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359.写真か……。

お待たせしました。


ではどうぞ。




「あっ、美味しい……」


「ですわね……うぅーん、落ち着く香りが鼻から抜けて行きます」



 ラティアとルオが、紅茶の入ったカップを優雅に置く。

 確かに、少し苦味も感じるがそれが程よく、フワッと抜ける香りと相まってとても美味しく感じられた。

 


「フフッ、ありがとうございます。良かった……お気に召していただけたようで」



 側に立っている少女がホッと胸を撫で下ろし、はにかみながら喜ぶ。 

 クラシックなメイド服に身を包んだ、高等科の女の子だった。


 

 ウチや赤星達の学校で言う喫茶店、この学院風に言うとカフェにお邪魔していた。

 幾つか部活動の展示コーナーを見た後の小休憩として立ち寄ったのだ。

 

 広い運動場を見渡せる位置に、10を超す清潔な白テーブルが置かれている。

 学院内は盛況で沢山の人が入っているはずなのに、このカフェ付近は静かな落ち着きで満ちていた。

 俺達以外にも客はいるはずなのに……不思議だ。


 

「メイドさん、皆可愛らしくて素敵ですし。とても良い場所ですね」

  

 

 ラティアは笑顔を向けてくる。

 ……えっ、俺に聞いてるの?



「メイドさん可愛いですし、良いですよね……」


 

 ……やはり俺に聞いているらしい。

 と言うかメイド推し凄いな。


 大事なことだから2回言ったのだろうか。

 でもここで俺が同意したら“メイド服の女の子お可愛ぁぁぁぁ!!”と思ってるみたいに取られない?



「えーっと、そうだな、うん。落ち着くし、ゆっくりできるのも良いな」



 スタッフさん達には言及せず無難に返しておいた。

 


「ありがとうございます。……皆さん、これからどちらへ向かわれるか、ご予定などはお決めに?」



 俺達の担当メイドさんは、注文したケーキやドリンクを持ってきた後も、こうして話し相手をしてくれている。


 この子だけがサボっているとかではなく、要するにこれもサービスに含まれているということだ。


 一組一組、お客さんをしっかりとおもてなしする。

 そうした御嬢様学院ならではの精神みたいなものが感じられて、こちらとしても凄く居心地が良かった。



「ん~。(わたくし)達、特に決めていません。気の向くまま、楽しめればと考えています」



 ルオが姿はオリヴェアのままに、言葉に上品さを纏わせて答える。

 それが相手にも好感を抱かせているのか、メイドの少女は終始笑顔だ。



「そうですか! では僭越(せんえつ)ながら、オススメはですね……」 



 こうして可愛い女の子と楽しそうに会話しながらお茶を楽しめる。

 それでいていかがわしさを感じさせず、品のある時間となっていた。


 メイドさんの方も、俺達との時間を楽しんでくれているのが大きいのかもしれない。 

 特にオリヴェア姿のルオ・ラティアの存在はデカかった。


 

 これ、俺だけがヒッソリ一人で訪れた場合を想像して欲しい。

 ボッチで、陰気そうな男がたった一人で、メイドさんが給仕するカフェにやってくる……。


 

 うん、絶対間が持たないね。

 と言うか下手すると、メイドさんとのおしゃべりから警備員さんとのおしゃべりに強制チェンジするかもしれないな。



「……後は、やはり何と言っても花織様――志木花織様が出演される演劇は、始まる前から大人気ですよ」



 脳内で空想を展開していると、知っている名前が出て現実に引き戻される。

 ただ知っているからと言って相手が相手だけに、大きな反応をすることは出来ない。

  


「……へぇぇ。勿論お名前は存じてますが。演劇は今日、ですわよね? 始まる前からとなると……凄いですわね」



 ルオのオリヴェア言葉に未だむず(かゆ)さみたいなものを覚えつつも、会話を黙って聞いておく。


   

「はい! 私達は女子高ですので、演劇は男性役も女子が務めます。それで、花織様が男性役をされると言うことで、もう学内だけでも凄い大騒ぎに――」



 ほう……。

 要するにかおりん、(あずさ)化したってよ、ってことか。



「なるほど。カオリ様程にお綺麗な方ですと、男装もお似合いになるでしょうね」



 ラティアが理解を示すと、少女も嬉しそうに頷き返す。



「はい! ですので、一番大変だったのはヒロイン役を決めることだったと伺っております。裏ではそれはもう、一つしかないイスを巡り、語るのも(はばか)られる血みどろの戦いが繰り広げられたとか」

      

 

 多少の誇張も混じってるだろうが、それもこちらを楽しませようとする気遣いの一つだと感じた。

 


 それにしても、流石だな……。

 同性からの人気も絶大ということか。


 志木もアイドル活動をするまでは女子と接することの方が多かっただろうし――



 ……はっ!

 今、重大な事実に気付いてしまった!!


 

 志木程の美少女でアルティメットなスペックを持つくせに、どうして男っ気の欠片(かけら)も感じないのか……。




 ――つまり、かおりんは百合百合ってことですな!!


 

 

 まあ女子高通いってことで全然あり得る話だし、俺は別に良いと思うけどね。

 可愛い女の子同士がイチャコラしてるのを見るのもまた趣深し。


 

 本命は……ふむ、逆井辺りかな?

“かおりん”の名付け親でもある訳だし、仲いいもんね、あの二人。

 

 

 

 俺はまた世界の真実の一つに辿り着き、そっと胸に仕舞い込んだのだった。 

 

 

□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆   



「ご主人様、学園祭、とても楽しいですね」


「ああ、そうだな」


 

 学院巡りを再開し、様々な出店や出し物を楽しんだ。

 多くの場所でこの学院の特色、上品さや優雅さを感じられて、時間を忘れる様に歩き回っている。


 

 茶道部で抹茶や和菓子を食べたり、彼女らが普段使っている食堂を見せてもらったり。

 華道なんかは細かいことは分からなかったが、花が人の意思の下に並べ、飾られる姿はそれだけで壮観だった。


 ああ後、御嬢様学院だから無縁だろうと思っていたが、ゲーム部なるものがあったのには驚いたな……。



 この学院でもシーク・ラヴはやはり大人気だ。

 その中でも空木のファンで、奴に影響を受けてゲームに触れたいと思った子達が集まり、新しく今年の4月に出来たと聞いた。


 ……何故一番近くにいて模範となる志木や皇さんではなく、御嬢様とは無縁の空木に惹かれてしまうのか。


 何かファンの間ではその空木の謎の引力を“ツギミー沼にはまる”と表現するらしい。

 ……何だそりゃ。



「旦那様。(わたくし)達、全員、スタンプが全て貯まりましたので、景品を頂きに行きませんか?」



 ルオが弾むような声で一枚のカードを見せてきた。

 そこには6つの四角い枠があり、全てに可愛らしいスタンプが押されている。


 ルオのその仕草は、まるで学校で賞状を貰って一目散に親に見せる子供のように無邪気だった。


 それをオリヴェアの姿でするのだ。

 大人の色香も混じりだした見た目で、警戒心なしのそんな挙動に流石にドキッとする。

 

 むむっ……リヴィルの“気を付けろ”という忠告はこのことだったのか?



「……フフッ。そうですね、交換してもらいに行きますか?」

 

 

 ……ラティアさん?

 何ですか今の“フフッ”は。


 目の奥に怪しい光を宿してませんでしたか?


“まあ、ご主人様、これしきのことでオロオロなさって。微笑ましいですね、フフッ”ってことですかい?   

 


 むぅぅ……リヴィルの“気を付けろ”は、実はラティアの“黒ラティアに気を付けろ”ってことなのかもしれない。



  

「……だな、行くか」


 

 ラティアの無言の笑顔に秘められた攻撃をやり過ごし、俺も自分のカードを見る。 



『出し物、カフェ、演劇等、各種の催しを行っております。


 本日行われるどの企画に行っても、一つにつき1個、スタンプがゲットできます。


 そして全部で6つ貯まれば、ここでしか得られない景品と交換してもらえます!


 是非、6つ集めて、素敵な景品を手に入れてくださいね!』



 そのカードの背景には迷路があり、6つスタンプを集めた先には、蓋が開かれた宝箱が描かれてあった。


 この学院は志木や皇さんなど、探索士とも関係が深い。

 だから“ダンジョン”ともかけているんだろう。


 普段は謎に満ちている女学院の中を探索気分で歩き回ってもらうことで、少しでも楽しんで欲しいというもてなしの気持ちが心底伝わってくる。



 何を貰えるかは交換所に行ってみてからのお楽しみ。

 ということで、インフォメーションセンター近くに設けられた、交換所へと向かうことにした。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「はぁぁ……凄いですね」


「ああ。……なるほど、そりゃ“ここでしか得られない景品”、だな」



 目の前に広がる光景に驚きながらも納得し、ラティアの呟きに同意する。

 生徒相談室を借りて設えた景品交換所。


 そこには壁一面に写真が飾られていた。


 

 所々抜けというか、写真がない所もあるが、それは正に交換された跡なのだろう。


  

 そしてその景品の写真というのが――



『当学院所属のダンジョン探索士達公認! 学院生活中に撮ったお宝写真の数々が景品です!』



 つまり、志木や皇さんなどの貴重な写真がもらえると言うことらしい。

 


「あっ、こんにちは! おぉぉ……美男美女さんのグループだ。――っとと。スタンプ貯まりましたか? この写真の中からお一つ好きなのと交換します!」



 快活な少女が受付をしていて、笑顔で出迎えてくれた。

 志木と同じ制服、色も変わらないから俺と同学年だろう。


 御嬢様学校にしては活発そうな印象を感じるので、運動部にでも所属してるのかもしれない。 


 ……“美男”はお世辞で、あまり気にしない方が良いだろう。

 ラティアとルオだけ褒めて、俺だけ仲間外れにすると露骨だもんな。



「わぁぁ、素敵なお写真ばかりですね! ……本当にどちらでも構わないのですか?」


「ええ! 不動の人気はやはり花織さんですね! 体操着姿とか、授業中の真剣な表情をした一枚とか。学院外の方々にはとても好評なんです!」



 確かに、志木のスペースはかなり大きく割かれていて、それでも交換された虫食い穴みたいな跡が目立ってきている。

 それだけ人気だということだ。


 ただ部活少女は志木以外の写真も説明してくれる。

 


「律氷も手堅い人気ですし、他にもウチの学院には探索士が3人いるんですけど、この子達の写真も好評なんです!」


「へぇぇ……では私はこちらを」


 

 ルオは、皇さんが体操着で腹筋をしている一枚を選んだ。

 おそらく探索士として活躍し始める前の物なのだろう、1度起き上がろうとするだけで顔を真っ赤にして震えている様子がうかがえる。


 可愛らしいシーンだ。



「ラティアは?」


「私は……そうですね。ではカオリ様の物と交換していただくことにしますね」


 

 そう言って指差したのは、志木がエプロンをして腕まくりしている写真だった。

 おそらく調理実習か何かの時の一枚で、制服の上からエプロンを纏う志木はとても家庭的な印象を受ける。


 ……へぇぇ、志木って、こういう雰囲気も出せるんだ。

 遠い未来、もし志木と付き合う人が出てきたら、こんな志木の一面が見られるのかもしれない。


 ……ただ、その相手は男じゃなくて女性かもしれないけどね!!



「あら? これは……何かしら」


 

 そうして二人が交換する写真を選び終えると、目敏くルオが、何かを見つけた。

 それは写真ではなく、写真が飾られた壁そのものに何か違和感を覚えたと言った反応だった。



「ああ――フフッ、見つかってしまいましたか。なら仕方ありません」



 少女はそこで声を抑え、悪だくみするような笑みを浮かべた。



「ここだけの話、レア写真も取り揃えてますよ。ウヒヒッ」



 お、おぉぉ。

 この子、大丈夫かそんな笑い方して。

 

 御嬢様学院なんだから“ウフフ”とか“おほほ”とかお上品に笑わないといじめられたりしないんだろうか……。

 

  

 そんな見当違いな心配をしていると、少女は多くの写真が飾られている写真のカーテンをペラッとめくる。



 そこには更に別の写真が飾ってあった。



「あっ――これは……シイナ様の、ですか?」



 ラティアの呟きに、少女は嬉しそうに頷いた。



「おぉぉ!! ですよですよ!! ウヒヒッ、これ、超レアもので、現物限りなんです!!」



 10枚もない写真の纏まりの上に、“OG探索士関連!!”との題が付されていた。


 その枠内は既に殆どが空で、残りの写真は1枚のみとなっている。

 逸見さんの物もあったようだが、“逸見六花”と書かれたスペースは既に交換し尽くされていた。 



「…………」



 最後のレア写真は、なんと椎名さんの高校時代のものだった。

 あの志木の着ているのと同じ制服を身に纏い、初々しい姿の椎名さんが横髪をかき上げ空を見ている。


 それは映画のワンシーンを切り取ったかのようにとても綺麗に映っていた。


 椎名さんにも、こんな時代が……。

  



「……じゃあ、自分はこれにします」



 ラティア達と被らないように、という意味もあり、何かの縁だと最後の一枚を交換してもらうことに。


 

 俺は、地雷にも切り札にもなりうるような写真を手に入れたのだった。




      

多分、後2話で学園祭編は無事終われるはず……!

(※主人公が無事に終われる、とは言ってない)


ふぅぅ……。

頑張ります!

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― 新着の感想 ―
[一言] > 特にオリヴェア姿のルオ・ラティアの存在はデカかった。  一瞬ルオ・ラティアと繋げて呼んでしまってルオが淫魔の人に取り込まれてしまったのかと。 >「はい! 私達は女子高ですので、演劇は男…
[一言] 自ら地雷を拾いに行く姿、俺は一番主人公らしく見えたよ(サム8並感)
[一言] 新海さん、待てそれは切り札じゃねぇ、(自分を死に追いやる)地雷だ!
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