八話 知恵を求めて
その時は刻々とやってきていた。
何も思いつかずただ座っていただけの葛葉は絶望していた。
「……何も思いつかないって」
所信表明。いっそのこと頑張りますだけでもいいかとトチ狂い始めるが、やはり理性が働きそれは却下される。
「そこまで深刻に考えなくてもよいのではないか?」
その様をずっと見ていた鬼丸はため息混じりに呟いた。
その言葉に葛葉もう〜んと呻くが、それが果たして許されるのか。
「この国の人達が私に何を望んでるか、それが分かれば……」
漠然としたものではなく確固たる思いの何かを。
英雄に求めるもの、葛葉が叶えられる物と叶えられない物、それを把握して、寄り添うことが最善だろう。
「そんなものはなくとも、うぬの今までの活躍があれば文句はなかろう?」
「……鬼丸。活躍だけじゃ人は安心しないよ、人が本当に安心するのはそれが自分の目で見て事実だったって知れた時」
他者からの情報を丸ごと信じる人はそうそういないだろう。自分自身で得た情報ならば人は信じる。
得た情報をそのまま丸ごと信じるのは思考放棄に等しい。それは人ではない、家畜ですらない。
「別に目じゃなくてもいい。耳で、鼻で、感覚でも。遠い所で私が活躍しても、人は安心しない。でも今日、私は目の前で話す機会がある。そこで人は判断するの」
安心できる存在なのか、と。
今日が無ければまたいつか、目で信じさせればいい。
どちらかと言うと葛葉的にはそっちの方が楽なのだ。
「……葛葉様。恐れ多いですが、"目標"を伝えるものいいのでは?」
「あー確かにそうかもね。―――あ、でも、私……」
五十鈴の提案にパチンと指を鳴らす葛葉だったが、ハッとして、今自分の目標がないことに気がついたのだ。
正確には無くなることに気がついた。
今、葛葉が持っていた目標は英雄になること。それは今日で完遂される。その次がまだ定まっていないのだ。
いつしか決意した成り上がりも、民衆には何一つ関連性がない。故に「成り上がります!」なんて言った所で民衆としては「ふーん、で?」としかならないのだ。
「目標……かぁ」
英雄にはなれる。なら次に目指すべきは?
「英雄としての新しい目標……」
英雄は何を成す? 人々は英雄に何を求めた?
「ごめん、五十鈴。使用人さんを呼んできて」
ハッとして葛葉は五十鈴へそう頼むのだった。
唐突に頼まれたとしても、五十鈴は嫌な顔せずにその頼みに応えるのだった―――。
―――葛葉が答えを求めたのは歴史。
今までの英雄の成し遂げた功績と人々が求めた英雄達。
それは必ず記録に残る。
その記録はこの世界ではデータとしてではなく、文献として残っているはずだ。
歴史書、または英雄譚。それらが保管されている場所は勿論、図書館など。
そして五十鈴に頼み使用人に尋ねてもらった結果、王城には王立全書宝物殿と言われる、貴重な本、文献を保管する書庫の様なものがあると。
そこに早速葛葉はやってきていた。
命名式まで残り数時間。
答えは得られなくても、ヒントだけでも得られれば良い。
そんな心持ちで葛葉は扉を開けるのだった。
「―――!」
扉を開けて中に入ると、そこには東京ドーム並みの広さの図書館の様な光景が広がっていた。
本棚の数も桁違いに多く、その本棚にもびっしりと端から端まで埋められていた。
「……凄い」
叡智の間と名付けても問題なさそうなほど、知識の塊である本だけの空間。
本の独特な匂いも尾行を心地よくくすぐってくる。
居心地が大変良い。
そしてそんな部屋の中心、段構造となっているドーム上の中心に、ポツンと佇む本の壁。
葛葉はそれが気になり、一番下まで行ける道を探った。するとすぐ近くに下の階に続く階段を見つけた。
躊躇なく、葛葉はその階段を降りていった。そしてまた階段を見つけ降りる。それを四度繰り返し、一番下の階層にまでやってきた。
より一層本の匂いが強まり、本棚に収まれている本の表紙や背表紙は古くなっていた。
「……」
それらに目移りしながらも葛葉は一番下の階層の中心にまでやってきた。
本の壁を訝しげにジロジロと見ながらその周りを歩いていたその時。
「っ」
本の壁が途切れ、壁の向こうが見えたのだ。
そして壁の向こうにあった景色は、一糸纏わぬ少女の姿だった。
不健康とも思えてしまうほどの白い肌に、細い四肢。
長くボサボサの髪だけが、その肌やその他諸々を隠してくれていた。
一目見て咄嗟に隠れた葛葉は状況が謎すぎて、混乱していた。
「―――誰」
がそんな時、透き通る様でか細い声が発せられた。
葛葉はゴクッと固唾を飲み込み、隠れていた場所から恐る恐る出るのだった。
真っ裸の少女と葛葉は対面した。
「……あの、私は」
「鬼代葛葉。新しい【英雄】。やっと来たのね」
と挨拶でもしようかとしていた葛葉よりも早く、少女は見知っているかの様に葛葉のことをジロリと見やった。
「待っていたのよ。あなたをずっと、待っていた」
気が付けば少女は葛葉の身体に手を添えてきていた。
上目遣いで葛葉のことを見てくる。
「私の名前はアカシックレコード。ワールドアーカイブ。があるけど、あなたにもこう呼んでほしい」
微笑みを浮かべ囁く様に、
「イライアス。知恵者って」
名を名乗った。
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