103話 ダンジョン都市
街に向かうと1人の男が出迎えてくれた。
「ようこそ!冒険者の方々ですよね?ご案内しますよ」
そう言いながら近づいてくる男に警戒を強めるが、見るからに怪しいこの男からは敵意が感じられず、伏兵もいないようだ。
「怪しすぎるだろ。何が目的だ?」
「それも説明しますよ。さぁ、こちらに」
全員に視線を送り、警戒は怠らないよう促し男に続く。
男は先頭を歩きながら食事処や酒場など色々と街の紹介をしながら歩いていく。
案内された街を観察してみるが、ここでの暮らしはかなり潤っているようだ。
街にいる人達の服装も清潔であり、店の外にあるテーブルで食事をしている者達もそれなりに豪華な物を食べているのだ。
そしてここでさらなる疑問が浮かぶ。
この街周辺で見かけなかった肉を売ったり食べてたりしているのだ。
食べる分に遠くから仕入れてきたりと、まだ納得は出来るのだが、売っている物は新鮮で店の者もアクセル達にしか声を掛けていないように思える。
不審に思いながらも男の後に続き、到着したのは立派な店構えの酒場といったところだろうか。
店に入ると案内をしてくれた男は同行せず、店を後にするが代わりに店の店主らしき男がアクセル達を歓迎してくれている。
「よう、あんちゃん!この大陸は初めてだろ?色々説明してやるよ」
話を簡単に説明すると、この街のさらに向こうにあるダンジョンと呼ばれる魔物の巣窟のある場所を中心に栄えた都市があり、その都市に冒険者を導くことで対価として生活を援助してもらっているとのことだ。
そしてここ西大陸は冒険者がこぞって目指す場所だが、海で隔たれ、海流も複雑、海に大型の魔物もいると、辿り着くのは非常に困難であり、辿り着くことが試練でもあると男は語った。
そんな狭き門を潜り抜けた精鋭達がこの先のダンジョン都市をさらに発展させ、文明を高めていっているのだと。
「この街に住むほとんどの者は元冒険者だ。全員が我こそはと意気込み、狭き門を潜り抜けたきた幸運の持ち主でもあるが、それだけじゃ通用しねぇ。力が及ばず心が折れた者達が帰る場所もなくし、行き着くのがここってわけだ」
「なるほどな。でも全部援助してもらってるんだろ?聞いた感じでは楽して生活出来る分、この街の方がいいんじゃねぇか?」
「あんちゃん、冒険者のくせに欲がねぇな!ダンジョン都市では己の力だけで何でも手に入る。富も名声も人ですら思うがままだ。その夢を砕かれた者がここに集まってんのさ」
「ふーん…でもさ、いくら魔物の巣とはいっても限りはあるだろ?」
「それがそうでも無いのさ!どういう訳かそのダンジョンの魔物は尽きることがない。そしてダンジョンは地下深くまで続いていてまだ果てを見た者はいないのさ。だからこそ冒険者は未知を求めダンジョンに潜り続けてんのさ」
「……なるほどな。無限に魔物が湧くから食べ物も困らない。その素材をたまに来る船乗りに売りつけて利益を得てるのか…うーん………」
「それだけじゃないぜ!そのダンジョンにいる魔物は魔石って呼ばれる魔物の核に似た石を必ず落とすんだ。それを使って様々な道具を生み出したり、金に変えたりしてるのさ」
この食事処は宿も兼ねているとのことでここで泊まることにしたが夜でも賑やかなこの街を少しまわってみることにしたのだが、なにやらミラが1人納得したような表情を浮かべ口を開いた。
「たしかに未知を追い求める冒険者が多く集り出来た街であるなら世界を乱すような争いが起きないも納得だな…」
「ん?どういうことだ?」
「つまり、ほとんどの者が君のような冒険者だということだ。未知の素材とそれを使った技術。それが世界を揺るがす程の騒ぎになっていないのは、それらに興味がないからだろう」
魔石と呼ばれる物や、それを使った道具がどれ程の物か定かではないが、素材は無限に産出されるのだ。各国の奪い合いから世界規模の戦争に発展してもおかしくないのだが、それらをこの大陸外部に持ち出し、意のままに世界を操ろうとする者達が皆無なのだ。
故に世界の均衡は保たれているのだとミラが説明してくれた。
「なるほどなぁ!みんなそのダンジョンの地下に何があるのかに夢中ってことか……でもなぁ…」
「君はそのダンジョン都市の未知1つに人生をかけるより、世界に数多ある未知を見て回りたいということだろ?」
「なはは、そういうことだ。もちろんそのダンジョンってのにも興味はあるけど、人生全てをかけて挑むつもりはないな」
そんな話をしながら街を歩いていると、突然1人の男がアクセルを指差し、大声を上げる。
「あーーーーー!きみは!!!」
「うお!?なんだよ、突然………んん?どっかで見たような、魔力にもなんとなく覚えがあるし…うーーーん」
「全く!僕のことを忘れたのかい?アートランにいたリックだよ」
「リック………あぁ、冒険者に成り立ての時会ったやつか。久しぶりだな!この大陸に来てたのか。あれ…でも…」
「そうさ、僕も冒険者の道を諦めここで情けなく他の冒険者達のスネに齧り付いてるのさ」
「お、おう…大分ひねくれてるな。あ、元からか!」
「一言余計だ!そうさ、大志を抱き意気揚々とこの大陸にきたはいいが、僕なんかじゃ、あのダンジョンでは虫けら同然なのさ……」
意外な人物と、意外な場所で再開を果たしたアクセルだった。
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