第15話 飲むな、貼れ! 発想の転換
ステラが、帰っていった後。
俺の工房は、
再び、静寂に包まれた。
だが、
その静寂は、
以前のものとは、
少しだけ、その質が、
異なっているように、感じられた。
それは、
次なる、創造への、
期待に満ちた、
心地よい、静けさだった。
(ポーションは、重くて、
戦闘中に、飲む暇がない…か)
ステラの、
あの、切実な言葉が、
俺の、頭の中で、
何度も、リフレインする。
それは、
この世界の、
冒険者たちが、
当たり前のこととして、
受け入れてきた、
構造的な、欠陥だ。
薬は、飲むもの。
その、固定観念。
だが、本当に、そうだろうか?
(違う…)
(有効成分を、
体内に、届ける方法は、
なにも、
経口摂取だけじゃないはずだ)
俺の、脳が、
前世の、研究者のように、
高速で、回転を始める。
経皮吸収。
皮膚から、
直接、薬剤を、浸透させる技術。
前世では、
痛み止めや、
禁煙補助剤などで、
当たり前に、使われていた、
ドラッグデリバリーシステムだ。
それさえ、あれば。
軽くて、
嵩張らず、
そして、
戦闘中でも、
一瞬で、使用可能な、
全く、新しい、
革命的な、回復アイテムが、
作れるはずだ。
「よし…!」
俺は、
素材棚へと、向かった。
プロジェクト名は、
『ヒーリング・パッチ開発計画』。
俺の、職人の血が、
再び、激しく、騒ぎ出す。
材料は、四つ。
一つ目は、
先日、ステラへの応急処置でも使った、
『止血草』。
その、血液凝固作用は、
実証済みだ。
二つ目は、
別の、薬草である、
『癒やしの葉』。
これには、
細胞の、再生を促す、
効果がある。
三つ目は、
パッチの、外側を覆う、
防水性の、シート。
これは、
薄くて、丈夫な、
植物の皮を、加工して作る。
そして、
この計画の、
最も、重要な、心臓部。
それが、
四つ目の、材料。
ギルドで、手に入れた、
『メディカル・スライム』の、粘液だ。
鑑定によれば、
この、特殊なスライムのゲルには、
薬剤を、
皮膚の、深層部まで、
効率的に、浸透させる、
特殊な、効果があった。
俺は、まず、
工房内に、
即席の、クリーンルームを、作る。
チリや、ホコリは、
精密な、化学合成の、大敵だ。
次に、
それぞれの薬草から、
有効成分だけを、
魔力を、使った、
特殊な、蒸留法で、
高純度で、抽出していく。
そして、
いよいよ、
メディカル・スライムの、
ゲルの、加工だ。
人の肌に、直接触れるものだから、
PHバランスの調整は、
慎重に、行わなければならない。
俺は、
数種類の、植物の灰を、
微量ずつ、加えながら、
ゲルが、
完璧な、弱酸性になるよう、
精密に、調整する。
最後に、
その、ゲルベースに、
抽出した、二種類の薬効成分を、
絶妙な、バランスで、
混合していく。
温度管理を、徹底し、
魔力を、通しながら、
ゆっくりと、撹拌することで、
三つの成分は、
完全に、均一な、
美しい、半透明の、
ハイドロゲルへと、
その姿を変えた。
俺は、
完成したゲルを、
防水性の、植物シートの上に、
薄く、
そして、均一に、塗り広げ、
それを、
使いやすいように、
小さな、正方形に、
切り分けていく。
全ての工程が、
完了した時。
俺の目の前には、
何十枚もの、
緑色に、輝く、
美しい、絆創膏のような、
パッチが、
静かに、並んでいた。
キラーン! ✨
・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
【ヒーリング・パッチ Ver.1.0】
Rank:C-
分類: 回復アイテム(消耗品)
解説:
「飲む」という常識を覆した、革命的な湿布型回復薬。
傷口に貼るだけで、有効成分が皮膚から直接浸透し、迅速な治療効果を発揮する。軽量で携帯性に優れる。
付与効果:
出血停止(中)
創傷治癒(小)
痛覚緩和(小)
疤痕抑制(微弱)
・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
(できた…!)
(これさえあれば、
駆け出しの冒険者の、生存率は、
飛躍的に、上がるはずだ…!) ٩( 'ω' )و
俺は、
完成した、ヒーリング・パッチを、
数枚ずつ、
丁寧に、葉っぱで包み、
小さな、小包を、作った。
問題は、
これを、どうやって、
ステラに、渡すか、だ。
また、
あの、気まずい思いをするのは、
もう、ごめんだ。
(……そうだ)
(直接、会わなければ、いいんだ)
俺は、
工房の、外に出ると、
俺の、テリトリーの、
その、入り口にあたる、
大きな木の、根本に、
一つの、仕掛けを、作ることにした。
雨風に強い、
オーク皮ボードで、作った、
小さな、箱。
俺と、
外の世界を繋ぐ、
たった、一つの、
『森の、郵便受け』だ。
俺は、
その、郵便受けの中に、
ヒーリング・パッチの、小包と、
『試作品です。よかったら、使ってください』
とだけ書いた、
短い、メモを、
そっと、置いた。
これで、いい。
これなら、
俺の、平穏は、守られる。
そう、
この時の、俺は、
まだ、信じていた。
自分の、ささやかな発明が、
これから、
どれほどの、波紋を、
広げていくことになるのか、
知る由も、




