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魔法使いの名付け親  作者: 玉響なつめ
第五夜 魔法使いの弟子

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 続きはまるで思いつかない。

 思いつかなければ、書けない。


 そうなるとあの女の子に、どう言えばいいのだろう。

 特に約束らしい約束をしたわけではないのだから、もう神社に寄らなければそれでいい気もする。


 だけれど、それでいいのだろうか。

 そんな中途半端で、いいのだろうか。

 

(あの子は、期待してるのに)

 

 続きを書かないことも、あの場へ行かないことも、どちらを選んでもそれはあの子の期待を裏切る行為だ。

 あの女の子の笑顔が可紗の頭の中でちらついて、胸が苦しくなる。

 

 だが、書けないものは書けないのだ。

 

 そもそも、自分には夢を語る資格なんてない。

 目を背けておきながら、逃げ道にしか思えていない状況で、そんな中途半端なことを彼女自身が許せなかった。

 ただ小さな子どもに求められて書くだけだ、それだけの話ではないかと笑う人もいるだろうが、可紗には大切なことだった。

 

 なら素直に書けないと頭を下げればそれで済む話でもあるのだろうが、可紗はそれを言いに行く勇気が持てなかった。

 中途半端に期待させ、喜ぶ姿を見てしまったことであの女の子をがっかりさせるのがとにかく怖い。

 

(行かなくても、……行かなくても、がっかりさせちゃうのに)

 

 結局のところ、自分が怖いだけなのだ。


 中途半端に言い訳をしても隠しきれない本音に、他でもない自分が気づいてしまえば苦しくてたまらない。

 可紗は、自己嫌悪からどんどんと抜け出せない悪い思考の連鎖に嵌まっていた。

 

 いけないと思うものの、止められない。

 

「……あれ?」

 

 そんな中、家の前に立っている人物がいることに気がついて可紗は足を止め、ぎょっとする。

 僅かに後ずさったが、引き返す前に相手は彼女のことに気がついて視線を向けていたのでそれはできなかった。


 僅かに空が茜を帯びてきた中で、立っていたのは汀だ。

 

 このところ、避けてしまっている自覚がある可紗は居たたまれずに俯いた。

 

 メッセージアプリへの返事もおざなりで、委員会活動も目を合わせない。

 放課後は彼に会わないように即帰るようにしていたし、なんだったらウルリカに足止めだってお願いしたくらいだ。

 

 さすがに汀も彼女が避けていることに気がついているからこそ、こうして直接会いに来たのであろうことは想像に難くない。

 

「可紗さん」

 

「……汀くん」

 

「少しだけ、いいかな」

 

「う、ん……えっと、うん」

 

 可紗は近所の人の目もあるし自分の部屋に招くべきだろうかと考えて、ヴィクターのことが頭にちらついてなにも言えなくなった。

 それをどう受け止めたのかわからないが、汀は近づいてきて可紗の手を取ると、彼女が来た道を戻り始める。

 

「え? み、汀くん?」

 

「立ち話もなんだから、神社に行こう」

 

「え、う、うん……」

 

 当たり前のように手を繋いで歩く彼に、可紗は戸惑いを隠せない。

 

 この期に及んで逃げると思われたのだろうか、それとも別の意図があるのだろうか。

 どちらにせよ彼女にはわからず、かといって手を振り払いたいとは思えず、ただ大人しく彼と手を繋いで歩く。

 

 ヒグラシの鳴き声の、あのカナカナカナと独特の鳴き声に、茜色に染まっていく空に、家路を急ぐ人々の声が混じり合う。

 そんな人たちと逆行するかのように歩く自分たちが、まるで世界のどこかから切り離されている存在のようで、可紗はじわりと寂寥感を覚えた。

 

(……ばかみたい)

 

 道を歩く彼らと同様に、逆の方向へ進む人もいれば同じ方向を歩く人もいる。

 それは当たり前のことだ。


 道に限ったことではない。

 可紗は世界から切り離されてなんかいない。

 

 周囲に人がいることであったり、将来へ向けてだったり、色々それを証明しているではないか。

 少なくとも、彼女はいつだって独りではなかった。

 

 母親を亡くしたとき、一人になった可紗の寂しさに、友達が寄り添ってくれた。

 恐怖に打ちひしがれたとき、ジルニトラとヴィクターが現れて肩を抱いてくれた。

 未来への話をクラスメイトたちがしているときも、仲間はずれなんてことはない。

 

 そして女の子が、可紗の夢を、褒めてくれた。

 

 今だって、こうして避けている情けない自分に会いに来てくれる人がいる。

 可紗はそれらを思って唇を噛みしめる。

 

(本当、バカみたい。私、どうして)

 

 だというのに、可紗の中に生じたこの寂寥感は一体なんだというのだろう。

 彼女は自分の考えを否定したくて、きゅっと唇を強く、強く噛みしめたのだった。


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