98話 ちょっと寄り道
ガラット国の王都に向かう為、中央大陸に戻ることになった。
そして現在はゆったりと優雅に空の旅を楽しんでいる。
アクセルが時空間を使えば中央大陸に戻るのも一瞬なのだが、何故かソニアが皆を背に乗せ飛びたいと言い出し、ドラゴン姿になったソニアに乗っての移動となった。
さらに最初は超が付くほど高速で移動していたのだが、せっかくの空の旅だ。
移りゆく景色を楽しみたいと敢えてゆっくり飛んでもらっている。
しかし、ゆっくりといってもドラゴンにとってはの話だ。
それなりの速度は出ている為、普通であれば空気抵抗をまともに受け、立つことは疎か、呼吸すら困難な状況だが、ソニアの背はそれがまるで感じられず、まるで部屋の中にいるかのように会話もでき、とても静かだ。
そんなソニアの首の付け根に仁王立ちのアクセルは、流れ行く景色を楽しみながらも、当然の疑問を口にする。
「なぁ、やっぱり空気の力を感じないのはソニアが何かしてるからか?」
「えっ!?いえ、わたしは、その……」
ソニアは出発前ミラから魔法のことは明かさない方が良いと言付かっていた為、アクセルの直球な質問の返答に困惑していた。
「あぁ、ミラに何か言われたか?もう無差別に魔法を消したりはしないから大丈夫だぞ?まぁ、戦闘の時はそうはいかないけど、お前達のことは信頼してるからな!」
「は、はい!私の周囲に風の力を巡らせています。ドラゴンの嗜みというやつでしょうか……」
ソニアは嗜みなどと言っているが、実際はその巨体が超高速で空気を切り裂きながら移動するのだ。強靭な肉体を持つドラゴンには関係ないが、周囲には爆音が鳴り響く。
そんな煩わしい音を消す為ドラゴン達は、魔法で自身の周囲に風の力を巡らせているのだ。
「へぇ!お前風の魔法も使えるだな……前に属性調べた時は火と光だったろ?まぁ、ドラゴン特有の力ってこともあるか…」
「特に意識したことはなかったのでなんとも……あ、見えましたね」
そんな会話をしているとあっという間に中央大陸が見えてきた。
ソニアはかなり高度を上げて飛んでいるため、人の目につくことはない。
そして人気のない場所にソニアは降り立つと、口々にソニアに礼を言い皆も地面に降り立った。
そしてここからはアクセルの時空間で移動だ。
ガラット国に行く前に少し寄り道をする予定なのだ。
行き先は職人達の街、フォルジュだ。
長らく旅をしてきた為、剣の整備をドランに頼もうとしていたのだ。
それとは別にもう1つ目的もあった。
ドランの元を訪ね、北大陸のお土産を担保とし整備を依頼した後、各々が街の散策を始める。
この街は職人達の街ということもあってなかなか面白い物が日々作り出されている。
魔道具や日用品、武器や防具に魔改造が施され、あっと驚くような物が数多くあるのだ。
もちろん中には失敗作も混じっている。
そんな商品を扱う露店通りにきたアクセルはある商品が目に止まる。
「なぁ、これって何する道具だ?」
「お?兄ちゃん、いい目をしてるな!これはシャベルだよ。だが、こうやって持ち手を分離して折り畳むことが出来るんだ。持ち運びも楽だぜ?」
そのシャベルは持ち手が3つに折り畳むことができ、さらには分離も可能とこの世界では画期的な発想ではあるのだが、見るからに失敗作だと分かる。
持ち運ぶことを目的としている為、持ち手の強度が足らず、さらには精密な設計などされていない。
まだ発展途上の段階なのだ。
「なるほど……変形と分離、合体か……」
現代の一昔前なら男なら飛びつく単語を呟くと、発想を気に入り、参考とする為そのシャベルを購入し、目的の物を探し始めた。
目的の物とはズバリ、調理器具だ。
ソニアは光る魚を食べ、食を絶った後、美食への興味を一層深めた。
それは食材だけに留まらず、調理法にまで至り、自ら美食を生み出すことに心血を注ぐようになったのだ。
そんなソニアのために調理器具を揃えようとソニアを除く3人で話し合っていたのだ。
そして仲間内では道具に関する知識はアクセルが1番だということになり、現在に至っている。
そして目星を付けていた道具を買い込んだアクセルは、その後も露店を巡る。
取り扱う品が武器へと変わり、それらを見て回る。
これもアクセルの趣味の1つとなっているものだ。
そして露店の端まできたアクセルだが、そこでカタナを置いている店を見つけた。
その露店にはそのカタナ1本しか商品はなく、他の物が売れたというより、カタナ1本しか商品を出していないように思える。
店番であろう、少し幼さが残る女性に声をかけ、そのカタナを手に取って眺めてみる。
鞘に仕舞い、再び女性に声をかける。
「なぁ、これ作ったの、あんたか?」
そう聞かれた女性はどこか気落ちした様子を見せた後、静かに頷いた。
この女性にとってこの質問はとても嫌なものだった。
その答えを聞いた客は皆が肩を落とし去っていくのだ。
「………そうだ!ちょっとこのカタナ貸してくれよ。すぐ返すからさ!あ、持ち逃げとかじゃないぞ?代わりに俺の大事な剣を預けるから!な?良いだろ?」
そう捲し立てるアクセルに圧倒され女性が頷くのを確認したアクセルはそのカタナを持ってドランの元に駆け込んだ。
「じっちゃーーん!!!これ、見てくれ」
アクセルの剣の整備の準備をしていたドランにそう声をかける。
少し機嫌が悪そうにブツブツと文句を言いながらも、手渡されたカタナを見るドラン。
「ふん、まだまだナマクラじゃな!東大陸から流れてきた武器だろうが、ワシにもそれくらいは分かる」
「そっか!!」
そんなドランの返答に反し、アクセルは笑顔でそれを受け取り、突拍子もないことを言い出した。
「なぁじっちゃん、弟子とろうぜ」
「なんじゃと!?」
「じっちゃん前にそれっぽいこと言ってたろ?」
「ワシは都合のいい小間使いが欲しいだけじゃ!!」
「はいはい、じゃすぐ連れてくるからな」
まるで会話になっていないようだが、そうでもない。
ドランは性格は気難しいが、武器には紳士に向き合っている。
ドランがホントに出来の悪い物を見た場合、鼻で笑うだけで何も言わない。
小言をいうくらいにはあのカタナの出来を認めているのだ。
それをアクセルは分かっていたのだ。
そして女性の元に戻ってきたアクセルはカタナを返し、代わりに自身の剣を受け取った。
「なぁ、あんた名前は?」
「ナズナ……と言います」
「ナズナか。俺の剣を見てどうだった?」
「有り得ない…というのが正直なところです。とても扱えるような出来ではないと。しかし、同時に完成されているように思える。他の者が使えばナマクラ、持ち主である貴方が使えば名剣となるような…」
「流石だな!率直に聞くが、これを作った人の弟子になる気はないか?ドランってじいちゃんで、気難しいからな、今決断して欲しい」
「……ま、まさか竜人ドラン様…そんな御方の弟子になる機会に恵まれるとは…………いきます!!!」
その返事を聞き、共にドランの元に向かう途中、家族の有無などを質問したが、ナズナも相当な跳ねっ返りで、鍛治の腕を磨く為、数年前に単身故郷の東大陸を飛び出しフォルジュを目指した。
そして色々と良縁に恵まれ、フォルジュにたどり着いたそうだ。
そしてドランの元に着くと早速ナズナが名を名乗るが、ドランは視線だけを向けると何も言わず、剣の整備についてアクセルと話し始めた。
割と真剣な話であった為、茶化すことも出来なかったアクセルだが、突然ドランがナズナに怒声を浴びせる。
「小娘、茶くらい用意せんか!」
「は、はい!只今!!!」
それを見たアクセルはこれなら問題ないと思い、話に集中する。
「じゃワシは作業に入る。そこに剣を置いて数日、時間を潰してこい」
そういうとドランは作業場に姿を消していく。
「はは、ナズナ、これから頑張れよ」
「で、ですが……」
「言ったろ?気難しい爺さんだ。嫌なら怒鳴り散らしてここに足を踏み入れさせたりしないさ。あれこれ指導もしてくれないと思うから、しっかり見て盗めよ」
「はい!」
こうして半ば無理やりに近い形でドランに弟子が誕生したのだった。
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