398.前哨戦(ぜんしょうせん)だな。
お待たせしました!
本日より更新再開いたします。
ではどうぞ!
「どうだ、ラティア、そっちは大丈夫か?」
自宅のリビングで、スマホに向けて語り掛ける。
机上には、いつもなら自室からは持ってこない、教科書類や参考書などがあった。
今家にいるメンバーだけでこの部屋に集まっているため、勉強道具も持って降りて来ていたのだ。
今日行われるダンジョン攻略の趣旨からして、俺が心ここに在らずで勉強に集中出来なかったでは意味がない。
それで、何とか待つ間にノルマを無事に終わらせたのだった
『はい。問題ありません。皆様各自、準備もバッチリということです』
「マスター。ルオ達も大丈夫っぽいよ」
スマホからラティアの声が聞こえた直後。
リヴィルが自分の持つスマホ画面をこちらに見せてきた。
テレビ通話状態で、見えたのは閉鎖された工場跡。
そこに知り合いが多く集まっていた。
『お館様っ、ロトワ、いつでも行けるであります!!』
『ボクもボクも! ご主人、ボクも全然大丈夫だよ!!』
ロトワとルオの二人が元気に画面の向こうでアピールしていた。
いや、行けるって言われてもな……。
二人はラティアとは違って、待機部隊の方なんだけど。
「あぁ、えっと、おう、まああんまり頑張り過ぎずに頑張ってくれ」
何と言っていいか分からず適当な感じになってしまう。
それでも満足したのか、二人はチームを纏める空木に代わる。
『あ゛ぁぁ~……』
「おいおい、地獄の亡者みたいな声がしてるぞ」
画面を覗き込むようにしていたレイネが、空木の異様な声に顔をしかめる。
レイネも、俺やリヴィルと同様に、自宅待機班だ。
ルオ達と入れ替わりに現れた空木は、声そのままにこちらを恨めしそうに見てきた。
『お兄さんは良いですねぇ、自宅から高みの見物ですか』
「……何だよ、突っかかってくんなよ。自主参加だって聞いたぞ? ってかお前もロトワたちと一緒に待機だろうに」
もっとも待機は待機でも、俺と空木とではその待機 場所が違うが。
『どうせウチ達がヒィコラ言いながらダンジョンと格闘してるとき、お兄さんはお姉さん達をヒィヒィ言わせながら夜の格闘に勤しむんでしょうね』
「……へぇ、フフッ、そうなんだ。私達、マスターにヒィヒィ言わされるんだね」
「はぁっ!? えっ、ちょっ、はぁぁっ!?」
……いや、ただの空木のダラけ絡みだから。
リヴィルは悪戯な笑みしてこっち見ない。
レイネも、ソワソワしないの。
……ってか空木、働かないといけない時の絡みが、完全に酔った時のオッサンだな。
下ネタ混じりのウザ絡みになる。
よくこれでトップアイドルの一員が務まるものだ。
「……空木、椎名さんがお前の方を見て――」
『――おっと! ウチ、これからルオちゃんやロトワちゃんと最終確認をしないといけないんだったー! ってことで、お兄さん、ウチはずらかるんで!』
俺に最後まで話させず。
空木は物凄い機敏さを見せて画面外へと逃げて行ったのだった。
……その対応のがむしろ椎名さんの怒りを買いそうなんだが、良いのかそれで。
画面端に映った椎名さんが、空木の逃走と同時に消えたことは見なかったことにして……。
『――あっ、ご主人様、リヴィルにレイネも!』
俺のスマホと、リヴィルのスマホ画面から、同時に同じ声が届いた。
ラティアだ。
画面のラティアは自分のスマホを持って、画面に手を振っている。
どちらも若干声が反響しているためか、何だか変な感じに聞こえた。
こちらも振り替えし、簡単にこの後のことを確認する。
「じゃあ、頼むな。何かあったら――いや、ありそうな兆候が出た時点でいい。こっちに知らせてくれていいから」
『はい。かしこまりました――あっ、リア様っ!』
ラティアがチラッと振り返った後ろ――画面外から、呼ばれた本人がやって来た。
『ラティアちゃん、改めてよろしくねっ! ――おっ!? あっ、新海じゃん! ヤッホー!』
今日のダンジョン攻略の主役となる逆井だった。
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『あー、その、えっと、うん。――今回は本当に、ありがとね、新海。ワガママ聴いてもらってさ』
こうして、正面からいきなり感謝を述べられると、どうにもむず痒い。
「……まあ俺は高見の見物だ。現地で何かをするのは主にラティアだし。それに、こっちもこっちで試せることもある。お互い様だ、気にするな」
半分気遣い、半分本音という感じで応える。
ただそれを悟られるのも面倒なので、素早く話を変えた。
「それで……さっきからチラチラ映ってたが、そこが今回の“ダンジョンの入り口”か?」
古びた小さな工場跡。
過去にそこで何かの製造業を営んでいたと分かる形跡は殆どない。
錆びている小さな機械が幾つか残されていて、それ以外は空洞が目立った。
その地面と垂直に、ダンジョンへと繋がるだろう穴が存在していた。
『ん? ――あぁ、これね! うん、そっ! これの中に入って、で、強い奴を倒せば、多分OKっぽい!』
軽いなぁ……。
逆井の反応に思わず心配になってくる。
「“強い奴”って、やっぱりボスでしょ? ラティアもいるとは言え、大丈夫かな……」
リヴィルも同じ心配に行き当たったらしい。
『あぁ~やっぱりボス戦かな? まっ、それは直前まで来たら新海に確認取ってもいいんだよね? ――あっ、そうそう! もう今から入るから、最初だけは“切り替え”とく?』
矢継ぎ早に繰り出される疑問点に、何から答えたものかと思ったが、最後の確認事項が最優先だと直ぐに判断する。
「ああ、そうだな。最初は俺の方から繋げるけど……基本型はそっちが何かあった時に連絡してきて、こっちで判断するって感じだからな?」
そう言いつつ、先ずはラティアと繋いでいたスマホを切る。
次に、リヴィルとルオのスマホで出来ていたテレビ通話も終了してもらった。
「んで、っと――」
DD――ダンジョンディスプレイを取り出した。
そして通信を繋げる。
相手はいつもの織部――ではなく。
『あっ、繋がった繋がった。――OK、問題ないよ!』
その親友――つまり、逆井だ。
今回は逆井や赤星達が共有するDDとの通信なのである。
「DPもタダじゃないからな。中に入って、お互いに通信が確認出来たら切ってくれ。で、こっちの判断を仰ぎたい時にまたかける。……それで問題ないな?」
『ん。りょっ!』
“了解”の“りょっ”らしい。
いや、省きたいのはDPだから。
言葉をそこまで省エネしなくてもいいから。
若者、特に女子やギャルはどうしてここまで会話や言葉を短くすることにエネルギーを注ぐのか。
逆に注ぎ過ぎで、元のそのままで話す以上のエネルギー割いてて収支マイナスなってない?
そう言う頑張り所を間違えるのが黒歴史とかに繋がるんですよ、気を付けてね……。
「赤星に皇さんも同行メンバーだし、逆井の強さも俺は知ってるつもりだ。それに今回のダンジョンは“精霊直轄”そのものじゃない……はず。だから大丈夫だとは思うが……」
そこだけは断言できなかったので曖昧な表現となるも――
『――大丈夫だパコッ! ここは、パコ以外に精霊の気配は感じないんだパコッ!!』
DDを通して、俺とレイネだけが聞き取れる声がした。
逆井、そしてラティアの後ろに漂う様にして浮く、愛の精霊だ。
『まして“イフリート様”のダンジョンだったら、パコが感じないはずないんだパコッ! パコパコォォ!!』
今回、単に逆井が俺達の協力を得るだけでなく。
俺達も実験的なことを試すため、この愛の精霊には、ラティア・逆井について行ってもらっていた。
今も、俺の推測を根拠あるものにしてくれて有難い限りだが……。
“感じない”とか“パコパコ”とか。
どうしてこう一緒に使われると反応に困るワードのチョイスをするかね。
「? ……マスター?」
「いや、何でもない」
リヴィルに心配され、首を振って何でもないと応じる。
……しかも、聞こえてるのは俺とレイネだけ。
「隊長さん、えっ、どうかしたのか?」
「いや、だから大丈夫、何でもない……うん」
そして聞こえてるはずなのに、今の精霊の言葉に問題が含まれている可能性など疑ってすらいないという感じ。
このレイネの反応ですよ……。
「――あー、うん。だから、とりあえず、気を付けて。何を置いてもまずはそれだ」
実際にダンジョンに同行するわけでもないのに、俺一人だけが凄く微妙なメンタルになってしまっていた。
それを無理くりにでも脇に置いて、逆井達を送り出す。
『ん! ありがとう。――じゃ、出発するね!』
逆井は緊張を含みながらも、落ち着いた笑顔で応えた。
そして、大精霊に挑む前の前哨戦となるダンジョン攻略が始まったのだった。
昨日、私事を終わらせてきました。
疲れた……。
ただやり切った・手ごたえを覚えていた後の心地いい疲労感そのままに眠りにつける、そう思っていたら……。
――蚊!!
もうね、全然眠れませんでした……(絶望)
耳元でプゥ~ンッという音を何度も何度も!!
とりあえず全面戦争を勝ち抜き、緊急対策本部を開き、アースノー〇ット先生に出動頂く運びとなりました。
今年もタフな戦いになりそうです……(悟った顔)
活動報告、沢山の激励のお言葉ありがとうございます!!
必ず時間の空いた時に返しをしますので、しばしお待ちを!!




