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109話 ダンジョン内部へ

「お待ちください!」


いざダンジョンに向かおうと意気込んだアクセル達に、受付嬢が声をかけてくる。


「ん?なんだ?」


「ここ、ダンジョンでは通常の冒険者の方々がこなしていた業務とは異なります。ご説明しますので、あちらに」


そう言うと受付嬢は、受付の正面の空間にある机や椅子が並んだ広場に案内してくれる。


そして魔物の生態や魔石について、さらには1階から10階までに確認された魔物や資材を丁寧に説明してくれた。


その説明を最初は不思議な気持ちで聞いていたが、すぐに納得した。


通常、依頼とは内容が不鮮明なものが多い。


例えば魔物が暴れている。といった依頼でも魔物の種類、数、果ては本当に魔物なのかなど、内容を完璧に把握している依頼は少ない。そしてそれを解決すると報酬が入るといった具合だ。


しかし、ダンジョンはそうではなかった。魔物を狩り、資材を採取すれば、それが報酬になるのだ。


ダンジョンへの出入りをする冒険者、それらを管理する者達からすれば、冒険者は富を勝手に運んで来てくれるのだ。手厚く補助をするのは当然である。


こうして情報を得たアクセル達は、改めてダンジョンに向かっていたのだが、その道中に待ちくたびれたのか、苛立ちを隠そうともしないナナと、そんな姉にオドオドするララの姿があった。


「よう!ウチらもついて行ってやるよ!初めてなんだろ?」


「いや、良いよ。今日は様子見するだけのつもりだし…」


「まぁそう言うなよ。ウチらが色々と教えてやっからよ」


「……………まぁ、そういうことなら…」


この申し出は正直迷惑だった。いつも通りの探索も会話も出来ないのだ。


アクセル達の探索能力やチュチュ袋の存在など知られたくないものは沢山ある。

見つかれば勧誘はさらにしつこくなるだろう。


「ま、口うるさく言うつもりはねぇよ!後ろついて行ってやるから、聞きたいことあったら聞いてきな!」


「ああ、ありがとう」


一見すると面倒見の良い姉御肌の女性なのだろうが、裏を返せば後ろから観察されるのだ。あまり良い気はしない。


それからは会話もなく、ダンジョンへと続く階段を降っていく。


「地下なんだな…てっきり登るのかと思ってた…」


そんなアクセルの呟きに皆も同意を示し、階段を降っていく。


降った先にはさらに空間があり、受付があった上階と同等

の広さだ。


そこには露店のような受付があり、おそらく卸されたであろう魔物が吊るされていた。


「ほうほう!!ここで魔物達を捌いてるのか」


「ふむ…しかし地下にも関わらず空気も澄んでいるし、臭いも気にならないな」


「そう言われると確かにな…」


アクセルとミラがそんな会話をしていると、ステラが会話に混ざってくる。


「あっちのお店もお肉屋さんかなぁ?武器屋さんっぽいけど…」


確かに反対側に武器屋のような露店も見える。


「うーん、これからダンジョンに向かおうってやつが武器をここで買っていくとは思えないけど、まぁどの道、俺らには関係ないな」


「それもそっか!!」


ダンジョンへはさらに階段を降る。


その階段へアクセルが足を踏み出した瞬間、後ろの姉妹には気取られないようにアクセルが魔力を使い、文字を綴る。


そこには「警戒」とだけ書かれていた。


少し進むと1階層の景色が見渡せる。


「なんで地下に草原があるんだよ!!」


そこは所々木々が生い茂った、のどかな草原が広がっていたのだ。


「本当にこの地は不思議が溢れてますね…」


階段を降り、平原に降り立つとアクセルは階段を見上げる。


そして視線を戻し、思案する。


(すぐに情報は共有したいが、あいつらが邪魔だな…戻ってからにするか)


そんなことを考えているとステラが話しかけてくる。


「ねぇねぇ、マスター…お野菜見つけた!」


「……ホント、あの受付の人の話聞いといてよかったよ。何でもありだな…ここは」


ステラの言う通り、小川の近くにニンジンに似た野菜が、耕されたような土に埋まっていたのだ。


そしてなんとこの野菜、抜いても一定時間が経つとまた生えてくるのだとか…


そんな野菜を観察していると、木の影からイノシシの様な魔物が姿を見せる。


「ロールボアか…やっぱり情報は正しいか…」


本来ロールボアは人を襲いはしない。比較的穏やかな魔物だ。


しかし今目の前にいる、額に魔石を付けたロールボアは、完全にアクセル達を敵対視している。


それは野菜を手にしているからではない。これについても受付嬢からの情報を貰っていた。


このダンジョンの魔物は全て、魔物同士では干渉せず、ダンジョンに侵入した者を敵対視するのだとか。


つまりは全ての魔物が敵なのだ。


アクセルは素早くロールボアの首を切り仕留める。同時に額の魔石が体から剥がれ落ちた。


ソニアは魔石を拾うと、手早く血抜き等の処理をしていく。


が、やはりここでも不思議な現象があった。


滴る血が地面に落ちると、地面に浸透した血は一定時間経つと、跡形もなく消えていくのだ。


普段であれば、現在のように敵地のど真ん中で立ち止まることは有り得ないのだが、今ばかりは自分達で諸々を確認する必要があった。


「今日は帰ろう」


ある程度の血抜きが終わるとアクセルはそう言うと、魔物の肉を担ぎ、皆で引き返していく。


「あぁ?なんだよ…もう帰んのか?様子見にしても、こんな短い探索じゃ何も分かんねぇだろ!…まさかもう怖気付いたのか?」


「まぁ、当たってはいるな…出直すことにするよ」


ナナにそう告げると足早に階段をかけ登る。


「ちっ!!ありゃダメだな」


そんなナナの呟きがステラの長い耳に届くが、一行は早々に魔物を引き渡し、料金を受け取ると、上階の受付で魔石を換金。そのまま宿に戻っていった。



読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] リック忘れててごめん。新章始まったばかりだけど面白そう!マスターには悪いけどオラクルすっごい気になるからトラブってくれ!!
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