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魔法使いの名付け親  作者: 玉響なつめ
めでたしめでたし。そのさきへ!

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 可紗の毎日は忙しい。

 将来に悩み、進路に悩み、そして恋に悩みと大忙しだ。


 その間にもおしゃれがしたくなることもあるし、友達と出かけたりだってしたいのでアルバイトだって欠かせない。

 進路を決めてからはそれに加えてより勉強をしなくてはならない。

 

 それでも、充実した日々を送っていると誰もが言うに違いない。

 ただ、少し彼女が他の同級生と違うことといえば、両親がいないこと。

 代わりに、祖母ではないけれど優しい保護者の元で生活していて、不思議なことに美貌の執事がいたりするところだろうか。


 その人が何者か尋ねても、可紗は笑うだけだ。

 

「あの人はね、私の名付け親なのよ。魔法使いみたいになんでもできちゃうの」

 

 今日も可紗は緑色のリボンで髪をひとまとめにして、玄関先で大きな声をあげる。

 今年の春には、他人の家のようにしか思えなかったのに彼女にとってそこはもう〝帰るべき家〟であり、そこに住まうジルニトラとヴィクターは家族であった。

 

「いってきまーす!」

 

「はいはい。三ツ地のボウヤによろしくね」

 

「あんまり遅くなるんじゃないぞ。夕飯前には帰れ」

 

 将来目指したいものを見つけた可紗は、担任とジルニトラを交え、相談し、いくつかの大学を視野に勉強をしている。

 塾の夏期講習も考えたかったが、それこそ出遅れてしまって申し込みは間に合わず、今は必死に学校で教師たちが行う補習授業などに参加していた。

 

 夏休みに入ってからは、交際相手でもある汀と勉強会を開いて日々努力を重ねている。

 二人の交際はとても順調そのもので、周りからは祝福されていて幸せいっぱいであった。

 

 ジルニトラは彼らの交際について特になにを言うでもなく、むしろ応援してくれているようだ。

 同時に、可紗が心配していた三ツ地家側も大歓迎だと聞いて目を丸くするばかり。

 

 名家というのに気さくなのだなあと可紗が零したところ、汀は苦虫を噛みつぶしたような顔をした。

 実は、どうにも女っ気のなかったために彼の性癖がアブノーマルなのではと案じられていたらしい。

 汀にとって可紗には聞かせられない話であったが、マオがこっそり教えてくれた。

 

「可紗さあん、いらっしゃあい!!」

 

「あれっ、マオちゃんも今日は一緒に勉強会?」

 

「はいですう、坊ちゃんが宿題終わらせないと遊びに行くなって言うんですう! 横暴!!」

 

 ぷうっとふくれっ面をしてみせる猫耳少女が抱きついてくるのを受け止めて、可紗は頭を撫でてやる。

 そうすればマオは満面の笑顔だ。


 そしてその後ろから、汀が呆れた様子で歩いてきて可紗に向かって笑みを見せる。

 だがすぐにマオに向かって厳しい顔を浮かべ、軽くげんこつを落とした。

 

「誰が横暴だ。お前が毎年やらなくて、毎回夏休み最終日に泣きついてくるんだろうが」

 

「うう……」

 

「今年はぼくも受験生なのだし、計画通りにきちんとやってもらうからな」

 

「坊ちゃんのばあかばあかー! そんな意地悪だと可紗さんにあんなことこんなこと教えちゃうんですからねえー!?」

 

「おまえなあ……!」

 

 一時期とはいえ噂になったことのある二人は、可紗からしてみるとまるで兄と妹のような関係だ。

 幼い頃から顔を合わせている二人なので、そのことを告げると彼らもその通りだと頷いていた。

 主従というよりは、幼馴染みや兄妹という関係が近しいのだという。

 

(……まさかこんなに仲良くなれるなんてなあ)

 

 汀とお付き合いを始めてから勉強デートを重ねるうちに、可紗はマオともすっかり打ち解けていた。

 三ツ地の家に遊びに行くときには、必ずといって良いほどマオが可紗の横を陣取るモノだから、汀が不満を覚えるほどだ。


 彼女に言わせれば可紗の横は大変温かくて心地良いとのことで、よくわからないが可紗としても後輩に慕われるのはくすぐったいながらも素直に嬉しい。

 

 夏休みに入ったことで当然、宿題だって出ている。

 マオはどうやらあまり成績が芳しくないらしく、祖母である真白に叱られている様子を見て汀が手を貸すことにしたらしい。


 そのため、勉強会にもこうして混じっているというわけだ。

 

「でもでもお、坊ちゃんってば厳しいんですよ可紗さん! だから、マオは可紗さんに教えてもらいたいですう……」

 

「可紗は自分の勉強が忙しい。邪魔をするなら真白さんに伝えて家庭教師でも呼ぶようにしようか」

 

「そ、そんなああ~……」

 

 半べそをかきながらマオが尻尾を可紗の腕に絡ませ、その背に隠れるようにしている。呆れたようにため息を吐く汀とそんなマオに挟まれて可紗は笑った。


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