94.彼女の正体……!?
お待たせしました。
ではどうぞ。
“脚:重剣豪の黒長靴”
それが、もう一度灰グラスを装着したうえで彼女を見て、分かった内容だった。
他のサングラスや手袋は特別な装備などではなく、普通に市販のものだろう。
「余計に無視できなくなったな……」
「うん、だね」
状況が真剣なものになると、リヴィルは普通に俺との受け答えをしてくれるらしい。
うむ、別に仲違いしていたわけではないが、良かった良かった。
今夜は柑橘系ジュースでも開けて、祝杯ですな!
……いや、ウソウソ。
流石にそれは無いな、うん……。
さて。
先ずはアイツに意見を聞いてみないと……。
『…………わ、わーい、嬉しい! 新海君からのプレゼント、大事にしますね!』
織部は今正に届きたてホヤホヤのコート、下着、ブーツ、そしてガーターベルトを抱えて引き攣った笑みを浮かべていた。
だが俺の隣にルオがいるのを見て、何とかそれを崩さず、笑い通して見せたのだ。
……俺はこんな力のない笑みを浮かべながらの“わーい”を初めて聞いた気がする。
織部……無茶しやがって……!
「……いや、それよりも済まないな、突然通信することになって――ああ、それと、以前言っていた手土産の一回目のサンプルも、送っといたから。後で意見をくれ」
『わぁぁ……これ、“神官服”!! それに、これは別の職業の衣装ですね!』
織部には以前目に留まった巫女服をと思って用意していた。
サラが手にしているのは女神官のコスプレ衣装だ。
織部だけに送るってのもちょっとどうかと思ってたし、そちらも買っておいたのだ。
それに、何か巫女と神官って通ずるところもあるだろうし、いいかなって。
今回は衣類をプレゼン・プレゼントしてみたが、次回以降は食料とかも提案してみるつもりだ。
『と、とても嬉しいです! 今にも着て、飛び出していきたいくらい――で、でもでも! 新海君が突然連絡してくるわけですから、何か急ぎの理由があるんでしょう!!』
織部はお礼の言葉もおざなりに、とりわけコート等へは話がいかないよう食い気味になって急かしてくる。
……いや、勇者関係の話にもいかないよう気を配って欲しいんだが。
「……ご主人、リヴィルお姉ちゃんが言ってたけど、カンナお姉さんはご主人みたいに特別なアイテム? を持ってるんだよね?」
うぐっ。
ほらぁぁ……。
「えーっと……うん、まあ、そうだな」
だから、今から織部に意見を聞こうと思ってるんだが……。
でも、今この場にはルオ以外にも、リヴィル、ラティアが揃っている。
そんな中ルオだけに外れてくれというのは如何にも怪しまれるし……。
しまったな、あの流れから皆で織部と話を聞こうってのはちょっとマズったか?
「――ってことは……もしかして、カンナお姉さんって、実は結構凄い人、だったりして」
ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!
核心んんんんんんん!!
『え!? い、いえ!! 私なんて大した者じゃないですよ!! ちょっと色んなことに興味があるお年頃なだけで……む、胸! 胸もパッドを付けるくらいですよ!? “虚”構の“乳”と書いて“虚乳”な女ですし!!』
織部、そんな自虐までして、くっ!!
「でも……」
「――織部ぇぇぇ! 今すぐ贈ったコートとかを着て見せてくれ! 織部のいやらしい服装をした姿を見たいんだ!! 今すぐに!!」
もはや力業だった。
ラティアが一瞬ポカーンとした後に妖艶な笑みを浮かべて見せたとしても、そんなもん知らん。
『わっ、分かりました!! 私も、下着の上にコートだけ羽織った姿を新海君に見てもらいたいです!! 今すぐに!!』
織部も何か物凄い必死だった。
俺もあんまり人のこと言えないけど、織部って勢いだけで何とかしようとする部分、結構あるからな。
隣でサラが恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせているのにも気づいていない。
そして画面越しに俺と目が合うと、サラは『キャッ――』と言って顔を逸らすのだ。
……織部、俺たち、失ったものは大きいな……。
『…………』
いや、そんな“私は元々失う程持ってないですから”みたいな胸の自虐を交えた視線いらないから。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『……うーん、なるほど。確かに、怪しいですね、この子』
着替え終わって、お披露目会を微妙な空気で過ごした後。
リビングにてあの録画した番組を織部達にも見せていた。
ちなみに……その織部は普通にコートを羽織った姿だったが、誰もツッコミはしない。
ツッコんだらとてもシュールな状況になると、皆が理解しているからだろう。
「ああ、俺が見た限りだと、ちゃんとした奴だった。“重剣豪の黒長靴”って奴」
『ふむ……私の“老魔術師の白手袋”。新海君の“極アサシンの灰グラス”。そしてこの子の“重剣豪の黒長靴”ですか』
織部は真剣な眼差しで、テレビ画面に映る彼女だけを見つめている。
ってか、同じく画面には幼馴染の立石が映っているのに、特に反応はなし。
……一応、聞いておくか?
「えーっと……もう一つ、何か、気づくことって言うか、思うことは、無いか?」
『はい? うーん……』
織部は更に食い入るようにしてDD――ダンジョンディスプレイへと顔を近づける。
ただ、丁度立石が質問に答えるためにアップで映されると、あからさまに織部は顔をしかめたのだった。
『もう……新海君、さっきのところまで、巻き戻してもらってもいいですか?』
「お、おう……」
ア、アカン。
もう完全に織部の目はあの少女ただ一人に注がれてしまっている。
立石のことなんて頭に入ってない。
……スマン、立石よ、俺も努力したんだが……。
『……あれ? すいません、ニイミ様、この方、確か“男性グループ”の一員、ということでしたよね?』
そこで、少し控え目ながらも同じく映像を見ていたサラが、何かに気づいたというように質問してきた。
「……だな」
『え!? サラ、まさかもう気づいたんですか!? ちょ、ちょっと待ってください、もう少し、もう少しで多分私も気づくんで……』
いや、これ別に早押しとかそういうのじゃないから。
しかも俺が意図した立石のことから完全に離れちゃってるから。
『この方……もしかして、男性ではなくて、女性じゃないですか?』
サラはエルフだ。
男性も女性も共に優れた容姿をした種族なだけあって、中性的な外見をした相手は見慣れているのだろう。
それで、もしかしたらビビッと来るところがあったのかも。
『嘘っ!? えっ、この人、女の子なんですか!? 花パラ!? イケメンパラダイス!?』
織部……何かリアクションがアホっぽくないか?
織部の逆井化も進行中か……。
そのうちコイツ等、互いに互いへと接近して合体しちゃったりして……。
うん、ごめん、意味不明だね。
この問題の子が女の子だということが分かって一騒動あり。
それが収まると、いよいよ彼女がどういう人物なのかが分からなくなってくる。
意見を求められた織部は深く思考するために、画面向こうで俯いて黙り込む。
俺たちも正にその織部の考えが聞きたいのだから、急かすようなことはせず待っていた。
念のため、あの録画番組は点けっぱなしにして、該当コーナーが終われば巻き戻す。
そんな時だった。
『――おや、話し中だったか、これは済まない』
『あっ……シルレ様』
織部達の部屋に、ノックがあり、シルレがそこに入って来たのだ。
シルレは直ぐに状況を察する。
出迎えに扉へと向かったサラに、出直そうかと問うた。
だが、俺へ挨拶だけでもと思ったのだろうか、シルレは扉からこちら――織部へと近づいてきた。
正にその瞬間。
『――え? ……“アズサ”?』
シルレが、こちらを、DDを見た一瞬。
そこには、今、問題となっている彼女が画面越しに映っていて。
信じられないといったようなシルレの声が、その口から漏れたのだった。
明日はおそらくお休みすると思います。
体調面で少しお休み入れた方がいいかな、と思いまして。
流石に世間であんな感じですから……。
用心するに越したことはないかと。
すいません。




