104話 驚くべき力
「君はダンジョン都市にはもう行ったのかい?」
「いや、まだだ」
「じゃあ僕の話を聞いていけ…必ず助けになる」
リックの言葉を聞き、ミラ達を見ると無言で頷く。
場所を変えるようで、リックの後に続き案内されたの1軒の家だ。
「こんな僕にも今は妻がいる。昔のようなに無謀なことは出来ないし、したくない……さて、ダンジョン都市のことについてだね」
全員でテーブルを囲みリックの過去話に耳を傾ける。
アートランで上級探索者の資格試験を辛うじて合格していたリックは、アクセルをパーティー勧誘して断れていた、ある冒険者達から声を掛けられ、総勢16人パーティーで、ここ西大陸を目指すことになった。
全員で金を出し合い、ポロの船乗りに大金を払うことで足掛かりを手に入れたが、複雑な海流に流され、荒れた海に投げ出され、魔物に襲われ仲間の半分を失いながらも、なんとか西大陸に到着した。
そして現在のアクセル達同様の説明をこの街で受け、沈んだ気持ちが嘘のように浮き足立った。
追い求めていた理想が現実にあったのだ。
「そしてダンジョン都市に着いた僕達だったけど、すぐにはダンジョンに入れなかった。力不足だと門前払いをうけてしまってね」
必死に情報を集めたリック達は新たな力を授けてくれる人物がいると耳にし、早速訪ねるが条件を提示された。
それはファミリーに加入することだ。
「ファミリー?冒険者ギルドみたいな感じか?」
「いいや、君はいうギルドは冒険者の活動を補助する集まりだ。ファミリーはダンジョンを攻略するため、冒険者達が互いに協力し合う集まりさ」
「仲間みたいなものか?」
「まぁその認識でとりあえずはいい……そのファミリーに加入し力を授かり、ファミリーをさらに大きくする。そして力を授けてくれた人物達を皆はオラクルと呼んでいたが、ファミリーの創設者でもあるオラクルに貢献することが、エンチャントと呼ばれる新たな力を授かる対価となっているのさ」
「要するにそのオラクルってやつはエンチャントって力を授けてくれる代わりに、そいつの生活の面倒を見なくちゃいけないってことで良いか?」
「そういうことだ。そしてオラクルは1人じゃない。オラクルの数だけファミリーがある。その中で有能な冒険者達を数多く有し、ダンジョン攻略も最前線で行なっているのが大手ファミリーと呼ばれ、ダンジョン都市内ではかなりの影響力を持っている。数を揃えるのも、実力者になるであろう者を見抜くのもオラクルの手腕次第といったところだね」
「なるほどな。それで、そのエンチャントってのはどんな力なんだ?」
「上手く説明出来ないが、生まれ変わると、とでも言えばいいか…エンチャントを授かり、魔物と戦うことでさらに力が成長していくんだ。身体能力も上がり、新しい魔法だって覚えることが可能だ」
その後もエンチャントについて自身が知る限り教えてくれるリックだが、エンチャントとは現代でいうステータスのような物だ。
魔物と戦うことでステータス上昇値が蓄積されていき、都度オラクルによって反映されていく。
さらにエンチャントはステータスだけでなく、全く新しい才能も目覚めさせることも可能であり、物を作る才能に目覚めたり、戦うことにさらに特化した才能が目覚めたりと、およそ信じられないような力だったのだ。
しかしステータスの上昇も限界があり、何れ頭打ちとなってしまう。
そんな者達も自身の在り方が変わるほどの戦闘(アクセルなら人型魔獣との戦闘)を経験することで自身の器をさらに大きくし、ステータスが上昇するようになるのだ。
これ現象を転生と呼び、1度転生をした者をレベル2の冒険者と呼ぶそうだ。
「なんだよ、そのふざけた力………」
「気持ちは分かる。今までの努力をあっさり無かったことにしてしまうからね。でもエンチャントの力はダンジョン都市、正確にはオラクルと一定距離にいないと発動されないんだ。その一定距離がダンジョン都市内であり、ダンジョン都市を出る、もしくはエンチャントを受けた証でもあるファミリーの紋章が消えると同じく力は使えなくなる」
「なんにしてもふざけすぎだろ!そんな力を授けるやつが1人ならまだしも複数人いるんだろ?どうかしてるぞ」
「そう、まさに神の所業だ。神の意思を伝える者達、故にオラクルと呼ばれているのさ」
「まるで違う世界にでも来た気分だ。異次元過ぎる」
アクセルの言う通り、ダンジョン都市はまるで現代のゲームのような世界なのだ。
無限に生まれる魔物、それを倒すことで強くなる冒険者。そんな冒険者達にエンチャントを授けるオラクル達。
強さとは小さな努力の積み重ねてだと信じてきた。そしてそれは確実に間違っていない。
その考えが馬鹿らしくなるほどエンチャントという力が異常なのだ。
同様にそれを行うオラクルも。
「しかしそんな馬鹿げた力があったとしてもダンジョンの攻略は難しい…魔物から逃げる時、偶然別の魔物の群れに遭遇し、命からがらそれを振り切れば天井が崩れ、地面が崩落する。そんな普段起こりえないことが当たり前のように起こるのがダンジョンなんだ。勿論、毎回じゃないがこんな時にって時に限って起こる……まるでダンジョンそのものが意思を持っているかのようにね」
「………」
「僕はそんなダンジョンに仲間を奪われ、心を折られたんだ。だからファミリーを抜け、ここにいる。君もダンジョンに潜るなら過剰なくらい警戒しろ。あそこでは何があっても不思議じゃない」
「あぁ……忠告ありがとう、心に刻んどくよ」
リックの家を後にし、宿に戻るが全員口数が少ない。
リックの忠告はありがたいが、アクセルにとって不測の出来事は常に身近にあるものだ。
聞けば浅い階層はこの大陸に来たもの達なら問題ないとのことで、リックの言っていたのはさらに深い階層での話だ。
浅い階層を回ってみてからでも探索を続けるか、ダンジョン都市を去るかを決めても遅くはない。
もっといえばダンジョン都市を見て回ってからでもいい。
とりあえず皆で話し合い、そう結論を出した一行は翌朝ダンジョン都市に向かう事になった。
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