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魔法使いの名付け親  作者: 玉響なつめ
第五夜 魔法使いの弟子

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 むかしむかし、あるところに、かわいいおんなのこがいました。

 おんなのこのなまえは、まほうつかいがつけたものです。

 でも、おんなのこはまほうつかいにあったことがありません。


 どうしてだろう?

 おんなのこはかんがえました。

 そしてまほうつかいにあうために、でかけることにしたのです。

 リュックにおべんとうとすいとう、それにおやつをいれておんなのこはげんきいっぱい!

 とちゅうでおばあちゃんのいえによって、おみやげのアップルパイももちました。


 はるのもりで、ようせいさんにあいました。

 まほうつかいさんをしりませんか?

 でもようせいさんは、しらないといいました。かわりにおはなをくれました。


 なつのもりで、にんぎょさんにあいました。

 まほうつかいさんをしりませんか?

 にんぎょさんも、しらないといいました。かわりにおはなをくれました。


 あきのもりで、へびさんにあいました。

 まほつうかいさんをしりませんか?

 へびさんもしらないといいました。かわりにおはなをくれました。


 ふゆのもりで、こうもりさんにあいました。

 まほうつかいさんをしりませんか?

 こうもりさんもしらないといいました。かわりにおはなをくれました。


「……そして、女の子はしょんぼりとしながら、道を進みました……」

 

 女の子の旅立つシーン、春夏秋冬の森を色鮮やかに描き出していたそのスケッチブックは、次のページを(めく)ると真っ白だった。


 スケッチブックがパタンと閉じられ、そこまで声に出して読み続けた可紗が、ふうと一息つく。

 そして恐る恐ると言った様子で隣に座り、大人しくしていた女の子を見た。

 

「……ごめんね、ここまでなんだ」


 時間が足りなかった。

 それは当然だ、突然書けといわれて完成させるまで時間があまりにも少ない。

 

 しかし、それだけではなかった。

 

 少なくとも、可紗にとってこの物語の、このシーンまではすらすらと思いついて、絵だって思い通りに描けた。

 だがそこまでだ。

 そこからぱたりと、なにも思いつかなくなってしまった。


 可紗の頭の中であれこれと浮かんでは消えて、書いても描いても追いつかないほど溢れていたスケッチブックの中にできあがる世界が、ぷつりと消えてしまったのだ。

 

「すごいね!」

 

「……え?」

 

「すごい! すごい!」

 

 本当に途中までだったから、女の子の反応がわからず戸惑う可紗は興奮する様子により混乱した。

 だが、わかるのは女の子が喜んでくれている、それは確かなことだった。

 

 そのことに気がついて、数拍置いてじわりと頬が熱くなった。

 そしてそれを見られたくなくて、可紗は俯いて膝の上のスケッチブックをぎゅうっと握りしめた。

 

「よ、喜んでくれたなら、良かったよ……」

 

「うん! おねえちゃん、続き、楽しみに待ってるね」

 

「え?」

 

 そうだ、続きはない。

 

 女の子からすれば〝まだ〟続きができあがっていない、そう思うだろう。

 

 しかし実際はそうではない。

 時間が足りなかったことよりもなによりも、可紗自身に問題があったのだ。


 女の子がいくら楽しみにしてくれても、可紗にはこの続きを思いつくことができない。

 続きを、そして終わりを思い描くことが、できない。

 なにかが足りない。


 しかしそれがなにかわからなくて、手が止まったまま。

 

 それを目の前で喜びを全身で表現する女の子に伝えられずに、どうしたものかと迷った瞬間、女の子はベンチから飛び降りるようにして駆け出していた。

 

「じゃあ、またここで待ってるね!」

 

「えっ、あっ!」

 

「またね!」

 

 出会ったときと同じように、あっという間に姿を消してしまった女の子に可紗はただ呆然と、伸ばした手を力なく下ろすだけだ。

 

 一方的な約束。

 いつ、なんてわからない。


 あの女の子は『またここで』なんて言ったが、あの子はいつまで待つのだろうか。

 

 可紗には、続きが書ける気がしないのに。


 しかしいつまでもそこで呆然としているわけにも行かず、可紗はとぼとぼと歩き始めた。

 

(どうしよう、どうしたらいいのかな)

 

 スケッチブックは、手に持ったままだった。


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