83.今後の大まかな方針を聞こう!
お待たせしました。
では、どうぞ!
「――で。そっちも何か話すことがあるんだろう?」
冷静さを取り戻した織部は、コホンと仕切り直すように咳をして肯定する。
『はい。私達のこれからの大まかな行動方針を伝えておこうかと思いまして……』
そうして間を取り、俺の後ろを覗き込むようにしてキョロキョロしだした。
「何だ? 何か探してるのか?」
『えっと……ラティアさん、いますか? できればラティアさんにも聞いて欲しいんですが……』
ほう、珍しい。
織部とラティアは何か仲が良いのか悪いのか良く分からない関係性だからな。
だから織部自らがラティアの同席を求めるっていうのは、ちょっと意外だった。
「ん、多分大丈夫……ちょっと待っててくれ」
確か俺が部屋に戻る前は、リヴィルとルオと一緒にリビングで録画のアニメを見ていたはず。
だが、もしかしたらもう自室に行っているかもしれない。
さて、どっちだろうな……。
俺は椅子から立ち上がり、先ずラティアの部屋から訪ねたのだった。
自室に戻っていたラティアを連れて、部屋に入ってもらった。
“時間があれば、俺の部屋に来て欲しい”と告げると頬赤く染め、どこかそわそわとしていたのだが……。
「…………なる、ほど」
DD――ダンジョンディスプレイを見て、一瞬で我に帰ったようになり、状況を理解。
珍しく苦虫を噛み潰したような表情をして、織部を見た。
『え~っと……すいません』
えっ、何で織部はラティアに謝ってんの?
貴重な時間を邪魔して悪かった、的なこと?
……まあいいや。
「ほれっ、ラティアも来たから、本題に入ろうぜ」
「『…………』」
ちょっ、何で二人して黙るかね!?
そして揃って微妙な視線で俺を見るし!!
やっぱり君ら二人仲いいでしょ!?
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『ゴホンッ――私達は、今後力を合わせていくに伴い、新たに協力者を募ることにした』
切り替える意味もあってか、シルレが改まって空咳をし、場を仕切り始める。
『具体的には、ここから一番近い“魔族”の治める町へと向かうことになります』
シルレの言葉を受け、サラが話を進めた。
「魔族、か……」
なるほど、だからラティアを呼んで欲しかったのか。
助言というか、意見というか、その場に居て何かあれば言って欲しいってことかな。
『はい。シルレが国王様から正式な親書を託されたんだと、要するに和平の使者みたいな感じですね』
「とすると……織部やサラはそれに付き添う形でいくってことか」
『そうなるかと、まあ準備もありますし、少し先の話になりますが』
ふむ……。
魔族が統治する町とは言え。
“町”は“町”だ。
織部がその町に訪れることになれば、“Isekai”の方もまた充実することに繋がる。
特に反対したり、疑問を入れることもない。
そう一人で完結していたのだが。
「あの……それは、どこの町、でしょうか?」
出席を請われたラティアが、少し緊張気味になりながらもそう尋ねた。
突然の発言にあちら側が一瞬言葉に詰まる。
「その、場所によっては、期待するだけ無駄だというような攻撃性の強い魔族や、あるいは魔王が直接統治している町も、ありますので」
その空気を敏感に感じて、ラティアが慌ててフォローするように発言を付け加える。
すると、流石に町一つを治めるだけあって、シルレが素早く対応してみせた。
『ああ、いや、大丈夫。君の気遣いは十分察した。うん、その点は私も気を付けている――向かう場所は“ヴァル”だ』
シルレの言葉を聞いて、ラティアは安堵するようにホッと一息。
俺の方に顔を寄せ、それがどういう場所なのかを手短に教えてくれた。
……良い匂いがフワッと香ってくる。
ちょ、近い……。
「魔族の中でも、一番人族に対して融和的な方が治めている町です。冒険者だったり、あるいは難民も積極的に受け入れていて、善政を敷くと有名でした」
ラティアの言い方は、自分が元々住んでいたところにまで聞こえてくるんだから、それくらいとても良い町なんだ。
そんなニュアンスが、無意識ながら含まれているような気がした。
それは、何だか自分の暮らしていた場所は正反対のところで……みたいに聞こえてしまう。
……考え過ぎだろうか。
「――まあつまり、シルレが大使みたいな感じでそこに行って、協力を結ぶ、と?」
頭を切り替える意味で、今までの話を噛み砕いて口にしてみる。
『私もそう言う認識です――えと、大丈夫でしょうか?』
自分もそう捉えていいのだろうかと、サラは隣の織部に不安そうにして尋ねた。
『え、そう……ですよね? すいません、私もちょっと自分の立ち位置が不安になってきました』
「…………」
織部ぇぇぇ。
若干ポンコツ臭が消せてないぞ。
『まあそこまで気を張る必要はないさ――私達は楽でいいんだよ。先発隊として、私以外の別の“五剣姫”が一人向かっている』
シルレはそう言って織部達にも優しく教えるように、詳細を語ったのだった。
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「ふむ……」
とりあえず、俺達に聞かせたのは情報を共有するという意味もあるが。
要するに織部的には何か土産を持参したいと。
シルレに付随する勇者として、更に自身に特別性を付与したい、ということだな。
俺がするのはだから、こちらの何か良さげな物を転送すればいいと。
『すいません、毎度毎度で。変なお願いばかり……』
「いや、気にすんな。今に始まった事じゃ――」
『――え、何ですか?』
鈍感系主人公スキル!?
いやいや!
特定の話題だけ敏感に反応し過ぎてて、最早、敏感系主人公になってる!!
ってかそれも何か卑猥な言い方でダメだ!!
「……気にする必要はないぞ、俺と織部の仲じゃないか」
別にニッコリ微笑んだ織部の圧力に押されたとか、そんなんじゃないから。
あの笑顔の裏に物凄い怨念みたいな超常の力を感じたとか、そんなことないから!
『わっ、私と、新海君との……関係!!』
『…………はぁぁ』
……え、何、サラ?
何でそんな恨めしそうな顔して見てくるの。
「……ご主人様、順調ですね!」
そしてラティアは何でそんな嬉しそうな声音をして見てくるの!?
織部は織部で、『キャァァ!!』とか『梨愛に何て言ったら――』とかボソボソ言ってるし……。
収拾付かない……。
『……フフッ。ニイミは罪な男だな』
「……冗談は良いから」
俺は一番纏める能力があるだろうシルレをジト目で見て、どうにかならないかと暗に伝える。
そんな俺を見返して、シルレは軽く肩を上げる仕草をした。
“やれやれ……”みたいな感じで、ちょっと腹立つな……。
『では、話を変えようか――丁度ニイミに伝えたいことがあったんだ』
「俺に?」
何だろう……。
シルレが表情をキリっとさせ、真剣な様子がこちらにまで伝わってくる。
それが周りにも伝播するように、織部やラティアも居住まいを質した。
それを確認するように間を置いて、頷いたシルレはゆっくりとまた、口を開いた。
『伝えたいのは彼女のこと――そう、“ルオ”という名の……。彼女の過去について、私が出来る限り調べ分かったことを、君に伝えたい』
すいません、感想の返しはお昼か、それか次話の更新後に行おうと思います。
ちょっと今日も早めに寝ようかと思うので……申し訳ありません。
ご愛読いただきありがとうございます!
感想もちゃんと読んではいますので今しばらくお待ちください!
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