第10話 鑑定眼が暴く『欠陥』
ステラが、帰っていった後。
工房には、
再び、いつもの静寂が、戻ってきた。
だが、
俺の心は、
嵐が、過ぎ去った後のように、
ざわついていた。
(……疲れ、た……)
人と、話す、という行為が、
これほどまでに、
精神力を、消耗するものだとは。
俺は、
月光草のベッドに、
どさりと、倒れ込み、
大きく、息を吐いた。
シズが、
そんな俺を、心配するように、
ベッドの傍らまでやってきて、
俺の頬を、
ぺろり、と舐めた。
「…大丈夫だよ、シズ」
「ただ、ちょっと、
慣れないことを、しただけだ」
俺は、シズの、
ふさふさの頭を、優しく撫でる。
その、柔らかな毛の感触が、
ささくれだった、俺の心を、
少しだけ、癒してくれた。
しばらく、そうしていたが、
ふと、
先ほどの、ステラの姿が、
脳裏に、蘇ってきた。
彼女が、使っていた、
あの、装備。
(確か、剣と、革鎧だったな…)
俺は、鑑定眼で見た、
彼女の装備の、情報を、
記憶の中から、呼び起こしてみる。
そして、
その、詳細なデータに、
改めて、目を通した瞬間。
俺の、全身の血が、
沸騰するような、
激しい、怒りの感情に、
支配された。
【粗悪な鉄の剣】
Rank:F
解説:不純物が多く、焼き入れも不均一。
ナマクラ同然で、すぐに刃こぼれする。
重心のバランスも、極めて悪い。
【継ぎ接ぎの革鎧】
Rank:F
解説:硬化した革を、無理やり繋ぎ合わせたもの。
防御力は、皆無に等しく、
無駄に重いだけで、動きを阻害する。
縫い目から、簡単に裂ける。
「…………なんだ、これは」
俺の、口から、
自分でも、驚くほど、
低く、
そして、冷たい声が、
漏れ出た。
「ふざけてるのか…?」
これは、ひどい。
ひどすぎる。
おもちゃの、方が、
まだ、マシなんじゃないか。
こんな、
ゴミ同然の、ガラクタを、
『装備』と称して、
うら若き、駆け出しの冒険者に、
売りつけるなんて。
これは、もう、
詐欺を、通り越して、
『殺人未遂』に、等しい。
俺は、職人だ。
モノづくりの、端くれだ。
だからこそ、
許せなかった。
作り手の、
魂も、
誇りも、
使用者への、配慮も、
何一つ、感じられない、
こんな、粗悪品が、
この世に、存在していることが、
我慢ならなかった。
(あの子は、
こんな、ナマクラ一本で、
あの、ゴブリンの群れと、
戦っていたのか…)
俺の、内気な性格など、
どこかへ、吹き飛んでしまった。
代わりに、
胸の、奥底から、
職人としての、
どうしようもない、
義憤と、使命感が、
燃え上がってくる。
(……ダメだ)
(こんなもの、
使わせておくわけには、いかない)
俺は、
ベッドから、勢いよく起き上がった。
幸い、
ステラは、
礼儀正しくも、
俺が、応急処置で切り裂いてしまった、
革鎧の、腕の部分を、
「修理の足しにしてください」と、
工房に、置いていってくれていた。
その、素材サンプルさえあれば、
俺の、スキルは、
最高の、答えを、導き出せる。
(勝手に、やることになるが…)
(文句は、言わせない)
これは、
お節介でも、
親切でも、ない。
ただの、
職人としての、
意地と、プライドの問題だ。
俺の目に、
いつしか、
モノづくりに、没頭する時の、
いつもの、
鋭い光が、宿っていた。
「最高の、装備を、
作ってやる…!」
俺は、
作業台の上に、
ギルドで、買ってきた、
一番上等な、鉄のインゴットと、
最高品質の、魔物の皮を、
ドン、と置いた。
静かな、辺境の工房で、
一人の、職人の、
魂を懸けた、
最高の、モノづくりが、
今、始まろうとしていた。




