100話 ガラット国王都その2
姫に連れられ王宮へと足を踏み入れた一行。
ソニアの父の武具を披露する場へと案内してもらっている最中、アクセルは1人の男が視界に入る。
その男はどうやら訓練中のようで、その様子を歩きながら見ていたアクセルに、姫が教えてくれた。
「彼が、かの武具を使い戦う騎士団、ドラゴンナイトの団長、グレンです」
そんな説明を聞いてか聞かずか、アクセルはただ黙ってその男に近付いていく。
そんなアクセルの行動を不思議に思う面々だが、自然と後に続いていく。
「ん?これはマリー姫様。このような場所にどのようなご要件で」
グレンと呼ばれた男は姫に気がつくと即座に膝をつき、そう告げる。
「お勤めご苦労様です。――あっ」
姫の言葉を遮るようにアクセルは立て掛けてあった剣をとり、グレンと向き合う。
「な!?どういうつもりだ…」
普段、いくら無作法なアクセルでもいきなりこんなことはしない。ますます不思議に思う面々だが、ミラだけは違うようだ。
「済まないが好きにさせてやってくれ…」
剣を構えるアクセルに、グレンも理解が追いつかないといった様子だが、剣を構え対峙する。
「あれ?マスター剣1本なんだ…構えも普段とはちょっと違うね」
ステラが首を傾げ、呟いたのが合図となったのか打ち合いを始める2人。
「うーん、マスターの知り合いなのかな?戦い方も2人共似てるし、なんでだろ」
「ふふ、昔はよくあんな風に戦っていた。彼もまた師の真似事から剣を始めたようだからな」
そう、アクセルはいつもとは構えも戦い方も違っている。
普段のアクセルは2本の剣のみならず、身体全てを使って攻撃を繰り出す、まさに変幻自在といった戦い方なのだが、現在は剣を主に使う戦い方をしている。
そしてグレンも同様の戦い方をしているのだ。
しばらく打ち合うとお互い満足したのか、双方が同時に距離をとる。
「君は一体……グレイ様を知っているのか!?」
「やっぱりあんたも知ってるのか…グレイは俺の師であり父親だ。血の繋がりはないけどな…」
アクセルは師であるグレイの戦い方を真似し、グレンと戦っていたのだ。
そして訓練をしていたグレンからも師の戦い方の一端が見られ、確かめずには居られなくなったのだ。
「ま、まさか…それでは君が…」
「いきなり剣を向けて悪かったな。だけど、どう言葉にしていいか分からなかったんだ」
「いや、最初こそ訳が分からなかったが、理解した。その師を思わせる剣技が何よりの証拠。どんな言葉よりも信じられる」
そう、この2人は同じ師の元で学んだ兄弟弟子なのだ。
剣を仕舞い、手を握り合う2人。
それをミラの解説を聞き理解した姫は驚きの声をあげる。
「まぁ、アクセル様はグレイおじ様の事をご存知なので?どうりで何処か面影があると……で、ではネーラお姉様のことは!?し、失礼しました。魔法使いネーラ様のこともご存知で?」
「ん?あぁ、魔力の使い方を教わった先生で、母親だ。………そうか、ここが2人のいた国だったのか……」
遠い目をしながらそう呟くアクセル。
「悪い。時間取らせちまったな」
そう言いながら戻ってくるアクセルと共に再び王宮を進む。
武具の準備にはまだ少し時間がかかると、王宮の一室でお茶をすることになったのだが、そこにグレンも同行し色々とアクセルと話し込んでいるようだ。
グレンは師であるグレイと名が似ていることがきっかけでよく目をかけてもらい、鍛えて貰ったそうだ。
そして今ではこの国の中でもエリート中のエリートであるドラゴンナイトの団長にまでのし上がっているのだ。
マリー姫も幼少の頃からこの王宮に指導にきていたグレイに可愛がって貰ったそうで、剣士様、おじ様と呼び慕い、
そして同じくこの国お抱えの魔法使いであったネーラにも可愛がってもらっており、お姉様と呼び慕っていたそうだ。
しかし2人の悲惨な最後を伝えると、姫やグレン、キッサマまでもが涙を流し嗚咽を漏らす。
落ち着くまで静かに待っていたアクセルだが、突然席を立つ。
「ちょっと、待ってろ……」
アクセルはそういうと時空間を使い姿を消した。
「え?き、消えた?……」
そんな姫の驚きの声の直後、アクセルは1本の杖と短剣を手にして再び姿を現した。
「これは先生の杖だ。こっちは師匠から貰った剣を俺が使い潰して短剣に加工した。師匠の剣は俺の剣として新たに生まれ変わったからな、この短剣しかなかった」
理解が追いつかない様子の姫達だが、アクセルは構わず言葉を続ける。
「師匠と先生の持ち物で残ってるのはこれだけだ。これは2人の故郷であるこの国に返す。でも、身体は探さずゆっくり眠らせてやって欲しい。俺達がちゃんと埋葬したから…」
「たしかにこれはネーラ様が持っていた杖……剣の方は私では分かりませんが、確かに受け取りました。そして、アクセル様の申し入れも承りました」
涙を再び流す姫がそう告げる。
「………悪い!やっぱり俺は城が苦手だ。外で待ってるよ。ミラ、後は頼んだ…」
アクセルはそう告げると城を後にする。
突然のことだったが、それを追う者も、咎める者もおらず、武具の準備が整うまでの少しの時間、静かな時間が流れた。
その後、1番の目的であった武具の準備が整ったと連絡を受け、案内された場所に向かうと圧巻の光景が広がっていた。
そこにはソニアの真紅の鱗とは違い、少し黒ずんだ深みのある赤の鱗で作られた全身鎧や剣、槍、弓などが綺麗に並べられていたのだ。
当時はまだ寄せ集めの集団でしかなかったであろう為、一流の職人が手がけた訳ではないと思われるが、それでも存在感が際立っていた。
そんな武具に近寄り、静かに触れようとするソニアを、警備の者がとめようとするが、それを姫が制する。
「お父様………」
ゆっくりと時間をかけ見て回ったソニアが戻ってくると頭を下げたあと、口を開く。
「ありがとう、あれは間違いなく父から作られた物だ。幼い私でも覚えているあの感触……どうかあれらを大切にしてあげて欲しい。父の友人が築き上げたこの国を護る力として……」
こうして目的を果たし、別れを惜しむ姫とは王宮で別れ、アクセルを探すと、王宮を出た所にある、王都を一望できる城の広場で佇むアクセルをすぐに見つけることが出来た。
「ソニア、悪いな。最後まで付き合ってやれなくて…アイツら見てると昔を思い出しちゃってさ…」
「いえ……」
「不思議だよな…なんの繋がりもない俺を探し出し、育ててくれた2人の故郷…その故郷を作るのに協力したのがソニアの親父さんで、今、俺達は一緒に旅をしてるんだ…」
全員で街を見下ろしながら、しみじみとアクセルが口にする。
「俺はさ、お前達だけは奪われないようにって、ずっと考えてた。でも色んな繋がりが出来てきた今、繋がりのあるやつだけでも…救いを求めてるやつだけでも、その差し出された手を引っ張ることが出来るんじゃないかって思うんだ……だから無理もするし無茶もすると思う。考えが足りないこともあると思うけど、これからも手を貸してくれよ」
「無論だ」
「勿論」
「当然です!」
「はは、ありがとな!本当に俺は人との繋がりに恵まれた………全てを救うなんて俺には出来ない。でも出来た繋がりくらいは大事にしていきたい……これから先も」
それぞれの想いを胸に夕陽に染まる街並みを眺める4人だった。
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