰を下ろす。
そして街がより鮮明に確認できる距離まで来たところでスフィアが進路を変える。
「あれ?」
「ごめんね……ホントは街にも連れて行ってあげたいんだけど、他の人魚達がやっぱり、ね………」
「あぁ、なるほど。ま、急には受け入れられないよな」
と、そんな会話をしていると、またもや目を疑う光景が目に飛び込んできた。
それは恐らく帆船であったであろう船が逆さになり、半分ほど地面に埋まっているのだ。
「船!?」
「そ!あれがスフィアの家 兼 私の秘密の場所って感じかな」
その船の近くにスフィアがゆっくりと止まると、ふわぁっと地面に降り立つ。
そしてスフィアに礼を述べると、ヒレのような手をパタパタと振り、その後どこかへ行ってしまった。
アクアに促され両開きの窓のような部分から巨大な船の中に入る。
そこには部屋いっぱいに様々な物が壁に沿って綺麗に並べられている。
そんな物を眺めながらアクアに続き、促されるまま椅子に座る。
「これは…なんとも不思議な材質の椅子だな」
「これは珊瑚っていう生き物だよ。加工品じゃなくて生き物なの!」
その言葉に思わず席を立とうとする面々だが、アクアに大丈夫と言われ腰を掛け直す。
「街を照らしてるのも壁に張り付いた珊瑚なんだ。それから________」
その後もアクアは人魚達に色々と教えてくれた。
街の建物も珊瑚や貝殻で出来ていること、先程見た街も無数にあるうちの1つであること、道中の洞窟は迷路のように入り組んでいること、本当に様々なことをアクアは教えてくれた。
一段落した所で、外からコンコンコンと音がなり、1人の人魚がお菓子のような物を運んできてくれた。
「あ、皆に紹介するね。私の親友のセイラだよ」
「陛下…御客人の前でそのような紹介の仕方は…」
「2人の時はそういうの無しにしようって前も言ったでしょ?この人たちは大丈夫だから。ね?」
「………全く。もう少し自覚を持って欲しいのだけれどな。申し遅れました。セイラと申します。以後お見知り置きを…」
「え、あ、うん。アクセルだ………へ、陛下?」
「あ、言ってなかったっけ?私がこの国の女王アクアだよ」
流石に衝撃的な発言に皆が声を揃え、驚きの声を上げる。
その間にセイラは菓子を全員に配ってくれる。その時にアクセル以外の皆も礼と共に自己紹介を済ませた。
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